まえかわ・ゆたか
1951年、東京都生まれ。一橋大学法学部卒業後、東京大学大学院修了。94年、スタンフォード大学客員教授。現在、法政大学国際文化学部教授。好きな作家・映画監督は、三島由紀夫、佐木隆三、ルイス・ブニュエルなど。受賞作『クリーピー』は2月に光文社より刊行予定。
第15回日本ミステリー文学大賞新人賞
広義のミステリーで、日本語で書かれた小説を募集。受賞者には賞金500 万円が贈られる。選考委員は綾辻行人、近藤史恵、今野敏、藤田宜永。今回は前川氏、川中大樹氏のダブル受賞。
前川 裕さん
勇気を持って設定変更も!
受賞後、私がよく訊かれるのは、「初めからきちんと構成をたててから、書き始めるのですか?」という質問です。ミステリー系の小説で受賞したわけですから、こう訊く人は、当然、私がミステリーらしい緻密な執筆計画に基づいて書き始めるのだろうと思っているようです。しかし、書き始める段階では、それ程きちんとした構成が念頭にあるわけではありません。ただ、アリストテレスがギリシャ悲劇に用いた「急転」という概念だけは意識しています。プロットあるいは主人公の運命が読者の予想を裏切って、大きく転換される地点を意識することは、ミステリー小説にとっては、特に重要です。とまあ、こんな偉そうなことを大学の授業では講義するわけですが、理論と実践は別です。今度の小説もまさか受賞できるとは思っていませんでした。ただ、強いて勝因を一つあげるとすれば、ある後半の設定を破棄したことではないでしょうか。主人公が犯人に監禁される場面を作ってみたのですが、この部分を書き始めた途端に、我ながら話が見る見るつまらなくなって行くのが分かりました。しかし、勇気を持って別の設定で書き換えることによって、停滞していた筆が再び進み始め、最後まで書き通すことができました。
実は、私は八年ほど前にも同じ賞の最終候補に残ったことがあったのですが、受賞できませんでした。そのときの作品と今回の受賞作が客観的にどれほど差があるのか、私には分かりません。しかし、結果としては決定的な差があることは、確かです。それがこの公募という形式の公平さと残酷さだとも言えるのでしょう。でも、私は公平さの方を信じたいと思います。作家としては遅い出発になりましたが、去年の東日本大震災の年に受賞したことには、何か特別な思いがしています。人生のどの時点においても、新しい出発が可能だという希望を被災者の方々に与えるためにも、私が今後作家として、書き続けていくことが重要だと感じています。
(まえかわ・ゆたか)
『クリーピー』(応募時タイトル『CREEPY』) |
第23回フジテレビヤングシナリオ大賞
自称35歳以下でプロの脚本家を目指す人を対象に未発表のオリジナル脚本を募集。大賞受賞者には賞金500万円が贈られ、原則として映像化し、放送する。
宮本陽介さん
今でもモットーは「書いてから喋れ」
「シナリオって何?」と聞かれた後で、決まって「小説とどう違うの?」と聞かれます。普段、あまり人目にさらされるものではないので、ピンと来ない。それがシナリオというものです。シナリオは映像を作る為の設計図であり、映像になって初めてその使命を全うできます。
僕は決して文学が好きだったり、素晴らしい文章を書きたかったわけではありません。どちらかというと、たくさん文字を書くのは億劫だと思っている人です。ただ、テレビの連続ドラマが好きだった。あとストーリーを作るのが好きだった。だから中学の時に、脚本家という職業が存在すると知った時、これになるしかないと思いました。
きっと自分には才能があるだろうから、思い付きで書きたい時に書いていれば二〇歳までにはデビュー出来るだろうという根拠のない自信がありました。しかし、人生はそんなに甘くはなく、気がつけば二三歳。何も書いていない、夢に向かって何の努力もしていないくせに、毎日不満と不安ばかりの自分がいました。そして、ある日気付いたのです。「脚
本家になる為には、書かなければならない」という当たり前のことに。
とはいっても、書けないものは書けません。考えた末に、リハビリのつもりで日記を書き始めました。内容は「今日も何も書けなかった」、それだけです。それを二週間続けて、ようやくシナリオを書き始めることが出来ました。その時の気持ちを忘れず、今でもモットーは「書いてから喋れ」です。
脚本家になる最大のチャンス(と僕は思っていた)を掴めなかった時に、これをバッドニュースではなく、グッドニュースに変えてしまえ、と思い、がむしゃらにひと月で五本話を作ったうちの一本です。こうしてみると、自分という人間はいい意味で頭のネジが飛んでいるのかも知れません。それでも、皆があんまりピンと来ないシナリオというものが好きでたまらないので、これからも書きます。
(みやもと・ようすけ)
『君は空を見てるか』 |
ささやかではあるが幸せに暮らしていた父と娘。そんなある日、父親が事件に巻き込まれ、 "殺人者"の嫌疑をかけられる。父親は娘を連れて逃亡しながら、冤罪を晴らそうと奮闘する。
まえだ・しほ
1978年、鳥取県生まれ。京都ノートルダム女子大学卒業。家事手伝い。趣味は読書、手芸、植木の世話。好きな作家は井上靖、宮尾登美子、モンゴメリなど。受賞作『桃と灰色』は「クウネル」3 月号(マガジンハウス)に全文掲載された。
第12回 坊っちゃん文学賞
斬新な作風の青春文学小説を募集。審査員は椎名誠、早坂暁、中沢新一、高橋源一郎。大賞受賞者には賞金200 万円が贈られる。同賞は1989 年の松山市政100 周年を機に創設。
真枝志保さん
自分で読んでみたいものを書いた
同世代の作家が書いた本が書店で並べられるようになった頃、それらの表紙を目にして私はあせりを感じた。そのうち私も書こう、とのんびりと本を読みふけっている間に、この人達は行動を起こしていたことを突き付けられたからだ。ぐずぐずしてはいられない、と私は書き始めた。しかし、自分で話の筋を考え、それを文章にするということは想像以上に難しいことだった。それでもなんとか、一年に一本は作品を仕上げて様々な新人賞へ送り出すこと数年。しかし、何も反応などなかった。考えてみると、その頃に書いたものは単なる自己満足でしかなかった。全体を見渡せていなかったし、あせりがそこかしこから浮かびあがってくるような代物ではあるし、そして、どれもまったく自分が読みたいような内容ではなかった。
そこで私は、自分で読んでみたいものを書くことにした。主人公は女の子。もう一人ぐらい女の子が欲しい。彼女達は大学生にしよう。舞台は自分が学生生活を送った京都にしたいが、京都を舞台にした大学生ものは多いから別の場所にしよう。その時、思い浮かんだのが岡山だった。私の妹は岡山の大学へ進み、その時に引っ越しを手伝った私は岡山の風景をある程度は思い描くことができたからだ。ここで舞台を岡山にしたことがよかったのだと思う。主人公と自分を切り離して考えることができた。
出来上がったものに自分で目を通してみると、完全に満足できる内容ではないが、読み返すのはつらくはなかった。応募先は最初から「坊っちゃん文学賞」に決めていた。青春小説が好きな私が「坊っちゃん」を冠した文学賞を見逃すわけにはいかない。授賞式で審査員の先生方からお言葉を頂いたが、私の作品は派手なことや不思議なことが一切起こらない話ではあるけれど、つまりは逆にそこが評価されたのかと思う。これからのことはまったくわからない。けれども今回の受賞がこれからも書いていく支えとなるのは確かだ。
(まえだ・しほ)
『桃と灰色』 |
自分一人だけの世界に、他者が入り込むことが我慢できない私。しかし、冬のある日の午後、
顔見知りのアパートの住民と行動を共にすることになり、私の世界は少しだけ変化する。
バックナンバー
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- 第24回小説すばる新人賞橋本長道さん(2月号)
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- 第91回オール讀物新人賞佐藤巖太郎さん(1月号)
- 第18回電撃小説大賞九丘望さん(1月号)
- シェル美術賞2011廣田光司さん(1月号)
- 第3回朝日時代小説大賞平茂寛さん(12月号)
- 第52回講談社児童文学新人賞市川朔久子さん(12月号)
- 第33回PFF ぴあフィルムフェスティバル PFFアワード2011 北川仁さん(12月号)
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- 第2回『このライトノベルがすごい!』大賞谷 春慶さん(11月号)
- 第1回アガサ・クリスティー賞森 晶麿さん(11月号)
- 第57回 江戸川乱歩賞玖村まゆみさん(10月号)
- 第33回 小説推理新人賞小林由香さん(10月号)
- 第3回 角川春樹小説賞又井健太さん(10月号)
- 第57回 江戸川乱歩賞川瀬七緒さん(9月号)
- 第3回 さくらんぼ文学新人賞中村玲子さん(9月号)
- トーキョーワンダーウォール公募2011武田竜真さん(9月号)
- 第18回 松本清張賞青山文平さん(8月号)
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- 第31回 横溝正史ミステリ大賞長沢樹さん(8月号)
- 第54回 群像新人文学賞中納直子さん(7月号)
- 第9回 北区内田康夫ミステリー文学賞安堂虎夫さん(7月号)
- 第3回 Be絵本大賞山崎史人さん(7月号)
- 第3回TBS・講談社ドラマ原作大賞大山淳子さん(6月号)
- 第4回WOWOWシナリオ大賞福島力ツシゲさん(6月号)
- 第48回宣伝会議賞水谷俊次さん(6月号)








