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オリジナリティの出し方 2

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下村敦史×若桜木虔 WEB対談


公募スクール・文学賞別添削講座のスタートを記念して、作家・下村敦史さん(第60回江戸川乱歩賞受賞)と、連載『作家デビューの裏技、教えます!』でおなじみの若桜木虔先生とのWEB対談を実施いたします。

下村さんはデビュー前、若桜木先生の小説指南本を熟読されていたそうです。


お二人には、テーマ・ネタ選びから、キャラクター作り、取材方法など、小説を書くために必要なテクニックをお話しいただきます。ご期待ください!

 

(WEB対談について)

今現在メーリングリストで展開されている対談内容を、ほぼリアルタイムで掲載していく企画です。

発言があり次第、随時更新していきます。

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「オリジナリティの出し方」 

――読者からの質問が届いています。お答えいただけないでしょうか。
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「自分自身を投影した主人公視点の小説」で小説を書いていくのと、あえて「自分が少し理解しがたい人をモデルにした主人公視点の小説」を書いていく、どちらがデビューする上で近道でしょうか。

今現在、後者の書き方で書いてみたのですが、あくまで、その主人公の内面は、「あの人がこういうことを言っていたのは、こういうことを考えていたのかもしれない」という推測に近いです。

ですが、自分をそれほど投影した主人公ではないため、「そうそう、分かる分かる」みたいな感覚が薄く、書いている私自身が、楽しいのか、楽しくないのかよく分かりません。どこか、他人事のようで、書き上がったあとに読み返しても、あまり面白いと思えません。

デビューを本気で狙うなら、自分を投影した主人公を据えて、作品に熱量を込めたほうが近道でしょうか。
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下村:僕のような新人作家が訳知り顔で講師の真似事をしても説得力がありませんし、滑稽なことだと思いますので、技術的なことや、新人賞応募に際しての良し悪しなどは若桜木さんにお任せするとして(笑)、僕は体験談を語ろうと思います。何か参考になれば。

僕は最近、講談社から『失踪者』を出版しました。山に人生を懸けた登山家たちが登場する山岳ミステリーの第二弾ですが、僕自身は本格的な山登りの経験がなく、雪山と言えば十代、二十代のころにスキーをよく楽しんでいたことくらいでしょうか。過酷な大自然や秘境には冒険心をくすぐられ、憧れますが、命懸けで挑戦するにはためらいも大きく……世界の高峰に挑み続ける登場人物たちの気持ちが理解できているとはとても言えません。ですが、『失踪者』は読んでくれた読者さんのほとんどから絶賛をいただきました。山男同士の友情と信頼の人間ドラマが高く評価されたんです。
誤解を恐れずに言ってしまえば、〝自分が理解しがたい登場人物たち〝を描いたにもかかわらず。
それはきっと、〝自分が理解しがたい登場人物〝の中にも〝自分が理解できる感情〝があったからだと思います。

執筆のきっかけは、山で亡くなったままの登山仲間のことを語られた登山家の方が「そろそろあいつを迎えに行ってやらなきゃ」と何げなく口にされたことでした。僕も担当さんもその台詞が妙に印象に残っており、大事な誰かを雪山に迎えに行くところから始まる物語、というアイデアを閃きました。打ち合わせをしているうち、十年前に雪山で死んだはずの友人を迎えに行ってみたら、当然ながら転落現場に遺体があったものの、その遺体はなぜか数年も歳をとっていた、という魅力的な謎を思いつき、『失踪者』の設定が決まりました。担当さんと打ち合わせを重ねて試行錯誤し、アイデアに磨きをかけていく中で、友情と信頼の決め台詞などもイメージが湧いてきました。この作品をイメージどおりに書き上げられたら、推理作家協会賞候補にしていただいた『生還者』を超える山岳ミステリーになるかも! と手応えを感じ、担当さんと盛り上がっていたわけですが……躓きは思わぬ形でやって来ました。

光文社の『難民調査官』も無事に刊行され、さあ、『失踪者』のプロローグに取りかかろうとしたまさにその日。担当さんから電話があり、異動を告げられたのでした。
部署が変わってしまうため、作品を一緒に作ることができなくなります。デビュー元のデビュー時の担当さんというのは特別な存在で(新人作家にとっては初めての担当編集者ですから)、思い入れも強いです。優秀でいい人ならなおさら。
僕は講談社から一年で三作出版したこともあり、彼女とは三作分、行動を共にしているわけです。書店回り、インタビュー、トークショー、二人三脚での作品作り――。四作目の『失踪者』のプロットや、五作目のアイデアまで話していたほどでしたから、さすがに動揺しました。

『難民調査官』
光文社

『失踪者』
講談社

始めた執筆は初日で止まり、思い悩んだまま一週間。一時は『失踪者』の執筆を諦めようとさえ考えました。ですが、書けば魅力的な作品になる予感がしていたので、どうしても諦められず、悩み続け……。
これ以上悩めないところまで悩み抜いたとき、ふと思い至ったんです。今の自分の感情はまさに『失踪者』の登場人物の感情と同じではないか、と。この失意を作品に昇華できれば、感情を揺さぶるリアルな人間ドラマが描けるのではないか、と。

『失踪者』では、高峰の頂を目指す孤高の登山家が主人公と出会い、心を許して男同士の友情を育むうち、初めて他人を信頼するようになり、二人でのK2登頂を夢見ます。しかし、K2挑戦が間近に迫ったころ、就職している主人公は会社の事情で長期の休みが取れなくなります。共に夢見た頂上へ一緒に登れなくなった失意――。それは、『失踪者』執筆開始直前で担当さんが異動してしまった僕の感情と共通点がありました。僕は作中の孤高の登山家とは性格も考え方も正反対で、あんなに格好よく生きていませんし、似ているところなどほとんどありませんが、〝相棒〝を土壇場で失った感情だけは理解できました。

失意という意味では、『失踪者』の主人公たちのほうが大きいと思いますが、自分の感情を物語の中で増幅し、経験を活かして描写することで、生々しい感情が表現でき、その結果、読者さんから友情の人間ドラマ部分で高評価をいただけたのだと思います。

出版後、そんな執筆の裏話を知らない他社の担当さんからの感想で、「樋口(孤高の登山家)が主人公と一緒に登りたいと言ったように、私は編集者として、作家から書きたいと言ってもらえる存在になりたいと強く思いました」と言われたときは、作家と編集者の関係を作中の登山家同士の関係に活かしたことが『信頼』というテーマと共に伝わったように思え、嬉しく感じたものでした。
〝自分が理解しがたい登場人物〝を全く理解できないまま描くのではなく、何か一つでも〝自分が理解できる感情〝を見つけて描くことで感情移入できる人物になるかもしれません。

あっ、新しい担当さんは今度は同性の新人編集者に代わりましたが、とてもいい人で、相性も良く、信頼もしています(ちゃんと言っておかないと、『前任者への信頼が強すぎて僕では代わりになれないかも』と全く不必要な悩みを作ってしまいそうなので 笑)。

若桜木:「自分自身を投影した主人公視点の小説」で小説を書いていくのと、あえて「自分が少し理解しがたい人をモデルにした主人公視点の小説」を書いていく、どちらがデビューする上で近道か――ですが、要は、その人が、そんじょそこらにいないような人か、どこにでもいるような人か、でしょう。
選考委員は、とにかく「前例のない、あっても希有な」を求めますから、後者だったら、まず駄目です。
応募者に多い業種も駄目。教員、介護職員が、まず最右翼で、最近は医者や弁護士の応募者も非常に多い。応募者が多くなればなるほど、オリジナリティを出すのが困難になっています。
人数的には多いが、さほど応募者に多くはない業種が自衛官と警察官と麻薬取締官です。
これは、守秘義務違反すれすれのネタを出せば、オリジナリティを出せます。
自衛隊だと、『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞の神家正成さん(陸上自衛隊。『深山の桜』で受賞)、ゴールデン・エレファント賞の時武ぼたんさん(海上自衛隊。『ウェーブ~小菅千春三尉の航海日誌~』で受賞)、メフィスト賞の古処誠二さん(航空自衛隊。『UNKNOWN』で受賞)。

『深山の桜』
宝島社

『ウェーブ』
枻出版社

UNKNOWN
講談社

警察官だと『警視庁情報官』でデビューした濱嘉之さん。この人は大量に作品があるので、特に、どれとは言いませんが「ここまで明かして、守秘義務違反に問われないの?」と心配になるくらい、警察の内部事情が分かります。
メフィスト賞から出てきた古野まほろさんはキャリア警察官で、警察大学校主任教授まで勤めた人なので、「おいおい、そんなこと、バラしちゃってOKなの?」と突っ込みたくなる情報が満載です。

『警視庁情報官』
講談社

『天帝のはしたなき果実』
講談社

監殺
KADOKAWA

若桜木:「自分が少し理解しがたい人をモデルにした主人公視点の小説を書く」のは、極めて難しいです。
理解しがたい以上、技術的にリアリティを出すのが難しい。ハードルが高い。下手をすると「そういう能力を持った人が、そういう考え方を、するはずがない」という突っ込みが入ります。

例えば、シャーロック・ホームズをワトソン視点でなく、ホームズ視点で書けるか。
島田荘司さんの御手洗潔シリーズを、石岡和己視点でなく、御手洗視点で書けるか。
と考えてみると、ハードルの高さが分かります。
その結果、超絶頭脳の名探偵を出す場合には、ホームズ&ワトソン方式で書いてくる応募者が多いです。最近の受賞作だと第22回の鮎川哲也賞受賞作『体育館の殺人』(青崎有吾)が該当します。名探偵の裏染天馬は語り部ではなく、平凡な女子高生の袴田柚乃が語り部の視点主人公。

体育館の殺人
東京創元社

御手洗潔のメロディ
講談社

シャーロック・ホームズの事件録』
ハーパーコリンズ・ ジャパン

この方式を採用した場合に陥りやすい最大の欠点は、視点主人公を平凡に設定することで探偵役の能力を際立たせ、名探偵に見せようとする狙いが、視点主人公は単なる馬鹿、探偵役は、ごく普通の頭脳の持ち主で、名探偵でも何でもない、というようになってしまうことです。
つまり、大した謎でも、前代未聞のトリックでもないのに、そう見せかけようとして、ものの見事に失敗した、という駄作になります。当然、新人賞では予選落ちしますから、人の目に触れることがない。

私は立場上、応募作に接する機会が多いので分かるのですが、ホームズ&ワトソン方式のミステリーの99%は「ボンクラ探偵&馬鹿主人公」で、謎は一読しただけで見えてしまい、トリックも、作者だけが「新奇性あり」と思い込んでいるだけで、既存作やテレビ・ミステリーでさんざん取り上げたもの、という惨憺たる失敗作です。
既にデビューしているプロ作家の作品でも、ホームズ&ワトソン方式のミステリーでは、ほぼ確実に何割かは駄作が混じります。誰の、どの作品と具体名は、支障があるので避けますが、駄作になる失敗作は「視点主人公が、いつもよりも馬鹿になるために、自力で解けるはずの謎の解明を探偵役に頼り、探偵も、それに引き摺られてボンクラ探偵に堕する」が、ほぼ共通する基本構図です。
そうやって考えると、失敗に終わる確率が高いホームズ&ワトソン方式よりは、どれほどハードルが高くても、「自分が少し理解しがたい人をモデルにした主人公視点の小説を書く」にチャレンジしたほうが、新人賞を射止められる確率は高そうに思います。

下村:そんなに凄い方々が……何とも恐ろしい世界です。超人的な能力とは無縁でデビューした僕の存在は、応募者を勇気づけそうです(笑)。

神家正成さんとは乱歩賞の授賞式会場でお会いし、挨拶してくださった縁もあって『深山の桜』(宝島社)を読みました。興味深い今日的な自衛隊のPKO問題を扱いながら、さすがのディテールでした。現地で活動する自衛隊員の様々な想いが描かれていて、魅力的な優秀賞受賞作です。

シャーロック・ホームズをワトソン視点でなくホームズ視点で書けるか――という例え話はとても分かりやすく、なるほどと思いました。そうなんですよね。僕もまさにそれで思い悩んだことがあります。
短編の『緑の窓口 ~樹木トラブル解決します~』は、最初、変わり者の女性樹木医の視点で書いたんですね。すると、はたから見たら突拍子もない言動のはずなのに、本人からすれば極めて合理的、論理的な言動になってしまうんです。視点人物である以上、心理描写をするので、彼女がなぜそういう行動をとっているか読者に丸分かりになってしまい……。
変わり者どころか、常に論理で行動する優秀な樹木医になってしまいました。結局、語り部を通して彼女を描写するほうが興味深い人物に見えると気づき、最終的にはホームズ&ワトソン方式に書き直したのでした。ホームズ視点は恐ろしく難易度が高いです。
名探偵役を〝推理力〝で魅せようとすると、語り部が鈍くなってしまう――という危険性はたしかにあるかもしれません。名探偵役に〝唯一無二の専門分野〝があると、語り部の頭脳を低めに設定しなくても物語は成り立つのではないか、と思います。なかなかバランスが難しく、僕も担当さんから「語り部の主人公が活躍できる場をもっと作りましょう」とツッコまれ、続編では四苦八苦です(笑)。

若桜木:超人と言えば、辻真先さんが人間業とは思えない「神話」を残しています。
アニメ草創期の脚本は、ほとんど辻さんの作品ですが、辻さんは「30分ドラマの台本を30分で書く」と言われていました(通常は1週間)。
ドラマ台本は、通常は1分につき原稿用紙1枚です。200字詰めの「ペラ原稿」なので、つまり400字詰めに換算すると15枚ですが、これは下村さんの1日の生産量ですよね。それを30分。
私は、どんなに速く書いても時速10枚でしか書けません。

永井豪『デビルマン』のテレビアニメの脚本も大半が辻さんですが、あまりに辻さんが速くて、永井さんの原作を追い越してしまい、以降、辻さんの脚本を元にして永井さんが絵を描いた、などという逸話があります。
もう、本当とは思えませんが、複数の人から聞いたエピソードなので、少なくとも、辻さんが恐ろしいほどの速筆だった、という点だけは真実だと思います。

デビルマン

怪盗フラクタル 最初の挨拶
講談社

マンガで育った60年
東京新聞出版局

次に、読者からの質問について。デビュー前とプロになってからで、変わったこと、ですか。何でしょうね。
私は学生時代にプロになってしまったので、ほとんど変わっていませんね。学生時代には同人誌をやっていて、原稿を書きまくっていたし。
プロ作家になると「締切」が来るわけですが、締切に追われた経験もないし。
私は大学院の博士課程に入ったころに原稿が売れ始め、博士課程の2年目で結婚して杉並区に庭付き一戸建ての家を建てました。新婚旅行も学割で行きました(笑)。

今とは全く出版界の事情が違うので、ピンと来ない人も多いと思いますが、その頃は雑誌が全盛期で、私は雑誌の連載を確か25本、持っていました。まだ単行本の類はゼロです。
何でそんなに雑誌の仕事が取れたかというと、雑誌は必ず、作家が遅筆とか突然の病気で、穴が空く時があります。そういう時に「最も速く穴埋めできる人間」という理由で私にご指名が懸かります。で、編集さんとの会話は――。
「それで、締切は、いつですか?」
「昨日だよ、昨日! 明日の朝までに上げてくれれば、何とか印刷が間に合うから」
とまあ、こういう調子です。辻さんや胡桃沢さんほど速くなくても、一晩あれば問題なく書けます。

そうやって、恩を売って(笑)連載を勝ち取ったわけです。初めて文庫書き下ろしの仕事をゲットしたのが結婚して3年目。気を入れて、トラック一杯の原稿用紙を買い込みました。まだペン書きの時代だったので。2年ぐらいで消費した記憶があります。
あまりに忙しくなりすぎて、遂に博士論文は出せずじまいです。修士は、まだ暇だったので学位を取りましたが。

(続く)

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プロフィール

 

 

 

『闇に香る嘘』講談社

下村敦史(しもむら・あつし)

1981年京都府生まれ。江戸川乱歩賞に応募を続け、第53回、第54回、第57回、第58回で最終候補に残る。2014年、『闇に香る嘘』(『無縁の常闇に嘘は香る』改題)で第60回江戸川乱歩賞を受賞。最新刊は、『告白の余白(幻冬舎)』。

 

 

 

 

『ミステリー小説を書くコツと裏技』青春出版社

若桜木 虔(わかさき・けん)

1947年静岡県生まれ。『公募ガイド』誌上で18年にわたって連載を担当。NHK文化センター、よみうりカルチャー(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。これまで、40名以上の弟子をプロデビューに導いている。

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2017/1/13更新

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