第8回日本ラブストーリー大賞
宝島社が“今世紀最高のラブストーリー発掘”を目的として創設。時代や小説のジャンルは自由。大賞受賞者には賞金500万円が贈られ、受賞作は宝島社から刊行される。また映像化も検討。
受賞者:相戸結衣さん
きっかけはオンライン小説サイトを立ち上げたこと
あいと・ゆい
1972年、宮城県生まれ。岩手大学人文社会科学部卒業。教育出版社勤務。趣味は会社での人間ウォッチング。「日本ラブストーリー大賞」受賞作『さくら動物病院』(『LOVE GENE~恋する遺伝子~』より改題)は宝島社より3月刊行予定。
執筆履歴を見てみたら、この作品を書き始めたのは二年前の三月二十一日、東日本大震災が起きた十日後のことでした。私の住んでいる地域は比較的被害 は少なかったのですが、それでも一週間電気が止まり、ガソリンが買えないために出歩くこともできず、とても苦労しました。電力が回復すると、テレビでは震災のニュースばかり。一体自分たちはどうなるのだろうと、途方に暮れました。
ところが、パソコンを立ち上げてインターネットにつないだ途端、気持ちが一気に浮上しました。当時オンライン小説のサイトを立ち上げたばかりだった のですが「大丈夫ですか?」「心配しています」といったような読者からのメールがたくさん届いたのです。じつはこんなに読んでいてくれた人がいたんだなと、小説の持つパワーというものを感じた瞬間でした。
全国的に自粛ムードが漂っているなか、少しでも楽しんでいただけたらと、思いっきり明るくてハッピーなお話をネットで発信し続けました。同じように オンライン小説を書いている仲間に誘われて、震災のチャリティー企画にも参加しました。不謹慎かもしれないけれど、とても楽しかった。
そのうち欲が出てきたんですね。もっと技術を磨いて、たくさんの人に読んでもらいたいと思うようになって。それで「日本ラブストーリー大賞」への応 募を決めました。プロの目による丁寧な選評、そして「サイトでの発表は、あくまで練習の場である」という募集要項の一文が決め手でした。獣医師をして いる友人に書いた原稿のチェックをお願いし、何度もダメ出しを食らいながらも楽しんで書きあげることができました。
今でも「書くことが楽しい」という気持ちは変わらないままです。お話を読んでくれた人の顔を思い浮かべながら、「読んだあと幸せな気持ちになってく れたらいいな」「元気になってくれたらいいな」という願いを込めて、伝わる文章、わかりやすい文章で、これからも物語を書き続けていきたいと思います。
(あいと・ゆい)
受賞作『さくら動物病院』
30歳の美人獣医師、桜小路美姫は、仕事も年下のセフレ・雪弥との関係も順調な毎日を過ごしていたが、友人の結婚や母の病気をきっかけに、「結婚」の二文字を意識し始める。そんななか、中学時代の同級生、三木谷とお見合いで再会し、徐々に惹かれていくが……。
第11回ジュニア冒険小説大賞
小学校高学年から読めて楽しめる、冒険心に満ちあふれた物語を募集。ファンタジー、SF、ミステリー、ホラー、ナンセンスなど、内容は不問。受賞者には賞金20万円が贈られ、受賞作が刊行される。
受賞者:かわせ ひろしさん
物語はキャラクター達の生き様にあわせて進むべき
かわせ ひろし
1969年、千葉県生まれ。日本大学理工学部中退。漫画家として活躍。趣味はサッカー観戦。大賞受賞作『宇宙犬ハッチー銀河から来た友だち』は岩崎書店より3月刊行予定。
僕は漫画家です。
大学を中退してアシスタントとして働き始め、連載を持つこともできました。そんな僕が小説を書こうと思い立ったのは、その連載が打ち切られたことが きっかけです。
漫画は毎回の人気アンケートで作品の存続が決まります。僕はお話をじっくり描きすぎて、人気を落としてしまいました。本来なら次作でその反省を生かさなければいけないのですが、ただ僕にはどうしても引っかかる所がありました。打ち切られた後でも、あそこはやはりじっくり描くべきだったという想い が消えなかったのです。
キャラクター達はその作品世界の中で生きている。物語はそのキャラクター達の生き様に合わせて進むべきではないのか。人気を維持するために、毎回ヤ マ場を作らなくちゃいけないのは、作り手の都合です。そんなものに振り回されたら、物語が死んでしまいます。
その時ふと、書き下ろしだったら、じっくり書いても大きなヤマ場が一つあればいいのではないかと思ったのです。小説なら、できる。
もともと読むのはどちらも好きです。子供の頃は両方書こうとしていました。漫画は最後まで描けたけど、小説は長くて挫折したのです。今なら書き切れ るんじゃないか。
そうして試しに書いた小説は、今見ると赤面ものの稚拙さですが、それでも書き切る事はできました。そして何とか腕がついてきて、今回賞をいただく ことができました。
『宇宙犬ハッチー 銀河から来た友だち』は、ドラえもん、それも映画の原作になっている大長編ドラえもんのような話を目指して書いた作品です。漫画 のようなお話ですが、主人公二人の友情をしっかり書くなら小説です。尺がなかなか合わず苦労しましたが、何とか作者の都合を押し付けず、二人の物語に できたと思います。
こうして僕は小説家になりました。書き続けられたらいいなと願っています。
(かわせ・ひろし)
受賞作『宇宙犬ハッチー 銀河から来た友だち』
銀河連合の捜査官ハッチーは、犯人を追い太陽系へと来たところで船が大破し遭難、地球に不時着することになる。地球人の小学生友樹と友達になり救援を待つが、犯人も地球に来ていて……。
第29回織田作之助青春賞
未発表の短編小説を募集。主題、舞台は自由。青春賞受賞者には賞金30 万円が贈られる。審査員は堂垣園江、増田周子、吉村萬壱。
受賞者:滝口浩平さん
自分の世界を丁寧に広げてきたい
たきぐち・こうへい
1990年、千葉県生まれ。東京外国語大学 外国語学部 南・西アジア課程 ヒンディー語専攻4年に在学中。今年3月卒業後は、日本語教師養成学校に進む予定。好きな作家は、よしもとばなな、ジュンパ・ラヒリなど。
小学校に入学する前でしょうか、父が国語辞典を買ってきてくれたのを今も覚えています。嬉しかった記憶ではありません。弟が貰ったキャラクターシールの方が、幼い私にはずっと魅力的に見えました。口では「ありがとう」と言いながら、本当はあっちが欲しかったのに、と人知れず思ったのです。
ですが、今考えてみると、あの辞書を受け取った時、私の将来はずっと先まで決まったような気がします。つまり学生生活を通して語学を学び続けるこ と、小説を書き続けること。言語を読む時にはもちろん、小説を書く時にも辞書は欠かせないのですから。
そんな学生生活も、まもなく終わりを迎えようとしています。振り返ってみれば、どの一瞬も充実したものでした。心残りがあるとすれば、私が自分の 小説を誰にも見せずに終わってしまうこと。これに尽きました。
最後くらい誰かに読んで評価してもらおう。自分の趣味に、成績をつけてもらおう。織田作之助青春賞への応募は、いってみれば学生生活の総まとめ、期 末テストのようなものでした。中学生のエピソードを切り取った作品にしたのは、学生時代の核になるような強い想い出を、その期間に体験したからかもし れません。
そんな経緯で送った小説に思いがけず「優」の成績が返ってきて驚き喜んでいると同時にホッと胸をなでおろしてもいます。やれやれ、どうやら私の趣 味はそんなに捨てたものでもないらしいぞ、と。
受賞作『ふたりだけの記憶』は人の目に触れる最初の作品となりました。しかし、読み返してみると書き直したいと思うところは幾つもあります。直せば 直すほど、まだ何か足りないのではないかと不安になります。そうして、自分の小さな世界をもっともっと丁寧に広げていきたいと心から思います。そう思 うから、私はまだまだ辞書を片手に書いていきたいと思うのです。
そしてそうやって書き続けることは、辞書を貰った時からずっと決まっていた道のような気がするのです。
( たきぐち・こうへい)
受賞作『ふたりだけの記憶』
大学生の「僕」が主人公。中学の同級生だった「あいつ」のことを思い出し、物語が動き出す。2人は親友だったが、中2の時に口論し、仲がこじれてしまう。バスと電車を乗り継
ぐ時間の中で「あいつ」のことを考え、携帯電話のアドレス変更を連絡しようかどうか悩む「僕」。回想シーンを織り交ぜ、揺れ動く青年の心理を淡々とした筆致で描いた作品。
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