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賞と顔 2013年8月

第56回群像新人文学賞 小説部門

小説部門、評論部門の2部門で作品を募集。選考委員は青山七恵、阿部和重、安藤礼二、奥泉光、辻原登。各部門受賞者には賞金50万円が贈られる(受賞作複数の場合は分割)。

受賞者:波多野陸さん

何とか締切に間に合わせて投稿

はたの・りく

1990年、千葉県成田市生まれ。上智大学卒業。好きな作家はJ.D. サリンジャー、ジョン・スタインベック。受賞作の単行本が8月下旬刊行予定。

 受賞作『鶏が鳴く』はほとんど去年、大学四年の九月と十月に集中して書いたと記憶しています。ほとんどというのは、七月の初めに全体の五分の一ほどを書くと、暫くは怠けて放置していたからです。その怠けていた期間中、ずいぶん色々なアイディアが思い浮かび、実際に今作にそのまま活かされたものも少しはありましたが、結局、書くのを再開してみると、その場でもっと良いアイディアが思い浮かぶことが多かった。もっとも、私が勝手に「良い」と思っているアイディアにしても、書くのがどういうわけか億劫になって、でも書かなくちゃ、と鬱々としていた頃の、散々頭の中を飛び交った思考が下敷きになっていると考えるのなら、何もしていないその期間というのは、書いている時と同じかそれ以上に重要だったのでしょう。
 ともかく、何とか締切に間に合わせて投稿したわけですが、正直に言うと、これで駄目なら何を書いても駄目なんだろうな、と思うほど(書き終えた高揚感もあってか)非常な自信と不安でいっぱいでした。ここまで頑張って一次選考も通らないんだったら、世の中はクソだ、というわけです。そんなでしたから、自信を持ち続けて、悪い結果だった場合、どんなに落ち込むだろうと恐れて、本当に馬鹿らしい話ですが、自作を読み返し、欠点をいちいち見つけ、こんなのは失敗作だ、落ちて当然だ、と貶め続けました。だから、最終候補に残ったと聞いたその瞬間は嬉しかったものの、その後は前と同様です。こんな駄作、受賞するもんか、と落ちた時のためのセーフティーネットを心の中に張り巡らせ続けました。最終候補の連絡から一カ月以上経ち、すっかり精神的に疲れ果てたところで受賞の知らせ。私は腑抜けた声で「はい、そうですか」と応じました。
 もう少し喜べと思われるでしょう。私もそう思います。なので、これで満足しては駄目なのだ、と成功し続けてきた経営者が言いそうなことを書いて、勇んだふりをし、締めることにしましょう。
(はたの・りく)

受賞作『鶏が鳴く』

高校三年生の伸太は深夜、いけ好かない友人・健吾の家に忍び込む。そこで彼が目撃した「秘密」とは。男子高校生二人による一晩の濃密な対話劇。

第20回 松本清張賞

ジャンルを問わない長編エンターテインメント小説を募集。大賞受賞者には賞金500 万円と時計が贈られる。選考委員は石田衣良、北村薫、小池真理子、桜庭一樹、山本兼一。

受賞者:山口恵以子さん

年齢制限のない小説の世界に挑戦しようと決心

やまぐち・えいこ

1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒業。趣味は日本舞踊。好きな作家は 真先。受賞作『月下上海』は文藝春秋より発売中。

 私の職業は平たく言うと「社員食堂のおばちゃん」です。公官庁に新聞を配達する大きな販売店の社員食堂で働いています。
 前職はプロットライター。テレビドラマの原案作成者です。派遣で宝石店に勤めながら、脚本家になる夢を見てプロットを量産していました。
 十一年前、たまたま新聞の求人広告で今の仕事を得て、やっと人心地がついて、周囲を見回す余裕ができました。そうしたら、仕事をくれるプロデューサーはほとんど同年か年下。もう、脚本家になれる望みはないと諦めました。そして、年齢制限のない小説の世界に挑戦しようと決心しました。
 社員食堂のおばちゃんになっていなければ、この二つの決断はできませんでした。
 受賞作は新聞のテレビ欄で見た映画のタイトル「上海の伯爵夫人」がきっかけで生まれました。その瞬間から、頭の中に小説のさまざまなシーンが映像で浮かんできて、やがてキャラクターの性格がはっきり見えて、ストーリーは八割方完成しました。
 松本清張賞を選んだ理由は規定枚数と賞金です。五百枚を超える長編だったので、五百万円欲しい!……と欲を出して。
 受賞後も、生活の基本は変わりません。勤務時間は午前六時から午後一時。それに合わせて毎朝三時半起床、夜九時には寝ます。執筆は帰宅後、家事と母の介護と猫の世話を終えてから。休日は半日以上書いています。
 受賞して嬉しかったのは、賞金ももちろんですが、職場の仲間や友人、それに近所の人にまで喜んでもらったことです。
 それと、かつての文庫デビュー作が文藝春秋から再刊が決まり、電子ブックの作品にもリアル書籍化の道が開けたことです。不甲斐ない母親のせいで辛い思いをさせた子供たちに、やっと日の目を見せてやれる……そんな思いです。
 今後の目標は、とにかくたくさん書くこと。時代小説と現代小説、両方好きなので、両方とも書いていきたいと思います。
 食堂の仕事と両立は大変でしょうが、今までがマイナスの苦労なら、これからはプラスの苦労。だからむしろ嬉しいです。
 賞金の使い道?
 もちろん、全部呑みます!
(やまぐち・えいこ)

受賞作『月下上海』

昭和17年の上海を舞台に、スキャンダルを逆手にとり人気画家にのしあがった財閥令嬢・八島多江子。謀略渦巻く戦時下の上海で、多江子と4人の男たちの運命が交錯する。

第29回 太宰治賞

未発表の小説を募集。大賞受賞者には賞金100 万円と記念品が贈られる。選考委員は加藤典洋、小川洋子、荒川洋治、三浦しをん。

受賞者:KSイワキさん

絶対に完成させなければならないという強い思い

けーえす・いわき

1971年、大阪府生まれ。オーストラリア在住。桃山学院大学卒業。サウス・ウェスト職業訓練専門学校ヴィジュアルアート科ディプロマ卒業。趣味は水泳と編み物。好きな作家はカレード・ホッセイニ、ジュンパ・ラヒリ、マリオ・バルガス=リョサ。受賞作『さようなら、オレンジ』は筑摩書房より刊行予定。

 執筆のきっかけは、当時急増していたアフリカ系の移民たちを私の住んでいる小さな町でも頻繁に見かけるようになったことです。街角ではもちろん、私の子供たちの通っていた幼稚園でも、アフリカ人のお母さんたちが、お迎えの時間になると現れるようになりました。そんな母親たちは言葉を理解できないため、行事や連絡事項がきちんと伝わっているのかわからないと先生方のほうでも不安そうにしていらっしゃいました。彼女たちのうなだれて立ち尽くしている姿、どこか所在なげで、緊張しきった表情、おびえたような目というのが、どうしても忘れられませんでした。なぜなら、ひとむかし前の私自身の姿、そのものだったからです。
 異国に暮らすほとんどの人が経験し、そのことによって、異邦人という孤独の上にさらにもうひとつの孤独の膜をもたらす言葉の不自由さといえばネガティブに聞こえがちですが、この二重の孤独は私にとっては、自分は誰か、なにをしにここへやってきたのか、ということを日常的に問いかける意味で、大変有益でした。それら自分自身への問いかけから、人にとって言葉とは何かということを考え、伝えたくなりました。とはいえ、その技術がありませんから、挫折と失望を繰り返しましたが、「小説は誰にでも書ける」という宇野千代先生のお言葉を支えに完成をめざしました。
 普段の執筆のペースは、たいへん遅いです。この作品もまだ幼かった子供たちがお昼寝をしている間に冒頭の部分を書き、その後、何年も手つかずで放置したままでした。子供たちが学校に上がってから、ふと読み返し、これは絶対に完成させなければならないという思いがさらに強くなって、ようやく取りかかった次第です。
 私は平凡な家庭の主婦で、異国といえども家族と心優しい友人たちに囲まれて暮らしてまいりました。受賞のしらせを聞いた彼らがまるで自分のことのように大喜びするのを見て、創作のスタートラインに立たせていただいたいま、この感謝の気持ちを忘れず、遅い出発ですが、今後も書き続けることができれ ばと願っています。
(けーえす・いわき)

受賞作『さようなら、オレンジ』

アフリカからオーストラリアの田舎町に移り住んだ女性サリマが、英語を学ぶために学校に通い出す。そこには日本人女性を含め、多様な背景をもつ仲間たちとの出会いが待っていた。月日がたち生活が軌道にのりはじめたある日、都会へ逃げたサリマの夫から、息子たちを引き取りたいとの連絡が入る……。

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