かわせ・ななお
1970 年、福島県生まれ。文化服装学院服装科・デザイン専攻科卒業。受賞作『よろずのことに気をつけよ』は講談社より8 月刊行予定。

第57 回 江戸川乱歩賞

広い意味の推理小説を募集。選考委員は内田康夫、京極夏彦、桐野夏生、今野敏、東野圭吾。受賞者には賞金1000 万円と江戸川乱歩像が贈られる。

川瀬七緒さん

より丁寧に物語を膨らませた

 物語を紡ぐ行為には中毒性があります。しかも毒性が強い。ここに足を突っ込めばおそらく生涯にわたって書き続けることになり、たとえ苦しみが伴っても、やめることができなくなるのではないでしょうか。
 私は四年前から書き始めましたが、その間、活字を送り出すことを一日 もやめたことはありませんでした。「筆毒」にあてられていたせいもあって、頭の中に広がる世界を外に出すことに夢中だったのです。
   とはいえすべてが手探り状態で、何をどうすればいいのかがわかりません。そこで自分に課した最低限のノルマが、最後まで書き切ることでした。
 書いている中で、これはあまりおもしろくないのでは……と思えても、とにかく物語を終結させることに専念する。私は五百枚を超える長編ばかりを書いていましたから、結果的にこれが記述体力をつける結果になったのだと思います。
 昨年は、江戸川歩賞と鮎川哲也賞の最終候補に残るという激動の一年でした。そしてどちらの賞も落選したことで、物を書く姿勢ががらりと変わったのです。きっと拙作は、小説にはなければならない重大な何かが抜け落ちているのではないか。このとき、初めて後ろを振り返ったような気がします。
 受賞作の『よろずのことに気をつけよ』は、幼い頃に見た風景のおぼろげな記憶と、郷里で見つけたあるものからヒントを得た作品です。今までよりも、より丁寧に物語を膨らませました。そう、丁寧という言葉がとても合っています。登場人物ちと心を通わせ、描写のひとつひとつにも思いを籠めました。勢いにまかせたのではない作品を書き切ったとき、とても清々しい気持ちになっ たのを覚えています。
 江戸川乱歩賞という重い賞を受けても、私の気持ちは妙に凪いだまま。今現在もそうです。たくさんの方に読んでいただき、さまざまな感想を寄せられたときに、初めて極上の興奮を噛み締めるのだろうと思っています。(かわせ・ななお)
受賞作

『よろずのことに気をつけよ』

呪術研究が専門の文化人類学者・仲澤大輔の許へ、砂倉真由という少女が訪ねてくる。彼女の祖父は1 カ月前に何者かに惨殺されていた。事件後に自宅の縁の下で偶然見つけたという札を彼女は差し出した。札に捺された3 人分の血判を見て、本物の呪術符だと仲澤は断言する。真由は驚き、仲澤に事件の真相を暴く手助けを依頼した。

なかむら・れいこ
1959 年、神奈川県生まれ。公益法人スタッフ。趣味はヴァイオリン。好きな作家はヘンリー・ミラー、ミラン・クンデラ、宮本輝。受賞作『記憶』は『小説新潮』8 月号(新潮社)に全文掲載されている。

第3回 さくらんぼ文学新人賞

女性の筆者による、日本語で書かれた未発表小説を募集。選考委員は唯川恵、北上次郎。大賞受賞者には賞金100 万円とさくらんぼ1 箱が贈られる。同賞は第3 回をもって休止。

中村玲子さん

書くという行為は
快感である

「言葉など、なんと無力なものか」と思わせるあの三月が無ければ、早くも、今年を「いい年だった」とするところです。でも今は、「いつか、少しは良い年になるように」を、祈る時なのでしょう。
 せめて小説が生まれ続ける環境を変えないように暮らしていきたいと思います。人が今までの住処を振り返り、「どうして、あの暗闇に自分はいられたのだろう」と呟く時、ようやく物語の出番があるのかもしれないからです。
 五年ほど前から小説を書き始めました。一年に一作書いてはどこかに応募し、とにかく応募することで、なにかを書きたいという思いを満足させていました。
 でも、昨年は、珍しく奮起して、あまり間隔を置かずに、全部で四作をあちこちに応募しました。さすがに続く「一次通過もしない、がっかり」の痛みを分散させることにしたのです。「さくらんぼ文学新人賞」はそのひとつでした。
 作品に登場させた人物は皆、憂鬱な顔をしています。そして、それぞれが忘れられない過去の時間を抱えている。彼らがそれぞれ、ぽつん、ぽつんと離れた場所にいる、ひんやりとした空気、重たい空――わたくし自身はできる限り、その雰囲気を描き出したいと思いましたが、単に覇気の無い人の群れに見えてしまわないか、心配でした。でも、丁寧で、的を射た講評はとても励みになりました。
 それに選考の過程がネット上で見られ、大勢の「書きたい気持ち」に応えるという方式は応募する身にはとても納得のいくものです。受賞したことで「まだ書いていていいよ」と誰かに言ってもらえたような気がします。でも、同時に、書くという行為は、それ自体がすでに快感なのだという思いも強くしています。
 だから、書きたいことがある間は、あまり楽しくないお話であっても機嫌良く、静かに書いていきたいと思います。(なかむら・れいこ)

受賞作

『記憶』

台湾での苦い思い出を抱える祖父と、妻とも恋人とも友人とも折り合えなかったその孫、それぞれの記憶についての物語。

              
              

たけだ・たつま
1988 年、熊本県生まれ。多摩美術大学絵画学科油画専攻在学中。好きなアーティストは杉本博司。今回の平面部門大賞受賞作『日常アブダクト』は「トーキョーワンダーウォール都庁2011」で展示予定。

トーキョーワンダーウォール公募2011

日本国内在住で35 歳以下の人を対象に現代美術作品を募集。平面作品(絵画、写真等)、立体・インスタレーション作品の2部門がある。審査員は石原慎太郎ほか。各部門大賞受賞者には賞金100 万円が贈られる。

武田竜真さん

観覧者の想像力をかき立てる作品を

 私たち人類は考えるという力を手に入れてしまったがために、「死」という壮大で限りないテーマと強制的に戦うことになった。そこで生み出されてきたものが宗教や神様、妖怪、幽霊、天国、宇宙といった非日常。つまり私たちは想像力を武器に「死」に立ち向かい、「生」の意味を問い続けて来た。そして、それは芸術の発端が宗教画であることから分かるように、想像力は芸術の根源でもあると言える。
 悲しみ、苦しみといった負の感情に打ち勝ちどんな状況下でも生きていかなければならない人間は想像力、つまり非日常の世界を必要としている。死への恐怖から極楽や天国、神や仏を想像(創造)し、生きる上での戒めとして地獄や妖怪を想像(創造)した。医療や科学が進歩した現代でさえ宗教が存在し、私たちが信仰心を忘れることのできない理由は、未だ科学では超えられない死という壁が在るからである。それは今日でも非日常の世界は日常を潤し続けていることを意味している。
 私は、人間の想像力、そしてそこから生まれる日常の中に存在する非日常を探し、それを作品にすることを通し「生」の意味を問いかける。想像力をかき立てる重要な条件として、〝曖昧な存在〞 をモチーフとして扱っている。在るけどよく見えないもの、見えるのに無いようなもの、それらを目の前にしたとき、私たちは想像力無しでは対応できなくなる。観覧者の想像力を通して既存の概念を打ち壊す新しい概念を植え付ける作品制作を行うことで「生」と「死」という永遠のテーマに取り組む。
 私はよく作品にUFOを登場させる。それは様々な情報が氾濫している現代においての曖昧な存在の象徴としてUFOを扱っている。この意味でUFOは現代に現れた宗教に近い存在かもしれないと考えている。今回受賞した作品も震災の絵を描いたわけではない。UFOに誘拐される日常を描いている。それを震災の絵とするのは観覧者による想像力である。そこに今回の作品の狙いがある。(たけだ・たつま)

受賞作

『日常アブダクト』

UFO により連れ去られる日常を描いた。しかし、ある日を境に私たちはその風景を津波の絵と見てしまう目を持ってしまった。

              
              

バックナンバー

あなたの絵の才能を発見 いいたまごの日 アイリスオーヤマ 新着公募情報
shufu kazoku honto