くむら・まゆみ
1964 年、東京都生まれ。中央大学商学部卒業。法律事務所職員。趣味は犬の観察。好きな作家は奥田英朗。受賞作『完盗オンサイト』(応募時タイトル『クライミング ハイ』)は講談社より発売中。

第57 回 江戸川乱歩賞

広い意味の推理小説を募集。選考委員は内田康夫、京極夏彦、桐野夏生、今野敏、東野圭吾。受賞者には賞金1000 万円と江戸川乱歩像が贈られる。

玖村まゆみさん

創作は想像の国を旅すること

 小学生だったある冬の日、友だちとふたり、雪を使って人間の頭部を作った。秘密の国の門番に見立て、いかめしい男の顔に仕上げると、どこかで拾った洋服のボタンを鼻の穴に埋め込んだ。ボタンは秘密の国への扉の鍵であり、唯一無二の秘宝でもあった。それからは日に何度も、 校舎の陰に隠した男とボタンの無事を確認した。雪が溶け、男が消えてしまったあとも、私たちはボタンとともに、秘密の国を旅しつづけた。
 こんなふうに、幼いころから想像をめぐらせるのが好きだった。それは今も変わらない。ただ、大人になっ て行動範囲が広がった分、実際に経験したこと、本や資料で目にしたものが想像に重なるようになった。
   江戸川乱歩賞をいただいた『完盗オンサイト』(応募時タイトル『クライミング ハイ』)では、秘密の国 は「皇居」であり、唯一無二の秘宝は、主人公が盗み出そうとする盆栽〈三代将軍〉なのだと思う。
 受賞前は、原稿用紙百枚ほどの短編を年に一本、五、六百枚の長編を二年に一本程度仕上げるペースで机 に向かっていた。オンとオフは比較的きっちり線を引き、物語を書きはじめると、たいていは「鎖国」に入っ た。これは、どこにも遊びに行かないという意味である。周囲の人たちはみんなそれを承知しているので、 お誘いがぱたりと止む。
 とは言え、鎖国に入っても頭の中のものがそのまま言葉になるわけではない。何時間も、ぼんやりと頬杖 をついているだけの日もある。逆に、ある日突然「火の玉小僧」が降りて来ることもある。そうなると、たと えば作中の会話が勝手に走り出し、パソコンのキーを打つ手が追いつかなくなる。ただし火の玉小僧は神出 鬼没。一度、趣味である山歩きの途中で降りてきたことがあった。新しい物語が一気に頭に渦巻いたが、夜 の山小屋でヘッドランプを灯してペンを動かすわけにもいかず、帰宅したときには、小僧は姿を消していた。
 これからは自分の力で小僧を呼び寄せなければならない。次作長編の着手を前に、今強くそう感じている。 (くむら・まゆみ)
受賞作

『完盗オンサイト』(応募時タイトル『クライミング ハイ』)

水沢浹は世界の岩を渡り歩いてきたフリークライマー。1億円の報酬で、徳川家光遺愛の盆栽〈三代将軍〉を皇居から盗み出してほしいと依頼を受ける。だが、突然馘を言い渡された浹は、金ではなく、あるべつの理由のために皇居侵入を決断する。

こばやし・ゆか
1976 年、長野県生まれ。アルバイト。趣味は映画鑑賞。好きな映画は『あの夏、いちばん静かな海』(監督:北野武)。受賞作『ジャッジメント』は「小説推理」8 月号(双葉社)に全文掲載されている。

第33回 小説推理新人賞

広義の推理小説を募集。フレッシュかつ独創的な作品を。選考委員は荻原浩、近藤史恵、笹本稜平。受賞者には正賞と副賞100 万円が贈られる。

小林由香さん

自分の信じたものを描きたい

日々、生活していく中で偽りの言葉や感情ではなく、物事の真実を見 てみたいと思う瞬間があります。その結果、残酷な現実が見えたとしても何故か本当のことが知りたくなっ てしまいます。
 ある出来事の真相、誰かの本当の気持ち、奇妙な言動をする相手の心理、それらを知りたいと願った時、 一つのアプローチがあるような気がしました。
 大人、子ども、犯罪者、被害者、様々な人間の視点に立ち、彼らの抱えている想いを書くことで、見えてくる何かがあるような気がしたのです。
 その何かが見えた瞬間、今まで悔しかったことや憎んでいた誰かに対する負の感情が薄らぎ、完全ではあ りませんが少しだけ相手の気持ちが理解できるようになりました。個人的には、その変化は、生きていく上 での幸せにも繋がっています。
 そして、それが小説を書きたいと思うきっかけにもなりました。
 現実の社会生活では、いつも自信がなく、無難な方を選択し、できるだけ人と争わず、納得がいかなくて も大多数に迎合して過ごすことの多いタイプです。
 しかし、何故か書くことに関してだけは、誰に何を言われても登場人物たちの想いに耳を澄ませ、自分の 信じたものを描きたいという気持ちがあります。
 そして、その気持ちに基づいて作品を書き上げたのならば、読んでくださった方々のどのような評価で あっても素直に受け止めようと思っています。きっとそこには、それぞれの真実があるのだから。
 今は描きたいという感情ばかりが先行し、実力や筆力が伴っていないのが現実です。時々、情けなくなる ほど落ち込むこともあるのですが、努力をすることを忘れずに、これからも書き続けていきたいと思ってい ます。(こばやし・ゆか)
 

受賞作

『ジャッジメント』

虐待により妹を失った少年は、「平等応報罪業法」により両親への復讐を決意する。しかし、最後に気づく真実は親に対する憎しみではなかった。

              
              

またい・けんた
1979年、北海道生まれ。慶應義塾大学商学部商学科卒業。フリーライター。趣味は飲酒、貧乏旅行(47 ヶ国訪問)。好きな作家はミヒャエル・エンデ、那須正幹など。受賞作『新小岩パラダイス』(『グッバイマネー!』改め)は角川春樹事務所より10 月上旬刊行予定。

第3回 角川春樹小説賞

長編小説を募集。エンターテインメント全般の作品を。選考委員は北方謙三、今野敏、角川春樹。受賞者には賞金100万円と名入り金時計が贈られる。

又井健太さん

書き続ければ文章は誰でもうまくなる

 映画監督を志し、大学卒業後は映像関連企業に就職しましたが、10 ヶ月で退職。その後、映像制作職や派遣社員を転々とし、気がついたらAVに出演していました。
 25の頃にはワーホリでロンドンに行きました。現地で自主映画を撮るつもりでしたが、初日に駅で寝てい たところを身包みはがされ無一文に……。
 その頃から実体験を元にミクシィでエッセイ風の文章を書き始めました。映画は集団作業ですが文章は一 人でできる表現活動だからです。
 そして2008年暮れ、勤めていた会社が倒産しました。
「よっしゃ! チャンスだ!」
 お気楽な僕は今度は小説を書いてみようと思いました。物価の安いアジアの安宿を転々としながら、貯金 の続く二年を期限と決めて挑戦することにしました。
 ところが出来上がった作品はヒドイものでした。話がとっ散らかるし、主観が入りまくる。会話を書け「言った言った言った」の繰り返し。当たり前です。小説をほとんど読んだことがなかったからです。
 そこで『新人賞の獲り方おしえます』(久美沙織著)や『冲方式ストーリー創作塾』(冲方丁著)などを参 考にハウツーを学びました。地の文を覚えたり、エクセル一行ごとにシーンを書き連ねて構成を把握したり、「ストーリーよりもキャラ。キャラが決まれば話は動き出す」ということを知ったり、テーマを決め、アイディアに優先順位をつけて取捨選択していくことの大切さを学びました。
 満を持して長編一作2〜3ヶ月のペースで仕上げ、ガンガンコンクールに出しましたが、一次予選すら通 りません。
「ふざけんなっ!」
 蒸し暑い室内。パンツ一丁で発狂しそうになったこともありましたが、書いてる時は大体楽しかったので 「勝ちだ」と思っていました。
 書き続ければ文章は誰でもうまくなる!
 まだまだ未熟者ですが、身に染みてそのことを感じます。(またい・けんた)

受賞作

『新小岩パラダイス』(『グッバイマネー!』改め)

25歳の正志は、ある日突然会社倒産の憂き目にあう。無一文のところをオカマの泉に拾われ、正志は東京の下町、新小岩にあるゲストハウスで生活し始める。そこは20代から50代までの個性的なメンバーが一つ屋根の下暮らす陽気な家。住人の大半がビンボーな夢追い人で、ビールと枝豆があれば幸せという価値観だった。リッチマンになるのが夢である正志は、戸惑いを感じながらも仲間たちとの共同生活を送り始める。金か? 夢か?揺れる若者の心情を描いた青春エンターテインメント。

              
              

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