かわい・かんじ
熊本県生まれ。早稲田大学法学部卒業。会社員(出版社勤務)。好きな作家・アーティストは島田荘司、綾辻行人、横山秀夫、乙一、柴田よしき、皆川博子、王欣太、永井豪、萩尾望都、立川談志ほか多数。受賞作『デッドマン』(受賞時『DEAD MAN』改題)は角川書店より9月27日に刊行予定。

第32回横溝正史ミステリ大賞

エンタテインメントの魅力あふれる力強いミステリ小説を募集。大賞受賞者には賞金400万円と金田一耕助像が贈られる。選考委員は綾辻行人、北村薫、馳星周、坂東眞砂子。今回は河合氏、菅原氏のダブル受賞。

河合莞爾さん

イリュージョニストを目指して

 私が敬愛する立川談志家元は「落語とはイリュージョンである」と仰いました。奇マジック術などの不条理なものに入っていきたい、それを言葉のイリュージョンでやるのだ、と。家元は、このイリュージョンという言葉を「わくわくする不条理」という意味で使われたのだと、私は思っております。
 落語がイリュージョンなら、全ての物語もまたイリュージョンです。いえ、伝説や神話を含めた全ての創作物がそうでしょう。創作物は、人間が生きる上では特に必要ないものにも思えます。しかし、いつの世にも人間の傍らにあります。きっと、人間にはイリュージョンが必要なのです。現実の世界には、ままならないことがあまりにも多すぎますから。もしかすると、イリュージョンがなくなったら、人間は生きていけないのではないでしょうか?
 私もイリュージョニストになりたい、いつの間にかそう思うようになりました。デビッド・カッパーフィールドが自由の女神を消したり、万里の長城を通り抜けたり、空中に浮遊して見せたりするのと同じく、私も紙の上に、胸躍る不条理を出現させたいと思ったのです。
 賞を頂いた『デッドマン』は、いくつもの死体から組み立てられた男が蘇る、というお話です。もしあなたがイリュージョンを体験したくなった時に、私の本を手にとってしばし不条理の世界に遊んで頂けたら、これ以上の喜びはありません。
 ところで今回、「賞と顔」という題の文章を書く機会を頂いて、私が小説を書いたもう一つの理由がわかったような気がします。きっと私は、新しい「顔」が欲しかったのでしょう。それは新しい名前を持つことであり、新しい人格になることであり、新しい社会を手に入れることです。
 つまり私は、本当の自分とは別に、嘘の自分が欲しかったのです。そして嘘の自分でいる間は、本当の自分が嘘になります。
 自分が嘘になる! なんて不条理で、なんて素敵なイリュージョンでしょう!
(かわい・かんじ)
受賞作

『デッドマン』

頭のない死体、胴体のない死体。身体の一部が切り取られた死体が都内で次々と発見され る。異常な連続殺人事件の発生に警察の捜査が難航する中、捜査本部の鏑木鉄生に1通のメールが届く。差出人の名前はデッドマン。彼は、自分は連続殺人事件の死体から蘇った死人であり、自分を殺した犯人の捜査に協力したいという。そして鏑木は、デッドマンから得た情報をもとに捜査を進めるうちに、連続殺人事件の裏に隠れた驚くべき真実を知る。

にし・こういちろう
1955年、富山県生まれ。東京造形大学造形学部絵画科卒業。無職。趣味は愛犬との旅行。好きな作家は山本周五郎、司馬遼太郎、小川洋子。受賞作『玉ぎょくと兎の望のぞみ』は講談社より2013年1月に刊行予定。また第4回朝日時代小説大賞も受賞した(受賞作『無名の虎』は朝日新聞出版より11 月刊行予定)。

第7回小説現代長編新人賞

自作未発表の長編小説を募集。大賞受賞者には賞金300 万円が贈られ、受賞作は書籍刊行される。選考委員は石田衣良、伊集院静、角田光代、杉本章子、花村萬月。

仁志耕一郎さん

成功者の陰には支える人々がいる

 時代小説を書き始めて三年。歴史を眺め、そこに生きた様々な人生を垣間見た時、すべては出会いだと痛感させられてしまう。小説現代長編新人賞の受賞作『玉ぎょくと兎の望のぞみ』の主人公、国友一貫斎は山田大圓であり、朝日時代小説大賞の受賞作『無名の虎』の主人公、軍兵衛は駒井高白斎です。そして、私の場合は、若桜木虔先生です。
 出会いは三年前の夏でした。プロの小説家を目指して、すでに十年が経っていました。いくつもの賞に出してもすべて落選。半ば夢を諦めかけていた時です。妻が先生の講座をネットで見つけ、「一度、覗いてくれば」と言ってくれたのがきっかけでした。
 通信添削では、まさに目から鱗が剥がれる如ごとくでした。小説の禁じ手、新人賞で取り上げてはいけない題材など、今まで何をしてきたのかと痛感させられたものです。先生からの言葉で未だに忘れられないのが、「仁志さんは、ミステリーは向いていない」です。十年もの間、ミステリー作家を目指してきた私には残酷な言葉でしたが、はっきりとそう言ってもらえなかったら、未だにミステリーを追い掛けていたことでしょう。
 その後、先生から時代物を勧められ、今回二つの受賞に至りました。五十七歳で、ようやくプロの小説家のスタートラインに立つことができたのも、先生のお蔭です。
 ここまで十三年も掛かりました。よくモチベーションが続いたものだと自分ながら驚きます。また、私を支え続けてくれた妻も、私以上に辛かったのではないかと思います。何しろ、その間、私の収入はなく妻の収入だけでやってきたのですから夫失格です。普通の感覚だったら、間違いなく離婚です。
 入賞した二つの作品には、主人公の苦労はもとより、陰で支え続けた人々を描いています。それは献身的に努めてくれた、私の妻への賛歌だったかもしれません。
 今後は歴史の中で、名も無き人々たちを活き活きと描いていきたいと思います。
(にし・こういちろう)

受賞作

『玉兎の望(ぎょくとののぞみ)』

一介の鉄炮鍛冶が、貧乏に耐えながらも己を磨き、いくつもの発明をし、やがては天体望 遠鏡を作ってしまう。江戸後期、その性能は世界一と賞賛され、月・木星・土星・太陽の黒点など観測し、克明にスケッチする。東洋のエジソン・国友一貫斎の半生を描いた物語。               
              

ながつき・ありす
1964年、愛知県生まれ。愛知教育大学教育学部史学教室卒業。主婦。趣味は映画鑑賞(といっても最近はほとんど見てない!)とピアノ。受賞作『ノブナガ、境さかいがわ川を越える──ロボカップジュニアの陣』はポプラ社より刊行予定。

第2回ポプラズッコケ文学新人賞

小学校中・高学年〜中学生が夢中になれる、エンターテインメント小説を募集。大賞受賞者には賞金100万円が贈られ、受賞作は書籍刊行される。

奈雅月ありすさん

主人公になりきり物語の世界の中に浸って楽しむ

 お話を書き始めて十数年。
 最初は、子どもの日々の成長をスナップ写真に収めるように、物語に仕上げて楽しんでおりました。そのうち「百万もらって家族でハワイ」が目標になりました。これが案外早くに実現し、その先は……と考えたとき、プロになるという目標が見えてきました。
 以来公募生活が続きました。一作世に出ても、次作が出ない現状。できれば出版社主催の公募で出たい、という夢が、今回ようやく叶いました。それでも、この手にできたてほやほやの本を手にするまで、まだまだ夢のようで信じられません。
『ノブナガ』は、息子がロボカップジュニアのサッカーに取り組んだことがきっかけで生まれました。
 今は地方の時代。「ものづくり愛知」なら、ロボットという最新技術と、尾張(=信長)、三河(=家康)の違いを結びつけたらおもしろいのではないか、という思いつきがここまで広がりました。
 私はふだん、同人仲間と書いております。厳しいながらも愛情たっぷりの批評に耳を傾け、常に刺激を受け続けることで、今日まで書き続けてこられました。
 のみならず、読者であり応援団である友人たちもおります。
 この作品も、数々の批評を咀そ嚼しゃくし、数えきれないほどの書き直しをし、ここまできました。でも、作品に到達点はないと思います。これからさらに磨きをかけていきたいと思います。
 子どもたちに「明るい未来が待っているから」などといえない世の中です。でもせめて、生きていれば楽しいこともあると気づいてほしい、そう願ってお話を書き続けてきました。
 かつて自分がそうであったように、主人公になりきり、時がたつのも忘れ、ひととき物語の世界の中に浸って楽しむ。そんなすてきな時間を与えられるよう、作品を紡いでいきたいと思っております。
(ながつき・ありす)

受賞作

『ノブナガ、境川を越える──ロボカップジュニアの陣』

主人公織田伸永(おだのぶなが)は、織田信長を信奉する、尾張・名古屋の中学二年生。ある日、大嫌いな家康の生誕地である三河・岡崎に引っ越すことに。カルチャーショックの連続で、尾張と三河の境を流れる境川は、今も意味のある川だと思い知る。ロボットでサッカーをする「ロボサッカー部」へ入部し、殿様然とした天才児、徳田家康(とくだいえやす)と出会うことで大きな変化が──。

              
              

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