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阿刀田高の「TO-BE小説工房」最終回に寄せて駄文供養をしてみむとてするなり

カテゴリ:13_読書記録ノート


次回発行の2021年11月号(10/8売)をもって、第79回で月刊公募ガイドの連載が終了した阿刀田高さんの「TO-BE小説工房」。毎回応募いただいていた方も少なくなかっただけに、個人的にもとても残念に思いました。

 

大学を卒業して以降ほとんど小説を読んでこなかった私ですが、6月下旬にひょんなことから目覚めて読み始め。これも何かの縁と、自分でも小説を書いてみようと思い立ってしまいました。

 

なぜ?と言われてもジブンでもよく分からず、「書いてみたいと思ってしまったから書いただけ」ではありますが。阿刀田さん、長きにわたり連載いただきありがとうございました。

 

[第79回課題]骨

「棘と痺れ」

 

オフィスで残業し、資料の最終チェックに集中していると左手に痺れがあった。気のせいかとも思ったが、人差し指と親指を中心にじわじわと広がってくる感覚もある。広告代理店に勤務している私は、大きなプレゼンを明日に控えているが、一晩寝れば何とかなるかもしれない、とひとまず問題を先送りにすることにした。

 

翌朝になっても痺れはおさまるどころかより確実にまとわりついていた。朝一番の商談をつつがなく済ませると、上司に症状を説明し、駅近くの病院に駆け込んだ。

 

「変形性脊椎症が進行して、頚椎椎間板ヘルニアになってますね」。レントゲン写真を見ながら、医師がそう告げた。頸椎は七つの骨で構成されているのだが、上から四つ目が変形して突起状に成長してしまっているらしい。その棘が神経を圧迫し、左手の痺れを起こしているとのことだった。ビタミンB12を主成分とする薬が処方されたが、それでも「痺れが小さくなることはあっても、基本的にはなくならないだろう」という見立てに、私は絶望した。現状程度の痺れであれば、いまの業務に支障はないが、趣味で描いているイラストには致命的だった。

 

診断から一か月ほどたった土曜、イラストレーター仲間の飲み会に参加した。向かいに座る凧助氏は世田谷ニートを兼業しているが、こう見えて五万人以上のフォロワーがいたりするから油断ならない。

 

「そうは言っても痺れてるのは左手だけなんでしょ? 利き手じゃないし、描けるんじゃないの。ほら、水木しげるだって戦争で片腕をなくしたけど作品を発表し続けたよね」

 

もしかしたらわざと楽天的に放言することで、和ませようとしてくれているのかもしれないが、そういえば彼とは去年の夏に深大寺の鬼太郎茶屋に行ったのだった。

 

「そんな偉人と比べないでほしい。最初は自分でも大丈夫かなと思ったんだけど、それがそう単純でもなくてさ。そりゃあ描けるか描けないかだけでいえば描けるよ。でも、全然いい感じにならないんだよね」

 

完全には納得していない怪訝な顔をしながら、いがぐり頭を掻き掻き、凧助氏はジョッキでメロンクリームソーダを飲んでいる。彼は酒が飲めない性質なのでしょうがないのだが、いいからいったんそのジョッキを脇に置いてくれ。

 

「ぼくだってキミの絵は好きなんだから、そこは何とかしてほしいけどね。先週の個展はいつも通りのクオリティーだったと思うけど」

 

いやいやあれは、ほとんどが痺れる前に描いてたやつなわけさ。

 

「見に来た子に手を出したりとかしなかったの? わざわざ来てくれた時点で好かれてるのは間違いないわけだからさ。いけるでしょ」

 

私にはそんなチャンスは発生したように見えなかったが。なるほどね、とうなずきながら彼の好物である手羽先のラスト一本を奪ったところで、本日はお開きの声が上がった。

 

その後、SNSの更新が滞りがちな私のアカウントは日々じわじわとフォロワー数を減らしていた。それは自分のライフゲージがみるみる減っていく様を可視化されているようでもあったが、フォローしてくれている人たちはイラストを見るのが目的なのだ。更新がされなくなれば、フォローを解除されてしまっても仕方ない。もしこの数字がゼロになってしまったら、自分は死んでしまうのでは。そんな気持ちにもなったが、いっこうにイラストが描ける日は訪れず、ともなって界隈の飲み会にもお声がかからなくなっていった。痺れは左手だけでなく、左半身全体にも及んでいるかのような錯覚さえ感じていた。

 

大きなプロジェクトがやっとひと区切りした会社帰り、久々に氏と連絡を取ろうと思いSNSのメッセージ画面を開いた。

 

「凧助さんが昨日上げてたイラスト、めっちゃ伸びてますね。さすがです。まとめサイトにも載っていて、フォロワー数また四百人くらい増えたんじゃないですか?」

 

「こちらは相変わらずその後も描けておらず、最近ではモチベ自体もなくなってます」

 

「思えば仕事以外、プライベートの時間はイラストを描くことと、絵師の皆さんとのコミュニケーションすることの他には何もなかったように思います」

 

 ここまで一息に三通も送ってしまったことに気づき我に返った。第四頸椎から伸びた棘は左手をとっくに通り越し、イラスト自体やSNSを通じた活動にも作用することで、現実の人間関係にも痺れという形で現れていた。

 

夜中まで待ったが通知はない。もう一通だけ送ろう。

 

「もう一年くらい新しいイラストは描けてませんが、過去のデータはあるので、それでまたお茶の水のショップにバッジ作りに行きませんか?」

 

メッセージの返信が来ることはなかった。

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