TK-プレス 其の26「作家への道という行列」
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新横浜ラーメン博物館に行ったとき、A店には行列ができていたが、B店には誰も並んでおらず、いずれにしても両方食べるつもりだったので、まずはB店に入った。その後、A店に行こうとしたら、なぜかB店の前は大行列で、逆にA店はがらがら。してみると、たいていの人は行きたいから行くのではなく、みんなが行くからさぞ旨かろうと思って並ぶものらしい。
以前、韓国にプロ野球を作る際、視察のため関係者が来日したことがあったが、その際、「一つのスポーツにこんなにも人気が集中するのは問題だ。韓国は日本の轍を踏まない」と発言し、なるほど確かにと思った。クラスの男子十中八九までが野球少年でもいいが、他のスポーツをしていれば一流になれたかもしれない子がプロ野球選手を目指し、三流にもなれなかったら悲劇だ。
まだ学生の頃、縁あって近藤芳美教授の部屋を訪ねたことがあった。先生は高名な建築家でもあったが、教授室には歌集がたくさんあり、「先生は短歌が趣味なんですか」と聞いてしまった。後日、先生が歌壇の第一人者と聞き、畏れ多いにも程があるぞ、俺の無知! と冷や汗をかいてしまったのだったが、それはさておき近藤先生の話。先生は、戦時中、捕虜になったが、米兵に職業を聞かれ、歌人は英訳できないのでpoet、そしてarchitectと答えたところ、急に待遇がよくなったそうだ。先生は言った。「西洋では詩人と建築家は権威なんだ。何千年もの歴史があるからね。それに比べて小説は数百年の歴史しかない。日本で小説家というと偉い先生ということになるけれど、あのとき、小説家だと言ったら、ああはならなかっただろうね」
とはいえ、日本で小説家が人気なのは確かであり、童話では脚光を浴びにくく、詩人では食えない。脚本家やコピーライター、作詞家は職業的な位置づけがはっきりしすぎていて、五十、六十になってから目指すのも相当無理がある。本人も楽しみつつ、しかし、短歌や俳句のように全くの趣味でもないという意味では、小説はまさに打ってつけなのかもしれない。(黒)