創作トレーニング実習 第18回発表
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創作トレーニング実習 第18回発表
第18回の課題は、「ある男女二人は険悪な雰囲気です。
人物の動作や表情、しぐさを書くことで、彼らの心理を表現してください」でした。
第15回のときに「切ない」という言葉を使わないで「切なさ」を表現しましたが、
ここでも心の中を意味する生の言葉を使わないように書けるといいです。
■第18回採用作
挙式
河野めぐみ
「やっぱりやめようよ、そういうの」
紗都美から電話がかかってきた。
「今さら遅いよ、レストランだって予約済みだ」隼人は応じない。
「キャンセルすればいいじゃない」紗都美も負けてない。
「いいじゃん、一生に一度しかないんだよ。あ、ケータイ、電池ぎれかも」
といって話を終わりにしようとする。
「なんの意味があるのよ」
「けじめだよ、けじめ」ひとつ置き、最後のひと押し。「もう明日だからね、ちゃんと来てよ。来なけりゃ、こっちから行くからな」
電話を切ろうとすると、「そういう強引なところが嫌いなのよ」という紗都美の声が聞こえたが、「じゃあね」とかぶせてケータイを切った。
翌日の夜、紗都美は約束通り、渋谷にあるレストランに現れた。
ビジネスウーマンらしい紺のスーツに縦ロールの髪を揺らし、隼人のいる半個室席に来た。
一方の隼人はと言えば、ポロシャツにチノパンという格好。それでも無職の精一杯のオシャレだ。
「一時間だけだからね」
紗都美は釘を刺す。不満顔でも怒った顔でもなく、あきらめたような顔に近い。しょうがない、この人とも今日限りだから、最後ぐらい付き合ってやるかという顔だ。
「はい、これ」隼人はバラの花束を差し出す。
「あら」紗都美は一瞬うれしそうな顔をしたが、すぐに真顔になり、「むだなお金、使わなくていいのに」
そこにウェイターが、小型のウェディングケーキのようなものを持ってきた。
紗都美は頬杖をついて、半ば放心状態で隼人を睨んでいる。
「どうだい、小型だけど、なかなかのもんだろう」
紗都美は渡されたナイフをいやいやといった感じで受けとる。「ここまでやる?」
隼人は椅子をずらし、紗都美の横に並んだ。
「ほら、早く」
隼人に急かされ、二人でひとつのナイフを握る。
紗都美は隼人を睨んでいたが、あきれ果てて最後は笑みを漏らしていた。なに、これ。
「いよいよケーキの入刀です。人生で最後の二人の共同作業です」
そして、隼人と紗都美の離婚式は終わった。
(了)