【特集INTERVIEW 番外編】 岸本葉子(エッセイスト)

  • 文芸

2019.09.09

【特集INTERVIEW 番外編】 岸本葉子(エッセイスト)

撮影:賀地マコト

特集INTERVIEW 番外編


岸本葉子(エッセイスト)
きしもと・ようこ。1961年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業後、会社勤務、中国留学を経て執筆活動に入る。食や暮らしのスタイルの提案を含む生活エッセイや、旅を題材にしたエッセイを多く発表。同世代の女性を中心に支持を得ている。俳句にも造詣が深い。
10月号の特集では、エッセイストの岸本葉子先生にインタビューしました。その番外編をお届けします。
 
背伸びして書いても、
選考委員にはわかる


「うまく書こうとするな」という文章作法があります。
書き慣れない人がうまいふりをしようとすると、文章が硬くなる傾向があります。
たとえば、単に「驚いた」でいいんじゃない? というところでも、
「驚愕の眼差しで一瞥をくれるのであった」とか。

こういうのを、ペダンティズムと言いますね。
「オレはこんな難しい文を書ける」とひけらかしているわけです。
でも、プロが読んだら、背伸びしてもまずバレます。
「この人は、中身の薄さを言葉でごまかそうとしている」と。

中身に自信がある人は、もっと普通に、もっと平易に書きます。
実力以上のことを書いたふりはしません。背伸びもしません。
そんなことをしたってどうせバレるのだから、
自分にできることを普通にします。

 
面白い内容でも、
あまりにも下手では採れない


これに対し、井上ひさしさんは、「うまく書こうとしないで、うまく書けるはずがない」という趣旨のことを言っています。
さすが、文章の達人クラスになると、本質を突きますね。

「うまく書こうとするな」は、難しい言葉を使えば高尚な文章だと思ってもらえるとか、明治期の翻訳調のような文章がいいというような勘違いを諭したもの。
うまく書こうとすること自体を否定しているわけではありません。

確かに、エッセイ公募の落選作を読んでいると、
「こんなに面白い体験をしたのに、切り取り方を間違っている」とか、
「文章があまりにもつたなすぎて、伝わるものも伝わらないなあ」と、
とても惜しい気になることがあります。

選考委員の方々は、「いいエッセイを発掘したい」という気持ちで読んでいます。
テクニックを超えた、書き手の思いを見出そうとしています。
「だけど、いくらなんでも、この書き方では入選作にできない」
と、残念に思いながら落とすわけですね。

 
事実であっても、
やりすぎると嘘っぽくなる


一方で、うまい人ほど、作り込みすぎる傾向があります。
たとえば、作者の気持ちを代弁させて、
「その日は朝から暗雲たちこめる空模様だった」とか。
一瞬、本当かなあ、嘘くさいなあ、と思ったりします。
でも、事実かもしれないし、本質的な部分ではないからいいか、と読み進める。

すると、作者のスマホが震え、父親が入院したという知らせが来ます。
慌てて実家に帰り、病院に急行する。
一時はどうなることかと思ったが、手術は成功し、事なきを得る。
そして、父親はこうつぶやく。
「三途の川が見えたけど、渡らなかった。だって、父さん、かなづちだから」

で、この公募のテーマが「工具」だったりすると、
えー! 本当? 事実だとしても、別のときに言ったのを、このときに言ったことにしたんじゃないの?
と思ってしまいます。
事実はわかりませんが、なんとなくピンと来る。話がうますぎるなあと。
なぜわかるか。私たちもよく使う手だからです。

これも技術のうちですから、やるのはいいと思います。
嘘と言えば嘘ですが、まるっきり創作したわけではないので許容範囲でしょう。
でも、やるならうまくやりたいですね。
うまいからできることではありますが、やりすぎにはお気をつけください。

(ヨルモ)


 
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