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【特集INTERVIEW 番外編】白石一文(直木賞作家)

  • 文芸

2020.02.07

【特集INTERVIEW 番外編】白石一文(直木賞作家)

撮影:武井優美

特集INTERVIEW 番外編


白石一文(直木賞作家)
1958年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部在学中から小説を書き始め、文藝春秋勤務を経て、2000年『一瞬の光』でデビュー。2009年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞、2010年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。父親は直木賞作家の白石一郎。
3月号(2/7発売)の特集では、直木賞作家の白石一文さんにインタビューしました。ここでは、編集部によるこの番外編をお届けします。
 
WEB限定!誌面に入りきらなかったインタビューはこちら
 
 
父が教えた、ものを書く秘訣とは?

3月号の巻頭では、直木賞作家の白石一文さんにインタビューしました。
白石さんのお父さまは、直木賞作家の白石一郎さんですね。
親子で直木賞作家、ほかには例がないそうです。

直木賞は現在、162回まで実施されており、該当者なしが30回ほどありますので、約130名の直木賞作家がいることになりますが、親子が1例しかないということは、文才は遺伝しないということかもしれません。
しかし、生まれ育った環境は大きいと思います。

幼い頃から読書指導を受け、中学を終えるまで選書は父の特権だった。活字の本だけでなくマンガ本や雑誌も彼が与えてくれるものを読み、そして、しばらくすると必ずそれぞれの感想を求められた。
(白石一文『君がいないと小説は書けない』)

なんだか小説版『巨人の星』って感じですが、たとえが古かったですかね。
閑話休題。白石一郎さんは、まだ小学校低学年だった一文さんにものを書く秘訣を教えます。
さて、ここでクイズです。
お父さまの白石一郎さんは、文章をうまく書けるようになるには、何をすればいいと教えたしょうか。

1. 常日頃から正確な言葉をじっくり喋るように努力すればいい。
2. 常日頃から頭の中にある映像を正確に再生するように努力すればいい。
3. 常日頃から的確な比喩を考えるように努力すればいい。

 
書きたい人に必要な資質とは?

父親が小説家という環境で育った白石一文さんですが、小説を書き始めたのは意外と遅く、大学生の頃だったそうです。そのきっかけが面白い。

それまで小説に類するものは一度も書いたことはなかった。急にその気になったのは、正月休みに実家に戻ったとき、父の最近作をいつものように批評していたら、そんなことはそれまで一度もなかったのだが、激しい口論に発展してしまったためだった。
お互い感情的になり(父も私もふだんは滅多に怒らないタイプの人間だ)、私がかねて感じていた父の小説の欠点をあげつらっていると、父が不意に、
「そこまで言うなら、お前が書いてみろ!」
と怒鳴ったのである。
(白石一文『君がいないと小説は書けない』)

それで白石一文さんは小説を書き始めます。
その後、文藝春秋に就職し、編集部を始め、さまざまな部署をまわります。
そんな中で小説を書いてデビューし、今年作家生活20年を迎えるわけですが、今回の公募ガイドのインタビューの中で、書きたい人は必要な資質として、あるものを鍛えたほうがいいとアドバイスしています。
さて、それはなんでしょうか。

1. 記憶力
2. 演技力
3. 国語力

どれも必要な気がしますが、上記のうちの「これ」がないと、小説を構成したり伏線を張ったりとかがしにくいということです。
と言えばもうおわかりですよね。

 
作家修業になった芥川賞・直木賞の事務方

白石一文さんは、文藝春秋にいた頃、芥川賞・直木賞に関わる部署にいたことがあります。
ある日、小説誌の編集部にいる先輩が、
「これ、僕の知り合いが送ってきたんだけど、読んでみるとなかなかのものなんだよね。社内選考委員会に回すかどうか検討して貰えないかな」
と言って、分厚い二巻本を差し出してきます。

『君がいないと小説は書けない』の中ではN賞となっていますが、選考の過程は以下のように説明されています。
以下、N賞の部分だけ抜粋して紹介します。

N賞の候補作は、大衆文芸部門の編集者二十数名が委員となった社内選考委員会で選ばれ、その後、現役作家十名で構成されるN賞選考会にかけられて受賞作が決定されることになっているが、N賞の場合は対象となる作品数が余りにも膨大であるために事務方であらかじめ選別した作品のみを社内選考委員会に回すことになっていた。
(『君がいないと小説は書けない』から抜粋)

白石一文さんは、この事務方をしていました。膨大な数の小説を読み、「これは○、これは△、これは×」とジャッジしていくのは、作家修業としてはまたとない機会かもしれませんが、いくら小説が好きでも苦行でしょう。
そうでなくても時間がありませんので、大手出版社刊でない二巻本を渡されても困りますね。

まったく無名の作家が小さな地方出版社から出した二巻本の大長編を持ち込まれるのはありがたい反面、いささか迷惑でもあった。
(白石一文『君がいないと小説は書けない』)

しかし、この大長編が候補作になり、翌年、次回作で直木賞を受賞するんですね。
『君がいないと小説は書けない』の中では、この地方出版社は静岡にあるガルス出版、著者はX氏となっています。
歴代の直木賞一覧を見れば、文藝春秋、新潮社、講談社、集英社など大手出版社が並ぶ中、聞いたことがない出版社が一つだけあります。
海越出版社 宮城谷昌光『夏姫春秋』、これでしょうね。

さて、白石一文さんは芥川賞・直木賞に関わっていたとき、受賞者に電話連絡をする係をしていました。
その際、受賞者には白石さんが連絡し、落選した人には担当編集者から連絡が行くことになっていたため、ある言葉が出てきたら受賞とわかるのだそうです。
では、その言葉とはなんでしょうか。

1. 「日本文学振興会です」と言うので、「日本」という言葉が出てきたら受賞とわかる。
2. 「文藝春秋です」と言うので、「文藝」という言葉が出てきたら受賞とわかる。
3. 「選考委員会です」と言うので、「選考」という言葉が出てきたら受賞とわかる。

皆さんが候補者だったらどうでしょうか。やきもきするか、それとも平静を装うか。
バラエティー番組だったら、
「文藝春秋の、日本文学振興会の、選考委員会です」
とか言って焦らしそうですね。

(ヨルモ)




『君がいないと小説は書けない』(新潮社・1900円+税)
編集者だった頃の上司、前妻との離婚で世話になった弁護士、そして最愛の女性。過去と現在を自在に行き来する、スリリングな半実話小説。
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