【特集INTERVIEW 番外編】村田沙耶香(芥川賞作家)
- 文芸
2020.04.09

撮影:賀地マコト
INTERVIEW 番外編
村田沙耶香(芥川賞作家)
1979年生まれ。2003年群像新人文学賞優秀賞受賞。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年『コンビニ人間』で芥川賞を受賞。
5月号(4/9発売)の特集では、芥川賞作家の村田沙耶香さんにインタビューしました。ここでは、編集部によるその番外編をお届けします。WEB限定!誌面に入りきらなかったインタビューはこちら
普通の人に戦いを挑むのが小説!
外国に行くと、彼我の差を知ったりします。
田舎から都会に出てきたときも、習慣や文化の違いに驚いたりします。
身近なところでも、知人が当然のようにやったことが自分の常識と違うと、あれ、そういうものなのかなと思ったりします。
気づきがあるという意味では、他人と違った習慣、文化、感覚を持っていたほうがいいです。
特に創作をしたいという人は、独自の感性を持っていたほうが有利ですね。そのほうが常識をうがつことができます。
「うがつ」というのは表面に現れない事実や世態、人情の機微をとらえること。「なるほど、言われてみればそうだ」というところに気づきやすくなるのですね。
しかし、人と違うというのは、本人からするとつらいところもあります。
多数派の場合は気になりませんが、自分は少数派であり、しかも、そのことで下に見られていると思うと、ちょっと気になります。
「それが常識だ」と言わんばかりに責めるように言うけど、その常識って本当に正しいの?と思ってしまいますね。
村田沙耶香さんの芥川賞受賞作『コンビニ人間』ではないですが、30歳を過ぎてコンビニでアルバイトしていることをおかしいとか、普通になるための腰かけのように言われるのもなんだかなあですね。
こうした普通と思われている常識に戦いを挑んできたのが、実は純文学なんです。
小説は孤独な疑いから生まれる
村田沙耶香さんの新刊『丸の内魔法少女ミラクリーナ』は少女向けのファンタジーとかではありません。「普通だと思われていることは本当にそうなのか」に気づかせてくれる、考えさせられる小説です。
たとえば、収録された短編「無性教室」では、性別が禁止されています。
相手が男か女かわからない状態で、恋愛が発生するかな、異性だと思って好きになったら同性だと知ったときはどうするかななど、考えてしまいますね。
別の短編「変容」はファミレスが舞台ですが、そこで働く若者は客に理不尽な苦情を言われても全く怒らない。それで主人公は聞きます。「むっとしないの?」と。
すると、若者は言います。「むっとするってなんですか」
若者に感覚的な違いを見ることは誰でもありますが、その原因が世代の差ではなく、人間自体が変容してしまった結果と考えると? 怖いですね。
小説は、一種の仮説だと思います。
「私はこう思う」「これが小説の面白さだ」「これこそが小説だ」「人間とはこういうものではないか」というような仮説です。
それに対して、「違うよ」と思う人が多ければ失敗、共感は得られず、「そうだ」と思う人が多ければ成功、賛同を得られたというわけです。
高橋源一郎さんは、『一億三千万人のための小説教室』(岩波新書)の中でこう書いています。
「すべての小説は(広く、「文学は」)、「笑っている」「皆んな」の方が違っているのではないか、という、孤独な疑いの中から生まれてくる」
皆さんの小説には、「孤独な疑い」はありますか。
村田沙耶香さんの小説にはそうした問いがあります。
興味がある方は、新刊『丸の内魔法少女ミラクリーナ』を読んでみてください。
また、公募ガイド5月号(4/9発売)の巻頭インタビューでは、芥川賞作家の村田沙耶香さんがどのようにして小説を書いているかについて聞いています。
小説を書こうと思っている方は、こちらもぜひご覧ください。
(ヨルモ)

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』(KADOKAWA・1600円+税)
36歳のリナは、魔法少女ごっこを始めて27年目。理不尽な残業も妄想で脚色して乗り切っている。果たして彼女は親友をモラハラ彼氏から救えるのか……? 表題作「丸の内魔法少女ミラクリーナ」を含む4編を収録した短編集。
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