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【特集INTERVIEW 番外編】松尾諭(俳優)

  • 文芸

2020.06.09

【特集INTERVIEW 番外編】松尾諭(俳優)

INTERVIEW 番外編


俳優 松尾諭
1975年兵庫県生まれ。俳優。NHK連続テレビ小説「ひよっこ」「わろてんか」「エール」に出演のほか、「ノーサイド・ゲーム」などドラマ、映画、舞台で縦横無尽に活躍中。
7月号(6/9発売)の特集では、俳優の松尾諭さんにインタビューしました。ここでは、編集部によるその番外編をお届けします。
 
WEB限定!誌面に入りきらなかったインタビューはこちら
 
落とし主は、芸能プロダクションの社長!

浜田省吾の「いつももうすぐ」という歌の歌詞に、
〈あの頃、ぼくはまだ十八で、望めばすべてが叶うと信じてた。〉
という一節があります。
誰でも覚えがあると思いますが、十代というのはそういうものですね。

松尾諭さんも同じで、高校のときに学校で演劇を鑑賞し、スタンディングオベーションで拍手を浴びる姿を見て、「あれをやりたい」と思います。
そこまでは誰でもちょっとは思うものですが、松尾さんの場合、その数年後に本当に役者を目指して上京するんですね。

このとき、松尾青年は「なんとかなる」と思っていたそうですが、そう思っていると、物事は本当にあっさり実現してしまったりします。
上京したときは劇団のオーディションは終わっており、来年までなすすべもなく過ごしていましたが、そんな折、自動販売機の下で航空券を拾います。
それを警察に届けたところ、落とし主が現れ、カフェで会います。

「関西の方ですか」
「はい、最近出てきたばっかりで」
「何をしに出てこられたんですか」
「はい、役者になりたくて」
「私、プロダクションの社長をやっているんですよ」
(松尾諭『拾われた男』より)

なんだ、このマンガみたいな展開は? って思いますよね。
本当にこんなことがあるんですね。
ちなみに松尾さんは、俳優になったきっかけを聞かれるたびにこの話をし、すでに200回ぐらいしているそうです。
話したくなりますね、こんなすごい話!

 
縁あって映画に出演、故郷に錦を飾る?

その後、俳優業は順調に……とはなりませんでした。
芸能プロダクションに所属したといっても、オーディションに受からなければ仕事はありません。なのに、これが受からない。落ち続ける。
応募者は多いが、採用されるのは数人ですから、そうそう受かるものではありませんね。
このあたり、公募と事情がよく似ています。

すると、当然、収入はアルバイトでということになりますが、役者志望の人は急に休んだり、長期休暇をとらなければならなかったり……その他、いろいろあって、生活は安定しません。
そうなると、行きつく先は消費者金融ということになりますよね。
なんだか、先行きが暗くなってきました。
詳しい話は6/29発売の『拾われた男』を読んでもらうとして、誌面に反映できなかったエピソードを一つ紹介しましょう。

上京してほどなく、松尾さんは縁あって戦争映画に出ます。日本兵役です。
端役ではありますが、松尾さんは大学を中退し、親の説得を突っぱねて上京していますから、初めての映画出演のことは言いたくなりますよね。故郷に錦を飾るってやつです。
それで実家に帰り、食事のときに両親にこの話をしますが、父親はこう言います。
「おまえ、そんな事言いにわざわざ帰ってきたんか」

父親としては手放しで喜びたいところですが、“大学を中退して役者になるために東京に行くと宣言した時に無言で怒りを示した父”だそうですので、そんなことで成功したと思っているのかと言いたい気持ちもあったでしょう。そんなことで満足していてはだめだと戒めたい気持ちもあったでしょう。

親心ですね。そして、男と男の会話です。
ちなみに、口では「そんな事言いにわざわざ帰ってきたんか」と言ったお父さまでしたが、松尾さんが出演した映画を観に行き、スクリーンに映るカットをデジカメに収め、自宅のパソコンの壁紙にしていたそうです。

 
「いい意味での危機感のなさ」が継続の秘訣

最近、松尾さんが出演しているドラマをよく見ます。
NHK朝ドラ「ひよっこ」では、奥茨城村を通るバスの運転手をやりました。
朝ドラ「わろてんか」では、漫才師・リリコ(広瀬アリス)の相方でした。
現在放送中の朝ドラ「エール」では、裕一の銀行員時代の先輩役をやっています。

先日は、「ノーサイド・ゲーム」を再放送していました。相手チーム「サイクロンズ」のGMをやっていたのが松尾さんです。
そう言えば、NHKドラマの「不惑のスクラム」にも出ていました。
松尾さんはラグビー経験者だそうですから、その経歴が生かされたでしょう。

最近こそよく見かけるようになりましたが、松尾さんは現在、40代。役者を目指して上京していきたのが23歳のときですから、約20年間の紆余曲折があるわけです。
一口に20年といっても、長いですよ。成長期ですから、30歳も過ぎれば、同級生は会社でけっこうなポジションにいたりするでしょう。
一方、松尾さんはなかなか芽が出ない。消費者金融の借金もかさんでいく。
そろそろ潮時かと思ってもおかしくないですね。

論語に「三十にして立つ、四十にして惑わず」とありますが、ここは岐路ですね。
そこをどう乗り切ったかは『拾われた男』に任せるとして、インタビューを通してひとつ思ったのは、「なんでも長くやると、他人にはない魅力を得られるものなんだな」ということでした。
それは味というものかもしれません。

味のある役者。味のある演技。
これを公募に引きつけて言えば、味のある文章ですね。
やっていることは同じなのに、ひと味違う。
似たようなことを書いているのに、味わい、雰囲気が全然違う。
そういうもの得たいですが、一朝一夕には身につきません。

やはり、一つのことを長く続けないと得られないですね。
では、どうしたら継続できるのか。
松尾さんは、「いい意味での危機感のなさ」と言っています。
リスクを考えたら、夢や大志は抱けないものです。
こういうところは、役者も創作者も同じですね。

(ヨルモ)




『拾われた男』(文藝春秋・1500円+税・6/29発売)

17歳のとき、初めて生で観た芝居にビビっときた少年は、やがてチャンスを求めて上京。自販機の下で航空券を拾って届けたところ、落とし主はなんと芸能プロダクション(モデル事務所)の社長! 家族、恋愛、海外での壮絶な体験など、一筋縄では行かない半生を振り返る自伝的エッセイ。カバーイラストも自ら描いた渾身の1冊。
  
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