特集 あなたの小説に足りないのは謎だ!

  • 文芸

2019.10.09

特集 あなたの小説に足りないのは謎だ!

イラスト:かわいみな


謎のある話はミステリーに限らない
昔から身近にたくさんあった!


話を先へ先へと引っ張り、相手に「それで? それで?」と思わせるには、謎が必要です。
謎、もしくは、この先どうなるのかという期待と言ってもいいです。
謎と言うと、ミステリーの専売特許と思うかもしれませんが、どんな小説にも謎はあります。謎のない小説を探すほうが難しいですね。

恋愛小説: 二人の恋は成就するのかという謎で引っ張ります。
心境小説: 主人公はいったい何を感じたのかという謎で引っ張ります。

もっと言うと、昔話や民話の中にも謎はあります。
たとえば、かぐや姫が出てくる「竹取物語」にしても、いきなり藪で竹が光っているのですから、「それは何?」と思いますよね。謎です。
謎のある話は、すでにして身近にたくさんあるということですね。

「浦島太郎」はミステリーではないですが、時系列をひっくり返し、浦島太郎が白髪のおじいさんに変身するところから始めたとします。
「この人、なんでこんなことになったんだろう」と思わせたところで時間を巻き戻し、浜辺で亀を助けるところから始めればミステリー仕立てになります。
謎がない話でも、謎を作れば、簡単に謎物語になるということです。

 
面白い小説には、序盤に大きな謎があり、
読み進めるごとにその謎が解かれる


ミステリーでない小説でも、「面白い」と言われる小説は謎で引っ張っています。
実例は無数にありますが、たまたま手元にあった小説を取り上げてみましょう。
葉室麟さんの直木賞受賞作『蜩の記』です。

主人公は、檀野庄三郎という武士。
小説の冒頭で、庄三郎は向山村を目指して歩いています。
途中、ある少年と会い、
「向山村に住む戸田秋谷(とだ・しゅうこく)という方をお訪ねしたいのだが」
と聞くと、少年はこう言います。
「戸田秋谷なら、わたしの父です」

その後、庄三郎は少年に案内されて、秋谷宅に行きます。
この段階で、文庫本397ページ中の13ページ。
ほんの序盤です。

まだどんな話なのか、秋谷が何者で、庄三郎にどんな役目があるのもわかりません。
この調子でずっと続いたら読むのをやめてしまうところですが、文庫本の14ページに秋谷についてこう書かれてあります。

〈鶏が鳴き声を上げながら畑のあちこちを行き来するのどかな光景を見ていると、この家の主人が幽閉されており、いずれ切腹しなければならないのだ、ということが現実ではないように思える。〉

私、ここで「わあっ」と興奮してしまいました。
幽閉されているって、いったい何をしたの?
いずれ切腹しなければならないって、いったいどんな心境?
これは絶対先を読みたい、と。

先を読みたいと思うポイントは人それぞれですが、
「この人物に、どんな人間ドラマがふりかかるのか」
「主人公は、これとどう向き合うのか」
そんなような謎があり、読み進めるごとにその謎が解かれる。
この手法、ほとんどミステリーですよね。

 
ミステリーの小説作法は、
他の小説の作法にも通じる!


ミステリーを書くこととは、本当にあったような世界を人工的に作り上げていく作業です。
殺人事件なんて、この日本ではそんなに身近にはありません。
これを現実と地続きのように思わせるには、まず動機の設定が必要になります。

無差別殺人というのもありますが、普通、人を殺した人がいたとしたら、なんらかの動機があるはずです。やむにやまれぬ思いもあったでしょう。
多くのミステリーでは、こうした動機が設定されています。
動機の設定がないと、人間ドラマとしては薄くなるからです。

リアリティーを持たせるためには、動機だけでなく必然性も大事です。
たとえば、恋人を殺し、その罪を恋敵の同僚になすりつけようとしたとしましょう。
「恋人を殺しました。そこにたまたま同僚が来ました」では都合がよすぎます。偶然に頼ってはいけないとは言いませんが、頼りすぎは禁物です。

「警察が来ましたが、犯行は全くバレませんでした」これも甘いですよね。
本当? 日本の警察ってもっと優秀では? 防犯カメラはなかったの?
という読者のツッコミに対して、「たまたま警察が見逃してしまって」という結論だったらガッカリですね。

そう思われないように、ミステリー作家はいろいろ工夫するわけですが、この作法は他のジャンルにも通じます。
恋愛小説でも私小説でも、人間を描く以上は動機という心の動きに敏感にならないといけませんし、なんでもかんでも「そのとき、偶然」で済ませていたら、都合のいい話だと思われてしまいます。

いかにリアリティーのある小説にするか、いかに実際にあってもおかしくないという自然さを作るかは、ミステリーに学ぶのが近道です。
さあ、次作はちょっとミステリータッチで書いてみましょう。
きっといろいろな発見があるはずです!

(ヨルモ)



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1. あなたの小説に謎を盛り込め!
2. 昔話の時代から物語には謎とトリックがあった
3. ミステリーに人間を描くことを教えてもらおう!
4. 昔話『桃太郎』をミステリー仕立てにリメイクする
5. 謎を作るなら知っておこう、フェアプレー
6. 知っておきたいミステリーの基礎知識
7. ミステリータッチで書いたら応募! エンタメ文学賞
8. インタビュー 書評家:杉江松恋

 
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