特集 文芸編集者に教わる小説講座

  • 文芸

2020.04.09

特集 文芸編集者に教わる小説講座

イラスト:ミマツ ユウ


文芸編集者は作家と二人三脚で原稿をチェックしたり、一緒に考えたりします。
伴走者であり、時に先導者でもあります。
今回の特集は編集者がいかに作家を育成しているかを知ることで、小説について、新人文学賞について学んでもらおうという趣向です。
編集者版小説講座、開講!
 
作家と編集者はどんなやりとりをするか

プロになると、作家には担当編集がつきます。
編集者は原稿の催促をし、どんな作品なのか内容を聞きます。さらに具体的なプロットの提出を求めることもあります。書き上がったあとに、「そもそもこの設定では」となったら、お互いに時間のむだだから心配になるのですね。

原稿が提出されたら、編集者は文章、展開、結末、構成などを細かくチェックします。相手が新人作家の場合は特に念入りになるでしょう。
作家はそれを受けて書き直します。

「ここはこうしたほうがいいのでは?」という指摘どおりに直すわけではありません。
結果的にそうなることもありますが、一から十までそれをやっていたら自分の作品ではなくなってしまいます。修正の趣旨は踏まえつつ、自分で考えて修正します。
編集者からしたら、「思いもよらない直し方をしてきた。でも、こちらのほうがいい」となるのが理想です。

こうした作家と編集者のやりとりは、新人作家とベテラン作家では違いますし、作家、編集者のパーソナリティーによっても違います。純文学とエンターテインメント小説でも差異があるでしょう。
前々号になりますが、公募ガイド3月号で紹介した『君がいないと小説は書けない』(白石一文著・新潮社刊)の中に、編集者について書かれた一節があります。興味深いので紹介します。

  私は作品の内容に関して担当編集者と相談したことがない。
  書くものについては全責任を負いたいし、自分が書きたいように書きたいとずっと思っているからだ。
(白石一文『君がいないと小説は書けない』)

実績のある作家に対しては、「何を書くかは一任する」というケースが多いですが、「相談したことがない」というのはレアなケースでしょう。
白石一文さんは直木賞作家であり、これまでもこのやり方でいい作品をきちんと仕上げてきた。そうした実績があるから、編集者も安心して待てるのだと思います。
編集者からの要望についてはこう書いています。

  書き上がった原稿を渡したあとも、編集者からの「こうして欲しい、ああして欲しい」という要望に応じることはほとんどない。ある編集者が「面白くない」と言う原稿は、別の社の編集者に持ち込めばいいと考えている。(中略)
  作品と編集者とのあいだには明らかに相性があって、作品を気に入らなかった編集者相手に内容を変えるよりは、「面白い」と言ってくれる編集者を探して出版した方がずっと合理的だと思う。
(白石一文『君がいないと小説は書けない』)

それだけのものを書いているという自負を感じますね。孤高です。
しかし、新人作家の場合はそうは言いにくいでしょうね。デビューした出版社の担当編集とうまく付き合っていきたいし、それに他社の編集者も知りません。
気概は見習いたいですが、うかつには真似しないでください。
 
大物作家の原稿でもビシバシ修正を入れる?

ちなみに、白石一文さんは大手出版社の元編集者ですが、『君がいないと小説は書けない』には編集者時代の話もたくさん出てきます。

  文芸誌の編集者だったとき、かねて愛読していたFさんに原稿を依頼したことがある。(中略)Fさんも快く注文を引き受けてくれ、しばらくすると原稿ができあがってきた。
  渡された原稿を一読し、私は気に入らなかった。Fさんのこれまでの作品に比べると見劣りがするように思えたのだ。
  さっそくFさんと会って、その旨を伝え、原稿は返却した。
(白石一文『君がいないと小説は書けない』)

小説の鑑賞力について相当の自信がなければできない芸当です。
このとき、白石一文さんは一編集部員ですが、ボツにするのであれば、編集長に判断を仰ぐところです。
それをせずに、「わざわざ編集長に読ませるまでもない」と独断で判断できたのは、編集者として一目置かれていたからでしょう。

ちなみに、白石さんがボツにしたこの作品は、2年後、芥川賞を受賞したそうです。
『君がいないと小説は書けない』には、《穴があったら入りたい、という言葉があるが、Fさんの受賞の報に接した瞬間の私の心境はまさしくそれだった。》と書かれてあります。
しかし、これは推測ですが、原稿を突き返されたFさんは、その後、原稿に相当手を入れたのではないでしょうか。そうとしか考えられません。

もう一つ、編集者と作家のやりとりについて、面白いエピソードを書いています。
少し長いですが、引用します。

  ある日、A社でもたくさんの作品を出版し、ベストセラーも数多く出してくれている大物作家が久々に文芸誌に長編を載せたいというので作品を寄せてくれたことがあった。編集長は初校ゲラを手にすると、さっそく朱筆を握って細かい文章のチェックを始め、それこそ目にも留まらぬ速さで接続詞や副詞の削除と調整、文節の入れ替えなどを行なっていった。
  (中略)
  誰から知らされたのか、大物作家のゲラにビシバシ朱筆を入れている編集長の様子を聞きつけた文芸局長が編集部に駆け込んできたのだ。
  彼は編集長の手元のゲラを手に取ると、
「●●君、これはやりすぎなんじゃないかね……」
  と釘を刺してきた。
  結局、その後、他の編集幹部も交えての協議が行われ、編集長の朱筆の入ったゲラはお蔵入りとなり、大物作家には校閲部からの〝疑問出し〟だけが記入されたゲラが届けられたのだった。
(白石一文『君がいないと小説は書けない』)

大物作家の原稿を朱筆で真っ赤にするということは今はまずないと思いますが、新人作家の場合は今でもあり得ます。
受賞者といえども、小説に対する知識、経験、筆力がまだまだという場合、特にライトノベルのように受賞者が若い場合はそうなることが多いようです。

ただ、昔は編集者がスパルタで新人作家を鍛えましたが、それで大きく育つこともあれば、逆にくさってしまうこともあり、その反省もあって、今はある程度のレベルにある作品なら出版してみて、市場に判断してもらう方向にシフトしています。
出版されることで作家としての場、地位を得て、大きく才能を開花させる場合があるからです。
 
現役編集者や元編集者を5人取材

こうした文学の現場や作家になってからのことは、一般の方は知りません。
編集者にサポートしてほしくても、そのような人はいません。
編集者は陰の存在ですから、なかなか触れ合う機会がありません。

そこで、公募ガイド5月号では、現役編集長3人、および元編集長2人に取材し、編集者がいかに新人を育成しているか、どうしたら才能が磨かれるかをまとめました。
5人の編集者に弟子入りするつもりで、小説のこと、新人文学賞のことを学んでもらえればと思います。
巻末では、プロの登竜門と言える純文学系新人賞5賞と、エンターテインメント小説系新人賞4賞について、受賞後、どれくらい活躍しているかを比較したグラフを掲載しています。

(ヨルモ)

【5月号特集「編集者に教わる小説講座」 概要】

1. 現役編集長に聞く
・「新潮」編集長 矢野優
・「文學界」編集長 丹羽健介
・「小説現代」編集長 塩見篤史
2. 作家育成のスペシャリストに聞く
・元「海燕」「野性時代」編集長 根本昌夫
・元「小説新潮」編集長 校條剛
3. 小説の才能の磨き方
・担当編集のいないアマチュアはどうすればいいか
4. プロの登竜門的文学賞比較
・純文学系新人賞5賞、エンターテインメント小説系新人賞4賞
・有名作家輩出ランキングと出版点数ランキング、作家生存率を調査
公募ガイド2020年5月号
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2020年4月9日発売/定価680円
【特集】編集者に教わる小説講座
【INTERVIEW】村田沙耶香(芥川賞作家)
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