巻頭SPECIAL INTERVIEW 古市憲寿

  • 文芸

2019.02.08

巻頭SPECIAL INTERVIEW 古市憲寿

撮影:古本麻由未

巻頭SPECIAL INTERVIEW


古市憲寿(社会学者)

 
社会学者。1985年東京都生まれ。 若者の生態を描出した『絶望の 国の幸福な若者たち』で注目を 集める。著書は『だから日本はズ レている』『保育園義務教育化』 など多数。日本学術振興会「育志 賞」受賞。慶應義塾大学SFC研 究所上席所員。
是か非かを考えてほしいから、小説というジャンルを選んだ

安楽死――。
センシティブな問題だが、考えてしまう。このまま高齢化社会が続いたら、認知症患者や要介護の人が増え、その費用は誰が負担するのか、誰が介護するのか。幸福に生きたい人の生活をどう保障するのだろうと。

その一方で、もしも自分が末期がんになり、家族もなく、生への執着もなくなったときのことを考えると、「もう死なせてくれないかな、それに税金はもっと有意義なことに使ってよ」と思ってしまうかもしれない。

実際、安楽死は、スイス、オランダ、ベルギー、カナダ、韓国などでは認められており、アメリカやオーストラリアでは州によっては合法だ。もちろん、実施するにあたっては二重三重の審査と調査、カウンセリングが必要だとは思うが、合法化したほうが不幸な死が減るのではないかとも思う。

というようなことをエッセイや論文で書く場合は、賛成か反対か、著者の立場をはっきりさせないといけない。しかし、答えがない問題の場合や、一人一人に考えてほしい場合は、エッセイや論文にするより、小説にしたほうがいい。
古市憲寿さんが『平成くん、さようなら』を小説にしたのは、そうした理由からだ。

 
事実と実在の人物を並べ、安楽死関係だけが虚構という巧妙さ

古市憲寿さんの『平成くん、さようなら』には、耳慣れない言葉がたくさん出てくる。
たとえば……。

ウーマナイザー 女性器を刺激する大人の玩具
UBER 配車サービス。
Tinder 出会い系サービス

知っている人は知っているのかもしれないが、「これって本当にあるのかなあ」と思って検索すると、ちゃんと実在する。
蜷川実花とか、アダム徳永とか、実在する人物名もたくさん出てくる。
きめつけは東野幸治。

「そうか、レーシックしてもまた視力が低下しちゃう場合もあるんでしょ。東野さんのツイッターで読んだ気がする」

というセリフがあり、試しに東野幸治さんのツイッターを見たら、本当に書いてあった。
さらに、主人公の平成(ひとなり)くんは文化人であり、「文芸春秋」でエッセイの連載をしている。
どうしたって、「これ、私小説だよね」と思ってしまう。

ところが、舞台装置はことごとく事実でありながら、「安楽死」にまつわる一点だけがフィクションなのだ。なんと巧妙なテクニック。「近い将来、日本はこうなっているんじゃないか」というリアリティーは、この設定が支えている。

  • 『平成くん、さようなら』
(文藝春秋/1400円+税)
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