歌集『母の愛、僕のラブ』と短歌の「今」

2020.01.14


 
「短歌」というと、どんなイメージを持つだろうか?

雅、伝統的、難解……から一変、今まさに「口語短歌の時代」が到来している。口語短歌とは、私たちが使っている現代の日本語で書かれた短歌のこと。

俳句と混同しやすいが、短歌には季語は必要ない。57577のリズムが根幹にあるものの、音数をオーバーさせる「字余り」の技法など、意外と自由度も高い。そんな短歌に口語のムーブメントが起こり、また、SNSなど作品を発表する場が広まったことによって、気軽に短歌を始める人も増えてきている。
 

歌人の笹井宏之さんは、2009年に26歳で亡くなった。口語短歌を中心に、柔らかな光を灯すような作品を遺している。笹井さんの歌集は、はるな檸檬さんの漫画『ダルちゃん』や、NHK『あさイチ』でも取り上げられ、今なお話題だ。
 

「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい

(笹井宏之『ひとさらい』)

 

その笹井さんの歌集を手がけた出版社・書肆侃侃房が、没後10年となる2019年に「笹井宏之賞」を設立した。公募の短歌賞としては、何もかもが規格外だ。まず、応募の窓口はインターネットのみ。20代から40代の若手歌人・詩人が選考委員を務め、応募作すべてを読む。そして、大賞受賞者は自己負担なしで歌集を刊行できる。古典の代表格であり、年配の愛好者も多く、歌集は自費出版が一般的である短歌においては型破りだ。結果、第1回に応募された384編のうち、ほとんどが口語短歌であり、応募者は20代が最も多かった。
 

第1回笹井宏之賞大賞は、柴田葵さん「母の愛、僕のラブ」50首。選考委員の一致で受賞が決定したという同作品も、やはり口語短歌だ。
 

バーミヤンの桃ぱっかんと割れる夜あなたを殴れば店員がくる

帰ると言って帰ってこない恋人の本当の家に住みたかったな

(柴田葵『母の愛、僕のラブ』)

 

数ヶ月後の2019年12月。受賞作と同名の歌集『母の愛、僕のラブ』が刊行された。装画は宮崎夏次系さん。笹井宏之さんの没年に公募漫画賞「ちばてつや賞」で準入選し、デビューした人気漫画家・イラストレーターだ。

母の愛、僕のラブ

歌集には受賞作を含む14編の作品を収録。「ぺらぺらなおでん」「忍たまが好きだった柏木くん」など、タイトルを見る限りでも普段使いの言葉で綴られていることがわかる。

 
「ほとんどの人が、短歌に触れることなく生活しています。けれども『短歌と相性がいい人は実は相当多いはず。まずは多くの人に、この歌集の存在を知ってもらいたい」と柴田さん。
 

笹井宏之賞は、先日、第2回の受賞者が発表された。公募から本の出版へ。短歌の「今」を、ぜひ読んでみよう。

母の愛、僕のラブ ブックフェア

※歌集『母の愛、僕のラブ』書肆侃侃房
http://www.kankanbou.com/books/tanka/0387