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【制作の裏話】絵to短歌 vol.02 みなはむ×工藤玲音

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2022.07.08

絵と短歌のコラボレーション企画「絵to短歌」。工藤玲音さんが、毎回変わるイラストレーターの絵から短歌を詠む、季刊公募ガイドの連載です。ウェブでは、制作後におこなった工藤さんとイラストレーターの対談をお届けします。

お題 | 影

みなはむ

1995年生まれ。武蔵野美術大学卒業。自主制作で絵画作品を発表する一方、書籍の装画などを手がける。装画の仕事に『美しいからだよ』(思潮社)、『不可逆少年』(講談社)などがある。

工藤玲音

1994年生まれ。コスモス短歌会所属、著者に第一歌集『水中で口笛』、中編小説『氷柱の声』、エッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』『うたうおばけ』など。

[対談]
みなはむ
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工藤玲音

あの頃の自分、今の自分。

今回のお題は「影」。作品に感じる「懐かしさ」から、お二人の故郷のことや創作するうえで大切にしていることを聞きました。

01_肉体感覚に近い、夏の景色

みなはむさんに「影」というお題を選んでいただき、絵を描いていただきました。どうして、このお題を選んだのですか。

みなはむ:5月上旬の頃、車に乗っているときにお題の候補を見ていました。奥多摩のあたりを通っているとき、窓の外に新緑の山と杉並木がずっと見えていて、影と光の感じが夏だなと思ったんです。その感動を、そのままぶつけたら形にしやすいかなと思い、選びました。

山道に一人、少女がいますね。

みなはむ:人物は自分の心情を表現するために描いています。個人の制作では男の子二人か、女の子一人を描くことが多いのですが、今回の絵は女の子が一人でいるほうが印象的になるだろうなと思ったんです。

それは、どうしてですか。

みなはむ:男の子二人の場合は、関係性を眺めるように描くことが多いです。女の子は誰かと分け合うというより、「一人で生きていかなきゃいけない孤独」を感じます。今回は孤独を描きたくて、女の子一人を描きました。

工藤さんは絵を受け取って、どう思われましたか。

工藤:みんながイメージできる抽象的な「夏」よりも、ずっと肉体感覚に近い絵を描かれているなと感じました。夏というと、広葉樹の木漏れ日のイメージがあるのですが、この絵に描かれている木は杉ですよね。私はいま田舎に住んでいるので、こういう景色にとても見覚えがあります。入道雲の頭が見えていることから、標高が高い場所なのだろうな。影にいるけれど、湿度があって涼しくなさそうだし、木や鳥や虫の音がとてもうるさそう。

記憶を呼び起こすような夏の景色ですよね。

工藤:このガードレールから、国道のような歩道もない狭い道だろうと思いました。十代が歩くようなところではない場所を、女の子が浮かない顔で歩いている。誰かと一緒に歩いているのではないかと思ったので、この子を横で見ている人の視点で詠みました。もっと夏っぽい歌のほうがいいかなと思ったのですが、この絵に十分、夏のリアルさがあるので、胸を借りて自由に詠ませていただきました。

02_「竜」を抱えている女の子

工藤:先ほどみなはむさんが「孤独を描きたい」と仰っていてすごく納得しました。短歌の主体(女の子を見ている人)と、女の子と二人でいるはずなのに、お互い孤独だと感じたんです。だから、主体は何も言えない。強い日差しの分、影も濃いというか。自然とこの2首になっていきました。


言いかけた言葉は竜となりきみの耳のくぼみの影へ潜った
葉の影を鱗のようにふるわせて森は真夏のまぶしさを喰う

「竜」が出てくるのが面白いですね。

工藤:夏の自然や眩しさと、いるかいないかわからない「竜」という生物には、呼応するものがあるような気がします。今回は「竜」と「鱗」という形で出しました。
それと、他人の耳のくぼみってぎょっとするくらい黒いときがあるんですよ。影が落ちているだけなんですけれど、怖いくらい黒いって思うときがあって。この絵の女の子の耳はそこまで黒くはないですが、抱えているものがあるとすれば、耳に収まるサイズではないと思ったんですよね。りすとかちょうちょとかよりも、アラジンの魔法のランプのように、小さいところからとても大きなものが出てきそうな、意味深な感じを受けました。それで、大きな生物である「竜」という表現にしました。

たしかに、女の子は何かを秘めているような様子に見えますね。短歌の主体はこの子に恋をしているのかな、と感じましたが。

工藤:属性は恋人や友達など特に設定してはいなかったのですが、相聞歌(恋の歌)っぽくなりました。無意識のうちにどうにかしてこの子を振り向かせたい、笑顔にしたいと考えていたのかもしれません。でも、うまくいかずに孤独を感じる、みたいな気持ちの推移があったように思います。

みなはむ:すごく、よく見てくれてるなと思って、感動しました。描いた場所が全部、言い当てられていて。私は、なぜここにいるのかとか、何をやっているのかとかを確定させずに描くことが多いのですが、捉えてくださっていてすごいです。

今回、みなはむさんにご依頼したときに「短歌と絵の組み合わせに興味があった」と仰っていました。

みなはむ:組み合わせることで、広がりが出るだろうなと思って興味がありました。短歌は特に、31音という短い字数での表現なので余白に優れているなと感じていて。

たしかに、31音の外側に広がりがあるように感じますよね。工藤さんは、余白を意識して作っていらっしゃいますか。

工藤:私の感覚では余白を意識するというよりは、限られた字数なので、何を言って、何を言わないかを決めることが勝負なのかなと思っていますね。
絵はシーンを決めてから描かかれると思うのですが、どのように決めていらっしゃるのですか?

みなはむ:私は感覚で描くことが多いですね。自分にとって気持ちがいい構図に描きながら近づけていきます。ラフを大きくしたり、小さくしたりして、どうしたら見たときにイメージが響くかなという基準で選んでいますね。あとは、スナップ写真のように瞬間的な場面を切り取るものに惹かれるので、それを意識しています。

03_作品に滲むバックボーン

工藤:みなはむさんの絵って、「私もこれ、やったことがある!」と思うようなリアルさがありますよね。自分の力では思い出せないけれど、見ると突然思い出す。頭の中で保存されている記憶が喜ぶような感覚があって、とても魅力的だと思います。

みなはむ:ありがとうございます。自分自身がけっこう子どもなんだと思います。

工藤:思い出して描くっていう感覚ではないのですか。

みなはむ:そうですね。ちょっと昔のものが好きなんです。過ぎていった文化に憧れがあるので、絵もそういう趣味に近づいているのだと思います。

工藤:感覚的な話になりますが、みなはむさんの絵には、「入ったことない路地にある、呼ばないと店員さんが出てこないスーパー」みたいな匂いがありますよね。「古いでしょう、懐かしいでしょう」みたいないやらしさがない。

みなはむ:嬉しいです。まだ「レトロ」のレッテルが貼られないくらいの、思い出のなかのような感じが好きなんです。新しいものも綺麗で便利で助かるのですが、古いものも残っていてほしい。

工藤:昔の文集を読んでいるときと同じ気持ちというか、そのときは古くなかったものたちなんですよね。みなはむさんの描く苔とか雑草とかも、すごく見覚えがあります。夏だからって向日葵や朝顔じゃない。

みなはむ:ちょっとひねくれてるんですよね。あからさまなモチーフの魅力もあるんですけど、そうでないところで「こういうのあったな」って感じてもらえたら描いている人冥利に尽きます。

工藤:いつ頃から今のテイストで描かれているのですか。

みなはむ:大学生の頃、自分の描きたいものってなんだろうと考えたときに、「自分の見てきた景色は、世界中のみんなが見てきた景色とは違う」と気づいたんですよね。地元は、普通の住宅街の中にたまに工場があるという感じで、特別感のなさに悩んでいたのですが、私の景色はこれでいいんだなと思えたんです。
工藤さんのご著書を読んで、工藤さんは東北のアイデンティティがあるんだな、自分とは全然違うなと思いました。私は、地元にアイデンティティがないと思っていたので。

工藤:私が育ったところは、石川啄木の故郷として有名で、幼い頃からふるさとのアイデンティティを植え付けられる感じがありました。それが嫌だったんですが、大学を卒業して仙台を出たら、けっこうそういう思いをしている人は多そうだと思ったんです。読者から「わかります!」と言ってもらえることが増えてきて、違う場所にいても自分と同じような景色を見ている人がいるんだと思って、解放された感じがあります。
反抗心をむき出しにしていた時期もあったのですが、よくも悪くも自分のバックボーンって作品に滲むなあと思って、最近は諦めています。そういう人間として書くしかない。

04_あの頃の自分

創作をするうえで、お二人が大切にしていることはありますか。

工藤:読者が増えたり、担当編集さんがついたりしても、17歳の文芸部にいたときの自分が喜ぶかどうか、で決めています。高校生のとき、全部を目の敵にしないと息ができない時代がありました。でもその頃はすごく自信に満ち溢れていて、決断力があった。大きな決断や節目のときには、自分の中にいる17歳の自分に人生相談をしにいきます。「え、ダサ」って言われたらやめるし、無理だと思っていても「いや、お前がやれよ」って言われたらやる。

みなはむ:私はポリシーってあんまりない気がする。自分が嫌なことだけやらないようにしてます。

工藤:かっこいい!

みなはむ:嫌なことって向き合うと、脳みそが止まっちゃって無になっちゃうんですよね。何も考えられなくなっちゃうのでやらないです。全部直感的につかみ取っています。

工藤:みなはむさんのTwitterのプロフィールに、「好きな絵を描きます」って書いてあるのがすごくかっこいいなって思いました。

みなはむ:いえ、好きな絵しか本当に描けなくて。私、イラストレーターって自称できないんです。イラスト的な絵は描いているのですが、依頼されたらどんな絵でも描くというようなことはできないな、と。制作したいものはいろいろあるのですが。プロフィールは牽制する意味合いで書いています。

工藤:なるほど。

みなはむ:亥年だから、猪突猛進な感じで書きつづけています。
工藤さんの「17歳の自分」とはちょっと違いますが、中学生くらいの不安や恐怖でいっぱいだった自分に、今は経験で「それは大丈夫だよ」と言える。そういう絵を描いて、いろいろな人の不安な気持ちに寄り添えるものをつくりたいと思っています。ポリシーっていうポリシーはあまりないですね。

「好きな絵だけを描く」というのも、十分に素敵なポリシーだと思います。

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お楽しみください!


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