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未来の挑戦者へ 第1回絵と言葉のチカラ展グランプリ 堀川理万子さん

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2022.03.31

受賞者が未来の挑戦者であるあなたに向けてメッセージを送ります。今回は絵と言葉のチカラ展でグランプリを受賞した堀川理万子さんです。
第1回
絵と言葉のチカラ展

アートは人々の心を潤し、活力を与えるものだという信念のもと、心が豊かになる作品が1点でも多く世に発信されることを願い、発足されたコンテスト。第1回の応募総数は583点。

規定絵画:15号以内、重さ20kg以内。素材、技法は自由。
言葉:400文字以内。

グランプリ1点=賞金50万円・松坂屋上野店本館美術ギャラリーでの個展開催・「芸術新潮」掲載、NOBUKO賞1点= 賞金30万円、ほか

第1回「絵と言葉のチカラ展」でグランプリをいただいた堀川理万子です。自分の画家としての仕事が続けられることが一番と思って、この30年やってきました。実際、どうにかこうにか続けてこられたわけです。

でも、ある時から、制作を楽しい気持ちだけでやっているのが気になり、他者や社会への視点を取り入れたいと思い始めました。そんな時に「絵と言葉のチカラ展」のことを聞いたのです。第1回だということ、そして、審査員に、美術評論家の山下裕二先生がおられること、それで応募してみようと思いました。

応募を決めた、そんなおりに、自作の絵本『海のアトリエ』で、Bunkamuraドゥマゴ文学賞をいただきました。作家で選者の江國香織さんが、この1年にでた本の中から、私の絵本を選んでくださった。賞なんて全く縁のない30年でしたから、驚きました。この受賞で「作品を評価してもらえる」という喜びを味わったのです。そして「絵と言葉のチカラ展」でも、なんとか賞をもらいたいものだと意欲的に取り組みました。かつてそんな野心をもったことはなかったのですが。

受賞作1 
昭和16年12月「のら犬と臨時ニュース」

路地で口笛を吹くと、のら犬が集まってくる。屋台で買ったおでんをあげるんだ。そして犬たちの頭をなでたり、ときどき、鼻をなめたりする(犬の鼻はしょっぱい)。そしたら、犬からジフテリアがうつっちゃった。それでぼくはかく離病棟に入院したんだ。お医者さんはもう犬の鼻をなめてはいけない、という(がっかりだ)。それはそうと、今朝、病院の廊下がざわざわしてて、ラジオの音が聞こえてきた。
「臨時ニュースヲ申シ上ゲマス 大本営陸海軍部12月8日午前6時発表…帝国陸海軍ハ本8日未明 西太平洋ニオイテアメリカイギリス軍ト戦闘状態二入レリ……」
「どういう意味?」と看護婦さんに聞くと、
「戦争が始まったのよ」と、教えてくれた。
「せんそうか…」
でもさ、とにかくぼくは犬たちに会いたい。はやくよくなって、はやく会いにいきたいんだ。

2021年の夏に観たドキュメント映画『東京裁判』は鮮烈でした。私もこういうふうにヴィジュアルと言葉で世の中に呼びかけることがしたい、理不尽な戦争に対する私なりの考察をしたい。そこで、子どものころから繰り返し聞いてきた、父の戦争にまつわる記憶を主題に作品を作ることにしました。87歳の父には細部の考証をしてもらい、2点の連作としました。

作品を完成させ、応募を済ませると、とてもくたびれました。集中とプレッシャーで疲れたのだと思います。そして、受賞の知らせを聞いたときは、喜んだと同時に、なぜか心底ほっとしたのです。作品にこめた思いを受け取ってもらえたことへの安堵というのでしょうか。 長い間、「特別な自分じゃなくていい、続けられれば」と思ってやってきたのですが、賞に応募することで、フォーカスすべきところに向けて制作する新鮮さを味わいました。

おりしも、ウクライナで戦争が始まり、今回、戦争をテーマに制作した作品がタイムリーになってしまったことはとても悲しいですが、「とことんやらねば」と自分を鼓舞しつつ制作したことが受賞に繋がり、それが大きな励みになりました。私は56歳です、でも年齢は関係ない、いつでも、私たちは何を始めてもいいし、何に挑戦してもいいのだと思っています。

受賞作2 
昭和20年12月「たき火とリュックサック」

戦争はおわったけど、食糧は不足したままだ。三ヶ日の駐屯地にいるおじさんが「米があるぞ」というので、行って、リュックいっぱいもらってきた。これだけあれば、お母さん、喜ぶな。 帰りは、駅で始発を待つことにした。知らない人が「おい、こっちに来てたき火にあたれよ」と、火のそばに座らせてくれた。ぱちぱち燃える火があったかくて眠くなる……。「さむ…」、目が覚めたら、たき火は消えていて、広場に一人で寝ていた。立ち上がって、気づいた。リュックがない!がっくりして家に帰るとお母さんが「おかえり。おや、米は?」と聞いた。「ない。とられたんだ…」と答えたあと、くちびるをぎゅっとかんだけど、お母さんの顔がにじんで見えなくなった。お母さんは、「なんてことだろう…でも、おまえが無事だったからよかったよ」といってくれた。でも、お母さん、ぼくはすごくくやしいよ。

堀川理万子

1965年、東京都生まれ。画家・絵本作家。2021年、絵本『海のアトリエ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。好きな作家はウィリアム・サローヤン、好きなアーティストは鈴木信太郎。