佳作「恋愛色眼鏡 塚田宏司」

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2016.08.15

第17回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「恋愛色眼鏡 塚田宏司」

勇気がなく、異性に告白できない人は沢山いるだろう。相手の気持ちなんて分からないし、もしフラれでもしたら…… そう思うと一歩が踏み出せない。それによって意中の相手が他の誰かと結ばれてしまう。もし、あの時勇気を出していたら…… こんな悔しい思いをしたことがある人もいるだろう。
そんな思いをしなくても済む発明を私は三年の月日をかけ、遂に完成させた。ちなみに飲むと勇気が出る薬ではない。
その名も恋愛色眼鏡。
なんとこの薄緑の色眼鏡を掛けて相手と三秒間目を合わせると、告白した時の成功率が分かるのだ。人間というのは恋に落ちる時や一目惚れをする時、フェニールエチルアミンという恋愛ホルモンを分泌する。私はここに目を付けた。この恋愛ホルモンの分泌量さえ測定できれば、相手は自分の事をどのように思っているのか、恋愛対象として脈があるのかが分かるはずだと。眼鏡で測定し、八十%以上の数値が出れば、努力次第でその恋も成就するだろう。しかし三十%以下なら、残念ながら、その恋を諦めた方が賢明だ。つまり、この発明によって危険な恋の橋を渡らなくて済むのだ。高い数値が出れば背中を押すことになるし、逆の場合でも無謀な告白によって傷つくのを防ぐことが出来る。素晴らしい発明だ。しかし、開発者の私はこの眼鏡に頼るほど女性にモテないわけではない。確かに結婚適齢期を過ぎているし、最近はこの発明の為に交際どころではなかった。それでもその気になればいつでもとは思っている。
この大発明もまだ完成したばかりで実践をしていない。本当は同じ研究室で働く女性で試そうと思ったのだが、発明の内容を知るだけに皆逃げ出してしまうので断念した。
まだまだ改良しなければならない事は沢山ある。例えば、これだけの機能を眼鏡に収めるとなるとレンズも厚くなるし、それを支えるフレームも太くなるので軽量化は必要だ。しかしそれ以上に測定の精度を高める必要がある。やはり最初の実験は開発者本人が使わなければあるまい。それに私もそろそろ彼女が欲しいと思っていたところで、この眼鏡を使って、高い数値が出たら告白をすればよい。つまり実験と恋人作りにと一石二鳥だ。
さっそく私は色眼鏡を掛けて街に繰り出し、タイプの女性を探した。探していて思ったが、見ず知らずの女性に何も言わずに三秒間目を合わせるのは難しい。不審人物だと思われてしまう。そこで私は一芝居打つ事にした。旅行者のフリをして道を聞けば良いのだ。会話をしていれば三秒間はアッという間だ。「すみません。道を教えてください」と声を掛ければ皆、親切に道を教えてくれる。
一、二、三、ピピピピ眼鏡の内側レンズに数字が映る。
十六パーセント
なに? 十六パーセント? 低い、あまりにも低すぎる。目の前にいる女性は私に対して恋愛感情が微塵もないということだ。ショックを受けたが人の好みは様々なので気にせずどんどん続けた。
ピピピ十八% ピピピ二十二% ピピピ十三%。
軒並み低い数値に私は驚いた。おかしい、自分で言うのも何だが、今までの人生、私はモテル部類の人間だと自覚していたし外見にも自信があった。こんな数字が出るはずがない。もしかするとこの眼鏡はまだ正確に測定できないのかもしれない。そう思う事で一瞬安心したが、三年の月日を思い出し、どちらにせよショックだった。私はベンチに座り、俯きぼけーっとしていた
「何やっているの? 叔父さん」
私を呼ぶ声がした。顔を上げるとそこには姪のマリエの姿があった。
久しぶりに見るマリエは垢抜け、美しくなっていた。確か中学二年だったと思うが大人になったなあ。
私は感慨深い思いからマリエを見つめた。ピピピ、ゼロ%
当たり前だ。姪が叔父に対して恋愛感情があるはずがない。うん? ということはこの眼鏡の機能に問題はないのか。
「叔父さん、彼女いないでしょ?」
いきなりマリエにそう言われた。痛いところを突く小娘だ。「なんでそう思うんだ?」ストレートに聞いた。
「女なら誰だって嫌だよ、そんなダサい眼鏡かけた男」
私は速やかに眼鏡を外した。