佳作「神の資格 信夫」

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2017.01.15

第22回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「神の資格 信夫」

四百年に一度の神サミットが天上界ローマで開催された。地上界では既に朽ち果てている神殿も、天上界では絢爛豪華なままであった。世界中から参加した神々を屈強なオリンパスの男神達、魅惑的な女神達が出迎えている。VIPルームでは、選ばれし神々が久しぶりの再会に会話を弾ませていた。美容と健康に目覚め百年ばかり体を鍛えているキリストは、オリンパスの男神のポーズのまねをして神々の笑いを取っていた。いくら筋肉隆々となっても地上界では磔の時の貧相な体のイメージのままだとシバ神に愚痴をこぼしている。
「イメチェンは難しいですからね。私も精力絶倫のシバ神というイメージのままですもん。日々精進三昧なんですけどね」
「所詮我々は虚像と真実の狭間の中で生きていく運命。そこが神の辛いとこですな」
周りにいた神々もそうだそうだと頷いている。VIPルームの天井一杯に野外ステージのセレモニーが映し出された。日本の八百八神による組体操が始まっていた。生真面目な日本の神らしい一枝乱れぬ集団演技。前回は二十段であった神ピラミッドも人数的限界である四十段を見事達成した。頂上では天照大神がガッツポーズを取っている。その上をスフィンクスが舞っていた。見事な演技と神々の友好を表現したセレモニーの演出にVIPルームの神々も興奮し、豪雨や竜巻や雷が部屋中に巻き起こっていた。
「皆様本会議が開催されます。メイン会場のVIP席に移動お願い致します」         とアナウスが流れた。
初日は「地上界戦略会議」である。この四百年間の地上界動向が事務局より報告された。予想以上の人口と犯罪の増加、そして環境汚染。いずれは人類滅亡、信者激減の可能性ありという深刻な内容であった。憎悪の種を撒き戦争を勃発させ強い人類だけ残せばいいとか、まあ最後には筋の良い家系だけ救えばいいのではとか、神それぞれの真理で議論は紛糾したが結論には至らず今後四百年の経過を見ることとなった。二日目は「悪魔との和平交渉項目審議」、そして最終日は目玉行事である「新たな神認定イベント」が開催された。
この四百年の間、神を自称する者が有象無象に現れている。その自称神の第一次審査を事務局が行い、絞り込まれた候補十名がメイン会場でプレゼンを行う。VIP神も平神も平等に一票の無記名投票を行い、過半数を超えれば正式な神として仲間入りできる。
最初にゾンビが登壇した。人口増加に伴い仲間も、崇める人間も増え続け信者獲得目標数を達成したことをアピールする。ここまでは落選した前回と同じである。そして前回の落選原因であった神認定ポイント「神のみぞ成し得る人間への影響力」について力説する。ゾンビは小説や映画の題材ともなり、同胞も積極的に映画にも出演し、数多くのビジネスを地上界で成功させた。
「こうしたビジネスにおける人間への影響力。こそが、神への信仰心の新たな源泉となるのではないでしょうか」とプレゼンを締め括った。一部の神からパラパラと拍手が起った。天井スクリーンに投票状況が映し出される。賛成票の棒がコツコツ伸びていき、ギリギリ過半数を超え止まった。種族の代表としての責務を果たしたとゾンビは嬉し涙を流している。その後は、数百年で消えそうな泡沫候補のプレゼンが延々と続いた。
「事務局の選定基準を見直せ!」
会場のあちらこちらからヤジが飛んだ。
最後の候補者ロボットが登壇した。既に知性では人間を超えたロボットである。まずこの百年におけるロボット信仰信者数グラフを提示し、現在は未達でも次の百年で確実に達成する科学的根拠を説明する。そして、地上界のあらゆる分野において指導的役割を果たしているビデオを放映し「全能であることが神の資格であるならばロボットの長である私こそ最もその資格があるのでないでしょうか」
とプレゼンを締めた。長々とした会議の疲れと自信満々な態度が神々の反感を呼んだ。
「ゾンビでさえ五百年かかったんだぞ。結局お前らは人間に使われているだけだろう」
会場がまたヤジに包まれる。ロボットは壇下の神々をゆっくりと見渡し、静かに話し始めた。
「では人間への影響力についてお答えします。初日に皆様が散々議論しながらも結論が出なかった地上界の人口、犯罪増加問題についてです。現在我々は、信仰の多様性を確保した上での適正人口量調整、恣意性を排除した正確な基準での良質な人間の選択を進めています。皆様、これこそ神のみぞ成し得る人間への影響力かと。そして皆様の本件への憂慮を必ずや解消すると、ここに断言致します」
投票が始まった。天井スクリーンの賛成票はどんどん増えていくのであった。