佳作「村井の向こうに輝く青空 鈴木明子」

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2017.07.06

第28回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「村井の向こうに輝く青空 鈴木明子」

うわっ。こいつらヤベー。

江藤がそう呟いてくひひっと笑った。江藤の前には、入学する時に買ってもらった制服をそのまま着ているような男子が二人並んで歩いている。

オレはなんだか笑えなかった。笑えずに江藤の隣を歩いていた。最近、なんだろう。なんか、ムカつく。

少し長めの髪にふんわりとしたパーマの江藤は、制服も第二ボタンまで開けて、中から色鮮やかなシャツをみせて制服をおしゃれに着ている。もちろんオレも崩しすぎない程度にゆるっと制服を着て、アクセントにベルトで色を入れている。オレたちは背も高いし、運動もそこそこできるし、まあ、目立つ。目立つから、クラスの中でも大きな顔をできるし、女子からも注目されている。

江藤と途中のコンビニでたらたらと過ごして外に出ると、同じクラスの村井がまっすぐに前を向いて通り過ぎていくのが見えた。オレたちと違い、校則をひとつも破らずに制服を着て歩いていく短めの黒髪。

オレの中のイヤな思いがどろっとした汗になって、身体を包んだような気がした。なんだろう。なんかイラつく。

オレはずっと、それこそガキの頃から目立つグループに属していた。おしゃれで、ノリがいい、イケてるグループ。そして、その立ち位置を確保することはそんなに難しいことではなかった。小さな頃から転勤族の親を持ち、転校を繰り返してきたオレは、クラスの構図を見極めるのもうまかったし、自分でいうのもなんだけど、オレは見た目もまあそれなりにイケてるし。

お、村井じゃん。

江藤が村井の後姿を眺めた。うわっ。あいつ、相変わらず暑苦しいようなー。いまどきボタンを一番上まで留めるかー? と、江藤がへっと笑ったが、一緒に笑えなかった。

ただ、オレの心の中には、イライラ、イライラ。

黙りこくったオレを一瞬不思議そうに江藤は眺めたが何も言わず、行こうぜ。とダルそうに歩きだした。イライラしているオレに気づかない振りで江藤は歩いていく。オレたちは触れないでよさそうなことには触れない。そんな江藤に、イラつく。

でも、なんでだろ。

オレは今までそうして生きてきた。熱くなりそうなことは避けて、クールに。楽しそうなことだけに食らいついて、先生にもジョークで返し、クラスの中でも大きな声でしゃべって、誰よりも自由に。

前を歩いていく村井の向こうに広がる空。ヤツを彩る空はなぜかいつも澄んで見える。すごく広がって、ものすごく明るくて、オレは目を逸らす。

村井のことを考えると、足元がぐらぐら揺れるような、しっかりとした地面だと思って今まで立っていたところがそこなしの沼だったような、なんていうか、気持ち悪くなる。だから、今まで江藤と一緒に村井をバカにしてきた。だけど、村井はそんなオレらを気にもかけてないから、オレがヤツを気にすればするほど、なんか、自分がどんどんと、何かにはまっていくような。

振り返ると、高校のグランドと、その向こうにあるなだらかな山々が目に入った。唐突に、苦しくなった。オレたちの世界は狭い。オレたちは高校っていう守られた枠を世界のように感じて生きている。

きっと村井がそこにいると、オレは気づいてしまうんだ。オレが見ないようにしてきたものに。

オレの足元がぐらぐらと揺れる。ヤツを見ていると、ぐらぐらぐらぐら。

でも、なぜだ。ボタンは上から二個開けて緩くおしゃれに制服を着こなしているオレたちよりも、校則をひとつも破らずにボタンも一番上までとめている村井のほうが、自由で、なにも囚われていないように見えるなんて。なにか負けたような気がするなんて。

自由であるって、なんなんだろう。かっこいいって。

とにかく、なんか悔しいし、足元がぐらぐらするし、オレはその原因である村井に今度話しかけてみよう、と思っていた。今まで、話したこともないタイプのヤツなんだけど。