佳作「 とびこみ面談 入月景史」

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2017.09.06

第30回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「とびこみ面談 入月景史」

創業五十年、日本屈指の花火製造販売会社である橋本煙火株式会社の事務室に一本の電話が入った。デスクの上に週刊プレイボーイを広げていた三代目社長、橋本憲治は自ら受話器を手に取り、ぶっきらぼうに自社名を告げた。

「求人募集?特にはしてないが。なんだ、うちで働きたいのか?」

相手の男は山岸治と名乗りいかにも若々しい声色をしていて、話を聞くとどうやら花火に携わる職を探しているらしく、しかしいくら求人情報を探してみても見つからないものだから、ネットで調べて直接うちに掛けてきたという。

「基本的に広告や求人誌に載せたりはしないからな。でもやる気のある人間は歓迎するよ。年はいくつだ?十八?なんだずいぶん若いな」

ついこの間まで高校生だったということだが、その口振りはそうは思わせぬ落ち着きぶりをみせていて、そこには相応の覚悟というか信念のようなものが感じられた。うちは少数精鋭で、一番若いのが三十三。ここいらで十代の見習いでも入ってくれば、職場に新鮮な空気が流れ活気が出るかもしれない。

後日面談を行うという形で話をまとめ、橋本は受話器を置き、デスクの隅のメモ帳に「水曜十時ヤマギシ」と記し再び雑誌を手に取った。

面談当日、山岸は約束の時間の十分ほど前に姿を現した。長身細身の色白な男で、この業界にはちょっと似つかわしくないなというのが第一印象だった。

応接間に案内しテーブルを挟んで向かい合わせに腰を下ろすと、山岸は持参したクラッチバッグから角形の茶封筒を取り出し、中から履歴書を取り出して橋本のほうへと差し出した。

「バイトの経験は?」
「いえ、ありません」

「社会経験は一切なしか」
橋本はテーブルの上に履歴書を放り、山岸の目をじっと見据えた。
「なぜ花火師に?」

山岸はテーブルに視線を落とし、言葉を探すように数秒黙り込んでからゆっくりと口をひらいた。
「いえ、別に花火師になりたい訳じゃないんです。花火に関わる仕事ならば何でも」
そう言って橋本の目に視線を戻した。

「花火に関わる仕事ってのは花火師くらいしか思い付かんが。花火にこだわる理由は?」
「実は……」山岸はふっと息を吐いた。「実は僕、父を花火の事故で亡くしてるんです」
「何だって?」

「僕がまだ小学生の頃でした。家族ぐるみで交流のあった近隣の住人同士で集まり、大勢で花火を楽しんでいたんです。大人は皆酒を飲んでいて、父も例に漏れず泥酔状態でした。父はもともと調子に乗りやすい人で、その時もロケット式の大型花火を手に取り、皆の注目を集めました。何をするのかと思い見ていると、父は導火線に火をつけ、信じられないことに火花の散る大型花火の根元を自らの股間に強く押し当てたんです。周りの笑い声が響く中、花火は発射、予想以上に凄まじいその反動で父は股間に大ダメージを受け、その場に倒れ込み、二度と起き上がることはありませんでした。死因はショック死だったということです」さらに山岸は続けた。

「それから僕には二つ下の弟がいるのですが、その事故の一年後に左目を失明しています。仲の悪いクラスメイトとロケット花火を撃ち合ったことが原因でした。それからというもの、母は花火という言葉を聞いたり花火を目にするだけで発狂するようになってしまい、コンビニやスーパーに行くことができなくなりました」
「……」
「もうお気付きだとは思いますが……山岸家は呪われているんです。花火の、花火の悪魔に。この呪いを解くためには、花火に対して何かしらの貢献、いや生贄とでも言いましょうか。つまり犠牲が必要なんです。だから僕を使って下さい。歴史あるこの煙火会社で、僕を」
「……その話は本当なのか?にわかには信じがたい話だが」
「すべて事実です」
「そうか。それは災難だったとしか言い様がないが……」

まるでつかみ所のない話だ。だが、理由はどうであれこの男にはやる気がある……ように思える。
「何にせよ、やる気はあるってことだな?」
「もちろんです」
身を乗り出した山岸の瞳は線香花火のように静かに輝いていた。

その翌日から山岸は正式に橋本煙火株式会社の一員となり働き始めた。先輩連中に怒鳴られ、殴られ、蹴られてもへこたれず、面談で話したことが全て嘘だとばれてもクビにならず、半年経った今もなお汗を流し頑張っている。