阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「悪夢」安藤一明

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2018.01.05

第34回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「悪夢」安藤一明

ここはどこだ?

気がつくと、僕はジャングルの中にいた。

どうして僕は、こんな場所にいるんだろう。

近くに墜落した飛行機もないし、そばには誰もいない。

とりあえず、僕はジャングルから脱出を試みた。ジャングルの中は酷く暑い。汗が大量に流れていく。

突然、遠くから猛獣の唸るような声が聞こえた。僕は近くの大木に身を隠した。

しばらくして声の主が現れた。

それは虎だった。虎は幸い、僕に気づかないようだ。

僕が今いた場所に虎が近づき、臭いを嗅ぎ始めた。

僕は金縛りにあったように動けない。

虎の視線が、ついに僕の体を捉えた。虎は唸りながら僕に近づいてくる。

次の瞬間、虎は僕に飛びかかってきた。

僕はその一瞬で死を覚悟した。

その瞬間、聞き覚えのある声が聞こえた。

「あなた、起きてちょうだい」

そこで僕は目を覚ました。自宅のリビングだった。

ジャングルで虎に襲われる夢を見ていたのだ。体中、汗だくだった。

炬燵の中で、うたた寝したらしい。暑くて苦しむ夢を見るはずだ。

妻が心配そうに僕を見る。

「どうしたの? 怖い夢でも見たの」

「ああ。すごく怖かった」

「そんな事より、どうしたらいいかしら?」

「何の話?」

「遺体よ。私が殺したあの子の遺体よ」

話がよく飲み込めない。

妻は「あの子」と言った。

僕と妻には高校生になる一人息子がいる。名前は亮太だ。

僕は妻に訊いた。

「遺体って亮太のことか?」

「そうよ。あの子の将来のことを話してるうちに口論になったのよ。それで私が首を絞めて……」

「君が殺したのか?」

妻は小さく頷いた。

僕は妻と一緒に亮太の部屋を見に行った。

部屋のカーペットの上に亮太が倒れていた。息はしていない。

僕は妻に言った。

「なんとかして、遺体を隠そう。近所の山の奥なら見つかる心配がないだろう」

僕は妻と協力して、車のトランクに亮太の遺体を隠した。

僕が運転席に乗り、妻は助手席に乗った。

二人で周囲に気を配りながら、山へと向かった。山の奥深くまで来ると、歩行者も車も全く見ない。

遠くに切り立った崖が見えてきた。

僕は言った。

「あの崖から遺体を突き落とそう」

「ええ」

崖のそばに車を停め、トランクから遺体を二人で取り出す。

その時、背後から男の声がした。僕と妻は驚いて振り返った。

そこにいたのは二人の男だった。男は警察手帳を見せた。

「我々は刑事だ」

刑事の一人が訊いた。

「その遺体は何だ?」

「そ、それは……」

刑事は手錠を取り出した。

「お前たちが殺したんだな。殺人の容疑で逮捕する」

僕と妻は、手錠をかけられてしまった。ああ、人生も終わりだ。

その時、僕は肩に何かが当たるのを感じた。そして、僕の体が誰かに揺すられる。

そして、耳元で聞き覚えのある声が聞こえた。

「おい、君。起きなさい」

そこで僕は目を覚ました。

僕の肩を揺すっていたのは、会社の上司の山中課長だった。

僕は夢の中で夢を見ていたのだ。そして、この世界こそ現実なのだ。

ここには獰猛な虎もいないし、息子も妻も平和に暮らしている現実がある。

僕は安堵して溜め息をついた。

「ああ、よかった……」

山中課長が僕を怒鳴った。

「この馬鹿者。全然よくないだろう。今、何をしてるのか、わからんのか」

僕は周りを見回した。

しまった。今は会議中だったのだ。

これも一種の悪夢である。