阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「星嫌い」白浜釘之

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2018.03.08

第36回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「星嫌い」白浜釘之

星が嫌いだというと意外な顔をされることが多い。

星空を眺めるのが好きだという人はいても星空を眺めるのが嫌いだという人にはたしかにお目にかかったことがない。

しかし、別にあまのじゃくを気取ってこんなことを言っているのではなく、ちゃんとした理由がある。

まだ子供だった頃、星空を眺めながら祖父に聞いたことがある。

「どうして夜空には星があるの?」って。

そうしたら、冗談の好きだった祖父は笑ってこう答えたのだ。

「あれはな、空から雨が降ってくる穴だ」

外で遊べなくなる雨が嫌いだった私は、まずこれで星が嫌いになった。

空がボロ家の屋根のように穴だらけだと想像すると、なんだかこの世界がひどく安っぽく感じたものだ。

そんな祖父が亡くなった時に、今度は祖母に、
「ねえ、おじいちゃんは死んだあとどこに行くの?」
と聞いてみた。

すると、祖母は、
「おじいちゃんはお空のお星さまになったんだよ」と言った。

……死んだ人は、空の穴ぼこになってしまうんだ。

幼かった私は、星は死んだ人の魂が開けた空の穴だと思い込み、なんだか不気味な気がしたものだ。

長じて星が宇宙に浮かぶ無数の恒星の輝きだと知っても、勉強の嫌いだった私にはピンと来なかったし、広大な宇宙にロマンを感じることもなかった。

むしろ好きだった女の子に、
「相性があまりよくないよのね」
と星占いにかこつけて振られたり、冷やかしで見てもらった占い師に、
「あなたは星の巡り合わせが良くない」
などと言われるたびに星が嫌いになった。

だからちょっとした傷害事件を起こし、収監されていた数か月間はむしろ星空を眺めなくて済むからせいせいしたものだ。そういえば刑事ドラマなどでは犯人のことを「ホシ」なんて言ったりするが、やはりあまりいい使われ方ではないようだ。

星の巡りが良くなったせいなのかはわからないが、その後私が始めた商売が少しづつ利益を上げるようになった。

格安のシェルターを二束三文で買いつけ、何も知らない客に高く売りつける商売だ。

世界中でテロや独裁国家によるミサイル実験などが増えている昨今、小金を貯め込んでそれを守ろうとしている人種は案外多いものだ。そこを当て込んで始めた事業だったが、思いのほかこれが当たった。

自らシェルター式の家を建て、これを宣伝に使ったのも効果的だった。

何より、窓のない密閉状態の家に住んでいると嫌いな星空を眺めなくていいのが有難かった。

実際にいくつかの紛争地帯で戦闘が始めると売り上げはさらに伸びた。

世界中の夜空をまるで流れ星のようにミサイルが飛び交い、戦場が各地に広がってゆくにつれ、私の会社の見た目は立派だが実際にはなんの役にも立たないシェルターは売れに売れた。

しかし、やがてその快進撃も終わりを告げる時がやってきた。

世界中を巻き込んだ戦争が、各地に壊滅的な打撃を与え、世界そのものが滅びる寸前にまで破壊され尽くしてしまったからだ。

当然、私の会社が扱っていたシェルターなどまるでプレハブのように簡単に吹っ飛んでしまったが、誰一人文句を言いにくるものはいなかった。

みんなシェルターと運命を共にしたからだ。

焦土と化した地で無一文になり、私はふらふらと歩いていた。世界規模の戦争に勝者などいない。今では世界中がこの地と大差ないくらい荒れ果てているだろう。

食料と水を求めさまよい歩いて、夜になれば疲れ果ててどこか適当なところで野宿する。

仰向けに寝転ぶと、否が応でも星空が目に入ってくる。

今ではよほどの権力者か金持ち以外は私と大差ない暮らしをしているのだろう。

地球という、雨が降ってくる穴だらけ天井のボロ家で、みんなが平等に寒さに震えて眠っていると思うと、私は世界中の人達に奇妙な連帯感を抱いた。

星空を眺め、やがて死んで自分もあの星という穴の一つになると思えばなんとなく気分が軽くなった。

しょせん、人間なんてそんなもんだ。

うん、悪くない。