阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「また会いましたね」星佳吹

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2018.04.09

第37回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「また会いましたね」星佳吹

僕が乗った列車は走っていた。

のどかな田舎の海沿いを、この単線の列車は走りつづけていた。旅の終りに乗ったはずだったのだが……。

やがてトンネルに入った。そんなに長くはなく、十秒ほどで抜けた。車内放送で、車掌が次の駅名を告げてから間もなく、良い感じに古びた駅舎が見えてきた。

「名前も、いい感じの駅だな……」

僕はそのホームに目をやった。十人ほどが待っているその中に、一人の女がいた。薄いピンクのワンピース姿で、ややロングのナチュラルな黒髪が美しく風と遊んでいた。列車が停止してドアが開くと、他の客と一緒に乗ってきたその女は笑顔で、口を動かさずに、

『また会いましたね』

「えっ?……そう……」

やがて列車は駅を後にした。開いている窓からの風に、自分の髪がもてあそばれるのを、女は、心地よく感じているようだった。が、その髪をさわっている僕も心地よかった。

不意に女が窓外を見てから、笑顔である所を指差した。僕も見ると、いつのまにか列車は海岸から離れて小さな街に入っていた。その駅前に、こじんまりしたラーメン屋があり、彼女はそれを教えていたのだった。

「あそこのラーメン、美味しいんですか?」

女は、笑顔で何度もうなずいた。

「僕も食べてみたいな……」

女は笑顔で僕の手を取ると、立ってドアに向かおうとした。

「分かりました。一緒に行きましょう」

列車が駅に着くと、僕は女に従って、そのラーメン屋に向かった。

店内に他の客は皆無だった。老女店主が出てきて彼女を見ると「はいはい、いつものねと言った。そして僕の顔を見ると、

「はいはい、しょうゆラーメンですね?」

そのとおり。老女店主はさっさと奥へ入って行った。僕がきょとんとしていると、女は適当な席に誘導した。店内は予想どおり、余計なインテリアは無くスッキリしていた。

やがて老女店主が二人分を運んできた。が、女も、しょうゆラーメンだった。そして食べ始めたが、なんと女もナルトから箸をつけたのだ。僕は彼女に、奇妙な親近感を覚えずにはいられなかった。

ラーメンを食べ終えると、裏の海岸に行くことになった。路地の道を真っ直ぐ行くと、すぐに出られると言う。

実に美しい海岸で、僕は故郷の海を思い出した。不意に彼女は全裸になると、凪いでいる海に入って行っていた。僕も意を決して全裸になると、彼女の元に急いだ。

海水を掛け合い、子供のようにはしゃいだ。女は、濡れて顔に着いた髪を可愛い指でかき分けながらはしゃいでいた。その仕草が、僕にはたまらなかった。オマケに彼女の体は、僕のタイプそのものだった。

やがて、バランスを崩したのか彼女が倒れた。僕は思い切って彼女に抱き付いた。

――えっ? そこに彼女はいなかった。僕は呆然と立ち上がると、周りを見てみた。果てしなく広く美しい海原に……同化してしまったように、彼女は消えたのだった。そして気がついたが、僕は彼女の名前も知らなかったのだ。諦めきれない僕は沖へと泳ぎ、そのまま海底へ向かった。が、やはり彼女の姿はなかった。息がつづかなくなった僕は、浮上すると岸に戻った。そこには彼女が脱いだはずの衣服も無かった。

仕方なく衣服を着た僕は、さっきのラーメン屋に戻った。やはり彼女はいなかった。現れた老女店主に事情を話した。すると笑い、

「はいはい、長い人生そんな事もありますよ。そんなことより、次の列車が来る頃です」

僕は急いで駅に向かった。向かいながら……彼女とまた会えるかな……。もし、また会えたら、絶対に彼女にする。だけど……どうやって……? と思いながら、駅舎に入ってみると、やはり十人ほどの客がいた。見晴らしは実に絶景で、現実の光景ではないような気もした。

やがて色の付いた風のように列車が到着した。乗っている客の状況は、さっきの列車と変らないように思えた。僕は先頭車両に乗ると、いつの間にか乾いている髪を不思議に思いながら座った。まもなく列車は発車した。

(最初に戻ります)