阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「ある真夜中に」大西洋子

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2019.12.06

第57回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「ある真夜中に」大西洋子

目覚めるとあたりは真っ暗だった。寝転がったまま体をひねり、腕を伸ばし枕元の時計に手を伸ばす。目の前に引き寄せた時計の針は午前三時を指していた。

腹の虫が鳴った。そういえば夕御飯何を食べたっけ? よく覚えていない。起きてリビングに行って小さな菓子パン一つ、食べてこようかな。いや、そのパン、学校から帰ってきてすぐ、全部食べちゃったんだった。

時計を枕元に戻し、再び布団にくるまり、無理矢理目を閉じた。真っ暗、真っ暗、真っ暗。まるでシャドゥの毛並みのような黒。そうだ、シャドゥ。シャドゥが死んでしまったというのは本当のことなのだろうか。

シャドゥ。このアパート周辺に住み着いている地域猫。真っ黒な毛並みを持ち、瞳は金色だったり、青空のような青色だったりするちょっぴり不思議な猫。

シャドゥ。小学生の登下校の時間に合わせてどこからともなく現れて、送り迎えをしてくれる。ただし、天気のいい日に限るけれど。

そんなシャドゥがいなくなって、みんなで手分けして探していた。そして今日、お母さんから近くの道で黒猫が車にひかれたようだと聞かされて、夕御飯も宿題もほとんど手につかないまま、寝てしまったんだ。

ねぇ、シャドゥ、シャドゥが死んでしまったって嘘だよね? ああ、また涙があふれてくる。

そういえば、シャドゥ、うちの玄関から出たすぐ横の棚で気持ち良さそうに寝ている姿を何度も見たっけ。真夜中だけど確かめてみる? なぁに、玄関の扉を開けてすぐそこだ。

ベッドから抜け出し、リビングを通り過ごし、音を立てないように玄関の鍵を外し扉を押し開けた。

玄関の灯りが辺りを照らす。その灯りでシャドゥを見かけた棚を見た。だけどシャドゥの姿はなかった。

シャドゥのこと、あきらめなくちゃいけないのかな。肩を落とし、扉を閉めようとしたとき、アパートの入口辺りで灯りが見え、その灯りに向かって歩く一匹の猫の姿が見えた。

「シャドゥ?」

運動靴に足をつっこみ、かかとを踏んだまま玄関を開け放ち駆け出す。暗がりにぽっかり浮かぶ四角の光。玄関の扉の半分くらいの大きさの光。その灯りに照らされる姿は間違えなく、

「シャドゥ!」

シャドゥを追いかけて、その光の中に飛び込んだとたん、体が揺らいで……

「やれやれ、こんな時間に起きている個体があるとは……」

地面に衝突する直前、雲のような物に瞬時に包まれ、受け止められた。声を発した者の側に立っていた若者が、それに向かって駆け寄り、包まれたそれを確かめた。

「幼体ですね。成体より弱めの記憶消去を行いましょうか?」

「ああ、そうしておくれ。ではこっちは予定通りの作業をしよう。SDW-22」

シャドゥは灯りの中心にある台に乗り、箱座りをする。

「外装は完全に取り替えだ。剥がすぞ」

黒い毛の装甲が剥がれていく。

「本体の損傷は思ったより軽微だな。基本機能は問題なし。収集データーは基盤ごと入れ換え変えなくてはいけないな。SDW-22、新しい外装はどれにする? あいにく黒は欠品中だ」

何時ものの柄が表れ、その一つを前足で指し示す。

「外装の完全定着を含めて青の星の刻でひと月、といったところか。さて本部に転送するぞ。何? お前を追って来た個体に暫しの別れを告げたいだと!? 好きにしろ」

黒の装甲が剥がされたまま、己を追ってきた者に近づく。記憶消去の処置の最中で、閉じたまぶたから涙がきらめいていた。シャドゥはその涙を舌でぬぐいとり、額に同盟の印を施した。

「ほう……SDW-22、同盟を結べそうな原住民がいるここに、お前が再着任できるように、手配をしておこう」

記憶消去が終わった。雲のような物は個体が生活する箱へと送り戻ってくる。遠くから音が近づいてくる。それを合図にしたかのように、扉が閉まるように光が消えた。

行方不明のシャドゥを追ったあの真夜中の出来事は、シャドゥがさよならと、またね。を伝えるために見させた夢なんだろうな、きっと。

あれ? シャドゥ? 違う。白地に黒のぶち柄の保護猫だ。

「おにぎりみたいな猫だね。シャドゥそっくりな目」

そうだとばかりに、ひと声鳴いた。