阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「移民センターの客人」瀬島純樹

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2020.04.09

第61回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「移民センターの客人」瀬島純樹

この惑星の移民センターでは、異星人との接触は慣れていたが、ここを訪れる客人たちの姿は千差万別で、その意思疎通の方法、知性、感性は信じられないくらいバラエティーに富んでいた。
今回の客人たちもそうだった。
センターにやって来た異星人たちに、翻訳機を通して、担当者が名前をたずねると、それは何だと、逆に聞いて来た。
名前は自分を表わす言葉だと、説明すると、彼らは、そんなものはないという。
翻訳のシステムのミスかもしれないと、担当者が調べたが、特に問題は見当たらなかった。
つまり、彼等は名前を持っておらず、名前に類するものも、名前という概念すら持っていなかった。
「名前がないのは、初めてのケースだが、区別するためにも、名前がないというのは、なにかと、こまらんのだろうか」と所長がいった。
「彼らには、はじめから名前がないのですから、それで済むのではないでしょうか」と担当者がこたえた。
「しかし、あんなに大勢いるのに、誰にも名前がないとなると、何か、やりにくいとは思わんか」と不機嫌そうに所長が言った。
「確かに、そうです…」と担当者はあわててうなずいた。
「お互いに理解し合うためにも、名前がないと、気持ちがこもらんよ。名前があって個性も生きるし、お互いに愛情が込められる。それが、名前がないとなると……」と所長は眉間にシワを寄せた。
「とりあえず、我々の方で、彼らに名前を付けては、どうでしょうか」
「うん、そうだな、個体別に、識別ナンバーでも付けておくしかないか」
ところが、彼らはよく似ており、同じ制服を身に着け、その違いを見つけるのは困難を極め、作業はいっこうにはかどらずに時間ばかり経過した。
翌日、所長がしびれを切らして、怒鳴った。
「いつまで、エリア外のテントにとどめておくつもりだ。彼らからすれば、我々だってみんな同じ顔に見えるだろうよ。今までの経験を活かして、迅速にたのむよ」
担当者は、識別作業のほかに、そもそも、彼らが区別されることを、拒否していることを報告した。
「なにを嫌がるのだ、理由はなんだ」
「わかりません……」
「個体別に、さっさと任意の名前かナンバーを振り分ければいいだろう」
「それが、そうもいきません。彼らは人数も多いので、あまり、強引なことをすれば、騒ぎを起こしかねません」
所長は少し考えるようにしてから担当者にいった。
「名前のいいところを、教えてやればいいじゃないか。定住先が見つかるまで、この惑星でいっしょに生活するのだ。ここのルールに馴染んでおいた方が有利であることや、我々の文明の発展も、この名前のおかげであることを、教えてやればいい」
「わかりました、もう一度、なんとか交渉してみます」
翌日の朝早く、担当者が所長室に駆け込んできた。
「所長、昨日交渉したのですが、今朝早く、彼らが全員でやってきました」
「そうか、それでどうだった」
「彼らは自分で、名前を付けてきたのです」
「ほう、それは前進じゃないか」
「ところが、みんな同じ名前なのです」
「同じ名前って、ちゃんと説明したのか、名前の意味とか、その機能とか」
「……しました」
「ずいぶんと、厄介な客人だな、そうだ、ちょうどよかった。ついさっき、本部から、彼らの総合分析結果が届いたところだ。担当の君にも見てもらおう」というと、所長は机の上のディスプレイのメールに目を通した。すると、急に顔をあげて叫んだ。
「これは…」
「所長、どうされましたか」
「どの個体も、すべての分析項目で、同一なのだ」
担当者も急いで、メールを読んだ。
「ということは、何人いても一人、まるでクローンですね」
「そのクローンだよ、しかも解析では、戦闘用クローンとある……名前がないはずだ」というと、所長は緊急連絡網のスイッチを押した。
「テントを包囲して、全員戦闘配置につけ」

(了)