阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「肝試し」中野航太郎

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2020.05.08

第62回 阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「肝試し」中野航太郎

「こういうところって本当に寒いんだな。俺なんだか熱出ちゃいそうだよ」
「熱だけで済めばいいけどね」

タカオは真っ暗の廊下をずかずかと進んでいる。僕はその後を懐中電灯で周りを照らしながらついていった。あたりは空き巣にでもあったかのように荒れていた。せっかくの夏休みということでタカオに誘われ八時に自分の家に来てくれとだけ言われた。そしてタカオの車に乗せられ連れて行きたい所があるとのことで着いたのがこの廃ホテルだった。地元ではお化けホテルという名前で知られている。

「おい、ここってキッチンじゃないか。鍋にまな板にいろいろ残ってるじゃん」

タカオは落ちている鍋を拾い上げ、拳で軽くたたいた。金属音は暗闇に響いた。

「なあ、あんまり触らないほうがいいんじゃない。あんまりよくないって言うじゃん」
「そんなにビビるなよ。俺の友達だってここへ来たことあるし、そいつらは病気になったり死んだりしてないし」

僕はため息をついた。どうやらこいつはとても楽しそうだ。こんな所に連れてこられるなら誘いに乗らなけてば良かった。

「ここはもういいや。今度は上の階に行こうぜ」
「ええ、まだ帰らないの」
「帰るってまだ十分しかたってないじゃないか。お前がそんなにビビると俺まで怖くなっちゃうじゃないかよ」

そう言うとタカオはまたずかずかと廊下に戻って行った。
二階は先ほどのフロアよりも余計に寒く感じた。汗と恐怖で足が冷えてきた。そんな僕をお構いなしにタカオは真っ暗な廊下を前に歩いていく。

「おい、お風呂じゃん」

廊下の突き当りには二つの大浴場があった。おそらく男女で分かれていたのだが、ボロボロで見分けることができない。タカオは右の部屋に入って行った。
脱衣所は比較的綺麗だった。物はそれほど散乱しておらず、逆に気味が悪い。すると後ろから金属がこすれる音がした。振り返
るとタカオがロッカーと扉を開けていた。

「何やってんだよ。そんなところ開けちゃダメだろ」
「開けるだけだから、そうだせっかくだし俺とお前で交互に開けて何かはいっていないかゲームをしようぜ。買った方がジュースな」
「なんでだよ、一人で開けてよ」
「これだけやったら帰るから」

僕はしぶしぶ了承した。まずはタカオが右上のトビラを開けた。中身は空っぽだった。続いて僕がその右隣のトビラを開けた。そこも空だった。そして順番にロッカーを開けていった。僕は早く帰りたく恐怖そっちのけで開けていた。

「なんだこれ。鍵がかかってるぞ」

タカオはコインの投入口をつかんで引っ張って見せた。ちょうどロッカーが最後の一つになった時だった。

「やめとけってことだよ。さあ帰ろう」
「こんなこともあろうかとね、こんなものを用意してきちゃいました」

そう言うと得意げにポケットから針金を取り出した。

「本当にそんなので開くのか」
「物は試しだ。まあ見とけって」

タカオは僕に手元を照らしてくれとアイコンタクトを送った。せっかく帰れると思ったのに。

「開いた」

鍵が外れる音が良く響いた。僕とタカオは目を見合わせた。タカオの額は汗ばんでいた。

「開けるぞ」

僕は頷いた。すぐに二人は違う恐怖に襲われた。中には札束が入っていた。ざっと目で見ても二千万はある。

「おい。なんだよこれ。なんでこんなものが」
「そんなのわかるわけないだろ」

僕らは声が震え、目は泳ぎ狼狽えた。

「なあ、なんか足音が聞こえないか」

タカオはおびえながら廊下の方を振り向いた。確かに何かが歩いている。そしてどんどん近づいている。

「タカオ、逃げよう」

急いで僕らは浴槽へ向かい窓から飛び降りた。運よく下は落ち葉で柔らかかった。

「ここまでくれば大丈夫だ」

息を切らしながら僕は言った。タカオはすっかり果てて後部座席で横になっていた。僕は足を痛めてしまった。ただ放心状態で何も考えられなかった。

(了)