阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「世界にただ一つ」青山傘花

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2020.12.09

第69回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「世界にただ一つ」青山傘花

「どうしておじいちゃんはそんなになってまでお仕事をするの?」
 少女が一人、手を動かし続ける老人に問いを投げる。
「人間ってやつはね、一人では生きられないのさ。しかもこんな荒れた地ならなおさらね」
 周りには古く錆びれた鉄、崩れた木々や建物がある。
 少女は自分のいる周囲を見渡した。
「ここはいつもこんな感じ。どこを歩いても鉄とおじいさん」
「それが今の日本なんだ」
 苦笑まじりに老人は答える。
 少女は歩いた。老人がいるところから五歩先へ。
「何処かに行くのかい?」
「散歩」
「そうかい。早めに帰ってくるんだよ」
 頷く少女に老人は優しい顔で微笑んだ。

「どこに行っても景色は変わらない」
 少女は淡々と歩きながら周囲を見渡していた。何処か目的地があるわけではなく、ただ新しい何かを見つけに。
 ガタッ。
「?」
 小さい音が周りに響く。
 少女はその音のした方へと向かう。
「カ……ナ?」
 文字の書いてある小さなプレートを見つけると少女はそれを拾う。なんの変哲もないただ文字が書いてあるプレート。
「持つて帰ろう」

 老人の元へ帰った少女は早速おじいさんに拾ったものを見せた。
「おかえり。これはなんだい?」
「ただいま。拾った。カナ」
「ネームプレートか。気に入ったのかい?」
 少女はぶんぶんと頭を上げ下げする。
「カナ。気に入った」
「そうか……取りに来るのがよりによってこれか。それに最後に名前が無いのは酷なものか」
 少女は老人の言葉が理解できなかった。首を傾げる少女に老人は言った。
 これから君の名前はカナだ、と。

「おじいちゃんは今日もお仕事?」
「今日は材料集めだよ。あと一パーツ足りないんだ」
 カナと老人は手を繋いで歩く。するとカナが一つの問いをする。
「どうしてここには誰もいないの?」
 カナと老人。その二人以外に人間らしきものはいない。
「昔ここはね、賑やかだったんだよ。何人いや何億人もの人が暮らしていたんだ。けどある日の夜。地下のシェルター管理をしていた私は凄まじい音と共に意識を失った。ふと目が覚めると時計は次の日になっていたんだよ。ここまでくると歳を感じたが、昨日の音が気になってそれどころではないと表に出たんだ」
 少女は話が進む度、苦く悲しそうな顔になるのを見ていた。
「表に出るとそこには荒れた大地が広がっていたんだよ。ここみたいにね」
「そうなんだ」
 とても悲しそうに話す老人に少女は淡々と返す。
「大体のパーツは揃ったから帰ろうか」
「うん」

「完成だ」
 なにこれ? と疑問に持つカナ。
「これをカナにあげよう」
「何に使うの?」
「これはね。リモコンと言って離れた位置から対象を操作できるものなんだ」
「?」
「まぁ簡単に言うとここのボタンを押せば電波が流れて誰かに伝わるかもしれない。誰かが来てくれれば君を引き取ってもらえるだろう。私は長い眠りに就くけどもし誰か来たらその人に付いてきなさい」
「おじいさんは?」
 老人は笑顔を見せるが何も返してくれない。

「おはようおじいさん」
 返事がない。
 カナは老人から貰ったリモコンのボタンを一回、二回と押す。目視では何も起こらないのでカナはこの行動に意味があるのかわからなかったが毎日押し続けている。

 それが私、カナという機械(にんげん)を作ってくれたおじいさんの願いなのだから……。
(了)