江戸川乱歩賞(2019年11月8日更新)

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2019.11.08

SFでミステリー系新人賞を狙うなら

今回は、江戸川乱歩賞の第64回受賞作『到達不能極(斉藤詠一)』について論じる。

これは、色々な問題がある作品で、アマゾンのレビューも★5つが7%、★4つが27%、★3つが最多で、41%、★2つが13%、★1つが12%と、見事なまでに割れる。

これだけ評価が割れる作品も滅多にない。

私も正直なところ、評価しにくい。オリジナリティ、アイディアに関してなら★1つである。なぜ、これが江戸川乱歩賞のグランプリを射止めたのか、納得が行かなかった。

「可能な限り該当作なしにはしたくない」が講談社の基本方針だから、よほど、この回の応募作の平均レベルが低かったのだろう。

一言で片付ければ「陳腐なSF」である。名うてのSFオタクが揃っている早川書房の新人賞に応募していたら確実に一次選考で落とされている。

私は学生時代(昭和40年代)に山ほどSFを読んだ。私の最初の新人賞候補作もSFで、学生時代はSF研究会に属していた(川又千秋氏などが同期)。その当時に欧米で大量生産されたエンターテインメントSFそのまんまが『到達不能極』である。

基本アイディアにオリジナリティがない。だから、どう考えても、権威ある江戸川乱歩賞のグランプリには、相応しくない。

それが私の★1つの理由である。しかし、SFを読まない、読んだとしても極めて少ない人には『到達不能極』は新鮮に映るだろう。

現在でも欧米のSFを山ほど原書で読んでいる大森望氏あたりの評価を聞きたい作品ではある。まあ、かなりの酷評を下すであろうことは疑問の余地がない。

何しろ「SFを書くんだったら、NASAのホームページぐらいは原語で読んでおけ」と注文を付けるぐらいにSFに対する執筆姿勢に一家言を持っている大森氏のことであるから。

したがってSFでミステリー系新人賞を狙おうと思っているアマチュアは、最終選考委員の顔ぶれを調べて、SFを大量に読んでいそうだったら、回避するのが賢明である。運良く予選突破できても、肝心な最後で、ボロクソに酷評されかねない。

江戸川乱歩賞の選考委員も「私自身は、SFの読者ではない」(池井戸潤)を除いては「終盤のB級SFとも言われかねない設定」(今野敏)、「なぜ、こんな子供騙しのアイディアを中心に据えたのか不思議。今のSFは本当に進化しているので、これでは通用しない」(貫井徳郎)、「SF的な部分では30年以上前に読んだ漫画を連想」(湊かなえ)と、ネガティブの評価が大半を占める。

さて、面白さ、という点に関してなら、私は★4つをつける。あちこち既視感(どこかで見たような話)だらけだし、至る所にご都合主義が顔を覗かせるのだが、それなりに面白く読めた。

エンディングは「おそらく、こうなるだろうな」と予想させるとおりの、主人公の1人とヒロインのロッテが結ばれる「泣かせ落ち」なのだが(先が読めるエンディングは、たいていの場合、選考時の減点対象で落選に直結する)泣かせ方が上手い。

選考委員の辻村深月だけが唯一人「舞台は第二次大戦中、ある少年に課せられた使命と、それにかかわる少女との恋物語に飛びます。その過去が現在進行形の主人公たちの南極の冒険と密接に絡んでくる、非常に読み応えのある作品でした」と高評価なのは、この「泣かせ落ち」に感激したのだろう。

「もったいつけ」は絶対にダメ

でさて、ここから『到達不能極』の内容に具体的に入っていく。

章立ては2018年(現代)→1945年(太平洋戦争終戦直前)→2018年→1945年→2018年→1945年→2018年→1945年→2018年→1945年→2018年→1945年→2018年→1945年→2018年→1945年→2018年→1958年(終戦から13年)→2018年→1958年→2018年と変遷する。

これを目次に出さないのは、極めて不親切。時系列が行ったり来たりする複雑な物語では売れないと、作者か編集者が姑息なことを考えたのだろうか。

目次に出ていなくてもページを捲れば分かる。通販ならばレビューが載っていて、分かる。

『到達不能極』の作者は、他にも姑息な手を使っている。それは「出し惜しみ」で、そういう「もったいつけ」は絶対にやったらダメ。

下手をすると読者に見放されて文壇から消える事態を招く。

2018年の主人公はツアーコンダクターの望月拓海。1945年の主人公は帝国海軍爆撃隊の望月信之二等飛行兵曹。

もう、この時点で、2018年の主人公は1945年の主人公の息子か何か、近親者だと見当がつく。

望月信之らしき人物が2018年の2回目の章の52ページで「例の一人参加の老人」と出てくる。ここで、勘の良い読者なら、拓海は信之の息子ではないが、遠縁で、この老人が信之だと気付く。

しかも、98ページで大伯父だと明かす。典型的な出し惜しみ。大伯父であることは52ページで明かさなければならない。

もっと悪いことには、大伯父の名前が信之だと明かされるのは194ページ(311ページがラスト)とは、あまりに遅い。

こういう読者を小馬鹿にような勿体を付けた出し惜しみは、絶対にやったらダメ。

「あんたら、馬鹿だから、この老人が太平洋戦争で一式陸攻に乗っていた星野二飛曹だなんて、気付かなかったでしょう。教えてあげますよ」という、いかにもな、上から目線の書き方である。

プロフィール

若桜木虔(わかさき・けん) 昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センターで小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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