ミステリー系新人賞を狙うなら(2018年12月号)

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2018.11.09

ミステリー系新人賞を狙うなら(2018年12月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

ミステリー系新人賞を狙うなら

 

今回は第二十七回の鮎川哲也賞受賞作『屍人荘の殺人』(今村昌弘)について論ずる。
鮎川哲也賞の応募規定枚数はA4の紙に縦書きで四十字×四十行で印字し、九十枚以上、百六十三枚以内だが、あいにく最新の公募は十月末で終了している。
しかし、ここで敢えて『屍人荘の殺人』について論ずる理由は、これから先に締切が来るミステリー系新人賞(江戸川乱歩賞、アガサ・クリスティー賞、新潮ミステリー大賞、日本ミステリー文学大賞新人賞、福山ミステリー文学賞、 『このミステリーがすごい!』大賞、警察ミステリー大賞、横溝正史ミステリ&ホラー)を狙うアマチュアにとっても必読と考えるからに他ならない。
『屍人荘の殺人』は『このミステリーがすごい! 二〇一八年版』第一位、『週刊文春二〇一七年ミステリーベスト 10 』第一位、『二〇一八年本格ミステリ・ベスト10』第一位、『第十八回本格ミステリ大賞』受賞とミステリー系の ビッグ・タイトルを総舐めにした、近年では稀に見る傑作ではあるのだが、新人賞応募作としては、問題点がないわけではない。
うっかりアマチュアが『屍人荘の殺人』を誤解した読み方をして「なるほど! こういう物語構成にすればビッグ・タイトルを射止められるのか!」という気を起こさないように、注意点を書いておく。
まず、鮎川哲也賞は基本的に「前例のない本格トリック」が盛り込まれていなければならない。
基本的には密室トリックである。
鮎川哲也賞を狙う新人は、研究さえしていれば、求められている点に関して熟知しているので、必然的に応募作品数は少なくなる。
おしなべて百五十作ぐらいで推移していて、過去には百作を割った回も九回あった。
しかし、過去の受賞者と最終候補者のプロ作家となる生存率は、他の新人賞に比べて断トツに高い超難関新人賞である。
応募作品数と難易度が全く比例しない典型の新人賞が、この鮎川哲也賞である。
選考委員(一次選考の下読みを含む)は必ず「何かしら新奇の本格トリックが盛り込まれているはず」という期待感を持って読む。
そこが、他の応募作品数が多い新人賞とは異なる。
応募作品数が多い新人賞だと一次選考の下読み選者は正反対の「どうせ、つまらないだろう」という先入観で読み始め、冒頭の数枚が退屈だと、早々に「落とす」気になる。
実は『屍人荘の殺人』は、そういう冒頭なのだ。東京創元社のサ イトに公表されている『屍人荘の殺人』の梗概は、次のようである。
「神紅大学ミステリ愛好会の葉村 譲と会長の明智恭介は、いわくつきの映画研究会の夏合宿に参加するため同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け ――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった」
だが、この「想像しえなかった事態」に至るまでに全体の三分の一のページ数が費やされる。
そこまでの展開は、学園物で至極ありがちで、オリジナリティはない。
主要登場人物同士の会話が巧みだから飽きずに読ませはするものの、もし応募作品数が多ければ一次選考落ちにされても不思議ではない。
 
(以降、ネタバレ注意)
 
その「想像しえなかった事態」だが、近所の公園で野外ライブ・コンサートでバイオテロが行われ、ゾンビと化した数万の観客が夏合宿のペンションを襲い、周囲と途絶した密室状態になる、というものである。ここなどはミラ・ジョ ボビッチ主演の『バイオ・ハザード』の完全なパクリ。アイディアに著作権は存在しないから、盗作ではないが。
台風、地震、雪崩、その他の自災害で旅館などが孤立した密室状態になる本格ミステリーは多々あったが、アイディアのパクリとはいえ、この発想には驚かされた。確かに、着眼点だけで傑作の名に値する。
自然災害と異なり、ゾンビは大挙して獲物を求めてペンションに襲い掛かる。そのゾンビを利用して犯人が連続殺人を実行するトリックも、秀逸。
だが、『屍人荘の殺人』が際立って良かったのは、ここまで。
連続殺人の動機が全くいただけない。前年の夏合宿で、犯人の愛する先輩女学生が男たちに慰み物にされた末に妊娠し、自殺。この報復なのだが、あまりにも月並みすぎる。自分自身の報復ならイザ知らず、いくら敬愛していた先輩 とはいえ、そこまでやるか? 動機に説得力がなさすぎる。
観客をゾンビ化させたバイオテロの顛末にしても、ごくごく簡単に、ニュースという伝聞で処理されていて、尻切蜻蛉。
このように『屍人荘の殺人』には数々の欠点は存在するのだが、一発の秀逸なアイディアが全ての欠点を吹っ飛ばした。
こういう観点で『屍人荘の殺人』を読んでもらえばミステリー系新人賞を狙う傾向と対策に、なるはずである。
 
 
 
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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞 西山ガラシャ(第7回)
小説現代長編新人賞 泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

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仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

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祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞 近藤五郎(第1回優秀賞)
電撃小説大賞 有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)
『幽』怪談文学賞長編賞 風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞 鳴神響一(第6回)
C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
ゴールデン・エレファント賞 時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞 梓弓(第42回)
歴史浪漫文学賞 扇子忠(第13回研究部門賞)
日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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