時代劇本格ミステリー(2018年9月号)

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2018.08.09

時代劇本格ミステリー(2018年9月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

時代劇本格ミステリー

機会があるごとに触れているのだが、現在、売れているエンターテインメントのジャンルは、時代劇、本格ミステリー(新本格を含む)、警察ミステリーの三ジャンルしかない。

時々「**先生のこういうジャンルは売れているはずです」と、前述の三ジャンル以外の質問を受けることがある。そういう場合、その**先生がデビューしたのは、 現在のような、エンターテインメントが壊滅的に売れなくなる、遙 か以前である。

で、出版界が今のような構造不況に陥る前に文壇に足場を築いた (一定数の固定ファンを獲得した)ので、前述三ジャンルでなくても売れているのであって、新人が新人賞を受賞してそのジャンルに新規参入しても、まず、売れない。で、せっかく新人賞を受賞したは良いが、早々に文壇から消える憂き目を見る。

それどころではない。出版界の構造不況は更に深刻化して、前述の三ジャンルの新人賞受賞者でも、ほんの数作で文壇から消えた事例が多々見受けられる。

これは、過去五年ないし十年の新人賞受賞者の発表作品数をアマゾンなどのネット通販サイトでチェックしてみれば歴然と分かる。

中には、受賞作のみで、受賞第一作さえ出ずに文壇から消えた悲惨な受賞者さえ存在する。

ここで私は今回、売れそうな新ジャンルを提案したい。それは「時代劇本格ミステリー」という、時代劇と本格ミステリーを融合させたもので、角川春樹小説賞と野村胡堂文学賞を二〇一四年と一五年にダブル受賞した鳴神響一が提唱した。

鳴神作品をネット検索すると十五作が引っ掛かる(その内の二作は、単行本の文庫化だが)ほど売れている。それに対して二〇一二 年から一三年にかけて時代劇の新人賞をトリプルで受賞した某作家は六作で、その中で文庫化された作品は一作もなく、ここ一年は短編の発表すらない、と明暗が極端に分かれている。

さて、鳴神提唱の「時代劇本格ミステリー」は『多田文治郎推理帖』というシリーズ・タイトルの『猿島六人殺し』と『能舞台の赤光』の二作である。

これまで時代劇ミステリーは多々あったが、そのミステリー部分を検証してみると、本格ミステリーの傑作群と比較してみると、お粗末なものが多かった。

その点で『猿島』『能舞台』の二作は、現代を舞台にした本格ミステリーと比較して、トリックの巧緻さが全く遜色ない。

こういうテイストのエンターテインメント作品が今まで存在しなかったのであるから、時代劇ファンにも、本格ミステリーのファンにも、どちらにも受け入れられる可能性が高い。

また、時代劇系の新人賞もミステリー系の新人賞も、どちらも狙え、「とにかく新人賞を受賞して文壇デビューを果たしたい」アマチュアにとっては枠が大きく広がるわけで、是非この二作を読んでみることを推奨する。

まず、第一作の『猿島』はアガサ・クリスティーの傑作『そして誰もいなくなった』風の作品である。事件の舞台の猿島に渡った六人が密室状態(全員ではないが、大半が本当の密室や、衆人環視の〝開かれた密室〞で殺され、しかも、猿島自体が孤島という、本格ミステリー・ファンが垂涎の二重密室状態)で惨死を遂げる、奇々怪々ミステリーである。

著者の鳴神が「アガサ・クリスティーへのオマージュとして書いた」と言っている言葉に嘘偽りはなく、しかも、『猿島』の優れている点は、それに留まらない。

犯人の動機、被害者は何故に殺されなければならなかったか――の部分に関しては、時代考証がきっちり掘り下げられていて、本家の『そして誰もいなくなった』を上回っていると感じさせる箇所さえ多々見受けられた(既存作を彷彿させる作品を新人賞に応募する場合には、「前作を上回っている」と選考委員に感じさせることができなければ予選落ちする)。

『猿島』の難点を強いて挙げれば、途中に、「最後の被害者」の手記と「真犯人の手記」を挟み込んでいる構成である。これは、ミステリー系の選者の中には難癖をつける人がいるかも知れない。特に「真犯人の手記」では犯人が分かってしまって、後は「なぜ私は、この殺人を実行せざるを得なかったのか?」という長々とした「語り」になってしまうからだ。

不出来なテレビの二時間ミステリーだと、エンディングで犯人が刑事たちを前にして、崖の上とか海岸で延々と動機語りをする場面があって、ドッチラケにシラケるのだが、それとの類似性を指摘する無粋な選考委員が、絶対に出ないとまでは言い切れない。その辺りは、こういう時代劇本格ミステリーで新人賞を狙おうとするアマ チュアには研究課題となる。

『能舞台』に関しては、引き続き次回に論ずることにしたい。

 
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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞 西山ガラシャ(第7回)
小説現代長編新人賞 泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞 木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞 山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞 近藤五郎(第1回優秀賞)
電撃小説大賞 有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)
『幽』怪談文学賞長編賞 風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞 鳴神響一(第6回)
C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
ゴールデン・エレファント賞 時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞 梓弓(第42回)
歴史浪漫文学賞 扇子忠(第13回研究部門賞)
日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

バックナンバー

2018年8月9日 時代劇本格ミステリー(2018年9月号)
2018年7月9日 警察考証のポイント(2018年8月号)
2018年6月8日 大藪春彦新人賞(2018年7月号)
2018年5月9日 選考委員との相性(2018年6月号)
2018年4月9日 予選突破作品のレベル(2018年5月号)
2018年3月8日 プロ作家への道(2018年4月号)
2018年1月9日 一次選考で落とされる4つのパターン(2018年2月号)
2018年2月13日 警察小説大賞(2018年3月号)
2017年12月18日 オール讀物新人賞(2018年1月号)
2017年11月13日 落選作のレベル5段階(2017年12月号)
2017年10月5日 刑事ドラマの警察考証間違い3(2017年11月号)
2017年9月5日 刑事ドラマの警察考証間違い2(2017年10月号)
2017年8月9日 刑事ドラマの警察考証間違い(2017年9月号)
2017年8月9日 小学館文庫小説賞(2017年8月号)
2017年7月9日 予選を突破するには(2017年7月号)
2017年6月9日 日本ファンタジーノベル大賞(2017年6月号)
2017年5月9日 受賞に必要な要素(2017年5月号)
2017年4月9日 新人賞が求めること、読者が求めること(2017年4月号)
2017年3月9日 展開を読まれてはならない(2017年3月号)
2017年2月9日 受賞するための三要素(2017年2月号)
2017年1月9日 アガサ・クリスティー賞(2017年1月号)
2016年12月9日 江戸川乱歩賞(2016年12月号)
2016年11月9日 時代劇で受賞するには(2016年11月号)
2016年10月9日 新人賞の選考基準(2016年10月号)
2016年9月9日 強い女性刑事の書き方(2016年9月号)
2016年8月9日 メフィスト賞 その2(2016年8月号)
2016年7月9日 メフィスト賞(2016年7月号)
2016年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞   その2(2016年6月号)
2016年5月9日 『このミステリーがすごい!』大賞(2016年5月号)
2016年4月9日 ばらのまち福山ミステリー文学賞(2016年4月号)
2016年3月9日 日経小説大賞(2016年3月号)
2016年2月9日 日本ミステリー文学大賞新人賞(2016年2月号)
2016年1月9日 新潮ミステリー大賞(2016年1月号)
2015年12月9日 島田荘司推理小説賞(2015年12月号)
2015年11月9日 江戸川乱歩賞(2015年11月号)
2015年10月9日 小学館文庫小説賞(2015年10月号)
2015年9月9日 野性時代フロンティア文学賞(2015年9月号)
2015年7月9日 日経小説大賞(2015年7月号)
2015年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞(2015年6月号)
2015年5月9日 日本ミステリー文学大賞新人賞(2015年5月号)
2015年4月9日 横溝正史ミステリ大賞(2015年4月号)
2015年3月9日 本格トリックを創るのが苦手な人が ミステリーを書くには(2015年3月号)
2015年2月9日 江戸川乱歩賞(2015年2月号)
2015年1月9日 福山ミステリー文学新人賞/鮎川哲也賞(2015年1月号)
2014年12月9日 アガサ・クリスティー賞(2014年12月号)
2014年11月9日 松本清張賞(2014年11月号)
2014年10月9日 横溝正史ミステリ大賞(2014年10月号)
2014年9月9日 野性時代フロンティア文学賞(2014年9月号)
2014年8月9日 小学館文庫小説賞(2014年8月号)
2014年7月9日 日経小説大賞(2014年7月号)
2014年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞(2014年6月号)
2014年5月9日 日本ミステリー文学大賞新人賞(2014年5月号)
2014年4月9日 小説すばる新人賞(2014年4月号)
2014年3月9日 日本エンタメ小説大賞(2014年3月号)
2014年2月9日 小説現代長編新人賞(2014年2月号)
2014年1月9日 江戸川乱歩賞(2014年1月号)
2013年12月9日 日本ホラー小説大賞(2013年12月号)
2013年11月9日 鮎川哲也賞(2013年11月号)
2013年10月9日 小学館文庫小説賞(2013年10月号)
2013年9月9日 野生時代フロンティア文学賞(2013年9月号)
2013年8月9日 日本ラブストーリー大賞(2013年8月号)
2013年7月9日 ゴールデン・エレファント賞(2013年7月号)
2013年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞(2013年6月号)
2013年5月9日 日本ファンタジーノベル大賞(2013年5月号)
2013年4月9日 小説すばる新人賞(2013年4月号)
2013年3月9日 新潮エンターテインメント大賞(2013年3月号)
2013年2月9日 江戸川乱歩賞(2013年2月号)
2013年1月9日 小説現代長編新人賞(2013年1月号)
2012年12月9日 角川春樹小説賞(2012年12月号)
2012年11月9日 松本清張賞(2012年11月号)
2012年10月9日 日本ホラー小説大賞(2012年10月号)
2012年9月9日 横溝正史ミステリ大賞(2012年9月号)
2012年8月9日 小学館文庫小説賞(2012年8月号)
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2012年6月9日 『幽』怪談文学賞(2012年6月号)
2012年5月9日 『このミステリーがすごい!』大賞(2012年5月号)
2012年4月9日 ゴールデン・エレファント賞(2012年4月号)
2012年3月9日 小説すばる新人賞(2012年3月号)
2012年2月9日 江戸川乱歩賞(2012年2月号)
2012年1月9日 朝日時代小説大賞(2012年1月号)
2011年12月9日 松本清張賞(2011年12月号)
2011年11月9日 日本ホラー小説大賞(2011年11月号)
2011年10月9日 キャラ立て(2011年10月号)
2011年9月9日 リアリティ(2011年9月号)
2011年8月9日 時代小説の文学賞(2011年8月号)
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2011年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞について(2011年6月号)
2011年5月9日 日本ファンタジーノベル大賞 その2(2011年5月号)
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2011年3月9日 日本ミステリー文学大賞新人賞について(続)(2011年3月号)
2011年2月9日 日本ミステリー文学大賞新人賞について(2011年2月号)
2011年1月9日 新潮エンターテインメント大賞について(2011年1月号)
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2010年11月9日 松本清張賞について(2010年11月号)
2010年10月9日 新人賞を狙う基本常識について(2010年10月号)
2010年9月9日 歴史群像大賞について(2010年9月号)
2010年8月9日 『幽』怪談文学賞長編賞について(2010年8月号)
2010年7月9日 日本ラブストーリー大賞について(2010年7月号)
2010年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞について(2010年6月号)
2010年5月9日 日本ミステリー文学大賞新人賞について(2010年5月号)