パロディ その1(2021年6月9日更新)

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2021.06.09

パロディとオマージュ

今回は「パロディ」に関して詳述する。

現在の新人賞選考において、パロディ作品は一次選考で落とすことになっている。

ところが、パロディ作品とオマージュ作品とは、一見したところ、酷似していて、オマージュ作品を新人賞に応募するのはOKなのであるから、非常にややこしい。

で、現在は江戸川乱歩賞と並んで、ミステリーの2大ビッグ・タイトルとなっている横溝正史ミステリ大賞(現在はホラー大賞を吸収して横溝正史ミステリ&ホラー大賞となっている)この記念すべき第1回でパロディともオマージュ作品ともつかない作品が応募され、しかも、かなりの傑作であったところから、侃々諤々の選考会議が行われることになった。

最終的に「これはパロディだ。第1回の受賞作には、相応しくない」という理由で一次選考落ちになり、これが判定基準の前例となった。

しかし、そう単純には行かないところが、パロディ&オマージュ作品の、ややこしいところなのである。

単純に定義づけすれば「先行作品をオチョクったものがパロディ」「先行作品を尊敬の念を持って模倣した作品がオマージュ」ということになるだろう。

ところが、学校のクラブ活動などにおいては、先輩の言動を冷やかしたり揶揄ったりする後輩の行為が、実際には先輩に対する尊敬の念から出ている事例が、ままあることから、一概にそうとも言いきれない(スポーツの伝統強豪校では、そういうことはないだろうが)。

で、もうちょっと詳しく定義づけしてみると、次のようになるだろう。

  • 【パロディ】
  • ①先行作品の登場人物を、そのまんま使っている。
  • ②先行作品の舞台背景(時代設定)や家族関係をそのまんま使っている。
  • ③しかし、ストーリー展開だけは先行作品と違っている。
  • 【オマージュ】
  • ①先行作品の舞台背景(時代設定)は、そのまんま使っているが、ストーリー展開だけは先行作品と違っている。
  • ②随所に「この作者は、この先行作品が、よほど好きなのだな」という心情が汲み取れる。
  • ③メイン・タイトルが先行作品に酷似していて、明らかに先行作品を意識して執筆したことがわかる。

これを読んで「なるほど、そうか!」と膝を打つ人も多いだろうが、「私は、そうは思わない」と反駁する人も多いに違いない。

そのくらい、パロディとオマージュの境界線は曖昧なのである。

で、ここからは作品の具体名を挙げていくことにしよう。

第1回の横溝正史ミステリ大賞でパロディとされたのは岩崎正吾の『探偵の夏あるいは悪魔の子守唄』である。

創元推理文庫に収録されているので、是非ともお読み願いたい。ミステリーの老舗の東京創元社から刊行されたというだけで、ミステリーとして評価した人物が大勢いることが良く分かる。

『探偵の夏』には「どう見ても金田一耕助」という人物が出てきて、『悪魔の手毬唄』に良く似た難事件を見事に解決してみせる。『探偵の夏』には、『獄門島』の謎解きのキーワードである「きちがいじゃが、しかたがない」も出て来る。

この箇所で「おいおい、これは、ちょっと、やりすぎだろう」と思った人も多いに違いない。

『獄門島』は本格ミステリーとして見て、横溝正史の最高傑作だろう。『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』『悪魔が来たりて笛を吹く』『八つ墓村』も面白いが、では本格ミステリーかと言われると、首を捻る。トリックに、さほどのことがない。

『探偵の夏』が物議を醸した理由は、何と言っても、単なる横溝正史作品の模倣の域を超えて、本格ミステリーとして優れていたからに他ならない。

私にも『本陣殺人事件』のオマージュ作品がある。『新本陣殺人事件』である(矢島誠氏との共著)。

「本陣」と銘打つ以上は本家の『本陣殺人事件』を上回るトリックを捻り出さなければならないと、矢島誠氏とは連日のように登戸の喫茶店で会って打ち合わせたことが懐かしい。

帯解説の瀬名秀明氏からは絶賛の評価を受け、2001年度の「週刊文春が選ぶ年間ベスト・ミステリー」の第5位にランクインした。

プロフィール

若桜木虔(わかさき・けん) 昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センターで小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。
 

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