江戸川乱歩賞(2014年1月号)

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2014.01.09

江戸川乱歩賞(2014年1月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

江戸川乱歩賞

今回は、江戸川乱歩賞を取り上げることにして、大きな物議を醸した第五十八回受賞作の高野史緒『カラマーゾフの妹』について論ずる。これまた“こういう作品を応募してはいけない”作品だが、これまで本講座の数回で俎上に載せてきた諸受賞作とはタイプの異なるNG作品である。

『カラマーゾフ』の授賞には、選考委員の一人の今野敏が頑強に反対した。理由は「これは、オリジナル作品ではなく、パロディだ」である(パロディは、どれほど出来栄えが良くても一次選考で落とされるので、アマチュア応募者は要注意)。

他の選考委員がOKとした理由は「これはパロディではなく、オマージュだ」である。

パロディとオマージュは紙一重で、まず、普通のアマチュアには区別が付かないだろうから、避けるのが無難。パロディもオマージュも、どちらも既存作の登場人物を借用して物語を構成するもので、ルブラン『奇巌城』『ルパン対ホームズ』に出てくるシャーロック・ホームズや、江戸川乱歩『黄金仮面』に出てくるアルセーヌ・ルパンが該当する。

新人賞は基本的に応募者の創造力・想像力を見るもので、主要登場人物に関してもそうだが、パロディもオマージュも有名既存作の登場人物を借用しているので、果たして応募者に“真の創造力・想像力”があるかが選考委員には分からない。だからNGなのだ。

しかも『カラマーゾフ』の選考時点で、今野は日本推理作家協会の平理事だった。ところが、その後、理事長に選出された。平理事と理事長では発言の重さに大きな差異があるのは自明で、今野が理事長の座にある間は『カラマーゾフ』タイプの応募作に授賞されることは絶対にないと見なければならない。

また、受賞者の高野は第六回の日本ファンタジーノベル大賞で『ムジカ・マキーナ』が候補作となってデビュー、その後、講談社から一冊、中央公論社から七冊、早川書房から三冊を出しているが、十七年間で十二冊では、いかにも少ない。“文筆専業では食えないプロ作家”で、どれもロクに売れなかった状況が、見て取れる。売れ行きが良ければ、どんどん執筆依頼が入って仕事に追われるので、江戸川乱歩賞に応募している暇などない。

作家専業では食えなくなったプロ作家がアマ・プロ問わずの新人賞を射止めて再デビューを目論む事例は多々見受けられるが、本が売れず、食えなくなるのには、必ず理由があり、再出発の受賞作を見ても、たいていの場合、原因の欠点が払拭されずに残っている。

それを分析することは、これからデビューしようと考えているアマチュアには役立つと思うので『カラマーゾフ』を分析すると、まず、文章が下手。選者の石田衣良は「作者はSF界では定評のある書き手だ。おもしろさ、文章の確かさ、意表をつく設定では最初から群を抜いていた」と持ち上げているが、石田が講評で持ち上げた作品で、文章力の優れた作品に出会ったことがない。版元の編集部、販売部の「売らんかな」に迎合して出鱈目を言うのは、好い加減にしてもらいたい。そういうおもねった精神が日本の文壇と出版界をどんどん駄目にしていくと、自覚していないのだろうか。「文章力が優れている」というのは志水辰夫のような作家に当て嵌まるので、高野の文章力は志水より二ランクは落ちる。

高野は、視点に関しても、まるで分かっていない。プロ作家歴が十七年で、この体たらくでは、あまりに情けない。『カラマーゾフ』にはイワン、アレクセイ、トロヤノフスキーという三人の主人公(視点人物)が出てくるのだが、この三人の視点が突然、入れ替わる。節替えも章替えもなく、連続した文章の中で入れ替わるので、読んでいて登場人物に感情移入することができないか、極めて困難である(石田が選考委員を務めている他の新人賞の受賞作にも、そういう作品があった)。こういう作品を書く作家は、遠からず読者に見放されて売れなくなるので、またぞろ別の新人賞で再デビューを目指すことになる。

そもそも石田が持ち上げているように“定評のある書き手”なら、遅筆でも、年に四作は上梓できるはずで、『カラマーゾフ』以前に六十作や七十作は世に出ているだろう。

石田が、必要以上に持ち上げておきながら、自分の発言の矛盾点に気づいていないのは頗る奇妙で、こういう点からも露骨な出版社迎合のおもねる性癖が見て取れる。出版界が低迷に喘いでいる状況だからこそ、虚言を弄して純粋なアマチュアを誑かしてほしくない。

『カラマーゾフ』は風景描写や謎の設定、ストーリー展開などは優れているが、キャリアのあるプロ作家なら、そんなことは、できて当たり前で、褒めるに値しない。それより、視点が乱れ飛ぶ悪癖を直さず、文章力を磨かなければ、遠からず再び文壇から消える

とにかく本講座の読者は『カラマーゾフ』が欠点だらけの作品だと念頭に置いて、分析しつつ読んでみてほしい。必ず自分が応募作を書く上で役に立つはずである。

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若桜木先生が送り出した作家たち

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小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

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祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

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電撃小説大賞

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『幽』怪談文学賞長編賞

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近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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