『このミステリーがすごい!』大賞(2014年6月号)

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2014.06.09

『このミステリーがすごい!』大賞(2014年6月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

『このミステリーがすごい!』大賞

今回は、五月三十一日締切(当日消印有効)の『このミステリーがすごい!』大賞(四十字×四十行でA4の白紙用紙に印字。四百字詰め換算で、四百枚~六百五十枚)を取り上げることにする。

アベノミクスで日本全体の景気は多少は上向いたようだが、出版界は上向くどころか、依然として不時着寸前のプロペラ機のような、ふらふらの迷走低空飛行状態である。

そんな状況下で、唯一、売れているのが、江戸時代を舞台にした時代劇と、映像化されたミステリーや、ラブストーリーである。特に宝島社の作品には後者が多い点が目立つ。

今、大多数の新人賞で、選考に編集部が関与している場合には「この作品は映像化が可能か否か?」が予選突破の大きな加点ポイントになっていると複数の編集者から聞いた。

で、今回は、その映像化について論じるが、華のある作品(単純に言えば、美人女優、美少女アイドルがヒロインとして出てきて活躍するもの)でなければ視聴率が稼げないので、テレビ局の企画会議を通らない、と某有名脚本家から聞いた。しかも火曜サスペンス劇場がなくなり、単発の二時間枠が減少したので、一時間の連ドラ枠に持ち込まれる企画が殺到している――と書くと、思い当たる人も多いに違いない。

『このミス』も確実に映像化が念頭に置かれて選考されており、特に大賞でなく“隠し玉”として刊行される作品に、この傾向が顕著に見受けられる。“隠し玉”を含む過去の受賞作を見ると(カッコ内に主演女優を記す)『四日間の奇蹟』(石田ゆり子・尾高杏奈)、『そのケータイはXXで』(松下奈緒・鈴木亜美・中川翔子・小沢真珠)、『果てしなき渇き』(小松菜奈・橋本愛・中谷美紀)、『チーム・バチスタの栄光』(竹内結子)、『さよならドビュッシー』(橋本愛)、『完全なる首長竜の日』(綾瀬はるか)と続く。日本ラブストーリー大賞受賞作まで含めれば、まだまだ多く映像化された作品がある。

大賞が一千二百万円と高額なだけに難関だが、ベスト5に残れば“隠し玉”として刊行される確率が高いので、実質倍率は、それほど高くない。しかも“隠し玉”には大賞受賞作よりも当たってメガヒットとなった作品も少なくないから、最初から“隠し玉”狙いでの応募も有り得るところが、『このミス』の最大の特徴と言えるだろう。

第十回の“隠し玉”が『珈琲店タレーランの事件簿』だが、おそらくこれも近々、ドラマ化されるに違いない。で、大賞は眼中になく、“隠し玉”に照準を合わせている応募者のために書くと、この作品以外では『ビブリア古書堂の事件手帖』『戦力外捜査官』『福家警部補の挨拶』『謎解きはディナーのあとで』などのテレビ化作品が参考になる。

ヒロインが名探偵のものとドジ刑事のものとがあるが、基本線は「とにかくヒロインが動き回って活躍する」もしくは「ヒロインの推理力が卓越している」ことに尽きる。

で、この基本線を押さえた上で、演じた剛力彩芽、武井咲、檀れい、北川景子とイメージが被らないようなヒロインを考え出すことが受賞のキーポイントになる。

『ビブリア』以外の三作品は警察考証が出鱈目なので、ここまで警察考証が間違っていると編集者の目に触れる前に一次選考の段階で撥ねられる危険性が高いから、多少は警察の内部事情を調べたほうが良い。少なくとも第十二回受賞作の八木圭一『一千兆円の身代金』ぐらいのレベルまでは押さえておかないと、せっかくニュー・ヒロインの創出に成功したとしても、予選落ちして陽の目を見ない危険性がある。

『ビブリア』『タレーラン』はヒロインの頭脳明晰ぶりを際立たせるために主人公の頭脳程度を凡庸かつ間抜けに設定しているが、これはNG。なぜなら、失敗すると、ヒロインは凡庸、主人公はそれに輪を掛けて凡庸で、どっちも魅力なし、となりかねないからだ。

主人公は頭脳明晰で行動力に富んでいて、ほとんどミスらしいミスをしない。ミスは全部、不可抗力によるもの。なのに、なぜか不可解な謎めいた事件が起きて、主人公が解明できずに悪戦苦闘。そこへ、ヒロインが颯爽と登場するや、縺れた謎を解いて見せる。

こういう基本コンセプトに合致する物語を創り出せたら“隠し玉”の受賞は請け合っても良い(その結果として大賞受賞という僥倖も有り得る)。

まだ私の生徒から『このミス』大賞受賞者も“隠し玉”受賞者も、あいにく出ていないものの、毎回ベスト二十ぐらいには複数の生徒が残っているのでレベルは把握している。

そこから上位まで残れない生徒の弱点は、おおむね次のような要素に集約される。

①ヒロインのキャラクターが、さほどでない。魅力的ではあっても「とても」の枕詞が付くほどの抜群の魅力ではない。

 (おそらく、これが最も難しい)

②出てくる謎が、前例がないほど奇抜で奇想天外とは言いがたく、まずまずのレベル。

 (トリックに著作権はないが、既存作のトリックを寄せ集めたレベルでは予選落ちする)

③選考委員を唸らせるほどの専門的な知識(蘊蓄)に欠ける

 (『ビブリア』は古書の蘊蓄が、『タレーラン』はコーヒーの蘊蓄が素晴らしい)

この三項目をクリアーできれば、もちろん他の競合作のレベル次第ではあるが、九十%以上の確率で『このミス』のベスト5には残れるはずである。

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ゴールデン・エレファント賞

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