福山ミステリー文学新人賞/鮎川哲也賞(2015年1月号)

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2015.01.09

福山ミステリー文学新人賞/鮎川哲也賞(2015年1月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

福山ミステリー文学新人賞/鮎川哲也賞

「横溝正史ミステリ大賞」のときに、ミステリー系新人賞に関して「前半はまずまずの出来映えだが、後半になって腰砕けになる、竜頭蛇尾の作品が多い」と書いた。

その正反対の受賞作がないものかと探していたところ、見つかった。第二回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作『伽羅の橋』である。

前半の展開は非常にかったるく、選考委員の島田荘司氏も講評で「前半は退屈し、読みながら何度も舟を漕ぐありさまだった」と書き、最後に「問題点は、その後の丹念な修正作業で、ことごとくクリアされた。これによって、この作品はまれに見る傑作となり得た」と結んでいるのだが、私にはクリアされたとは思えなかった。前半かなり退屈した。ということは、応募作の時点では相当ヒドかったのだろうと想像が付く。

『伽羅』が傑作である評価には同意するが、同時に、失敗作でもある。応募作品数が五十八作と少ないから丁寧に読んでもらえたが、応募作の数が多い他の新人賞ならば、前半のトロさゆえに一次選考で落とされた危険性が高い。その欠点を念頭に置いて、ぜひとも『伽羅』は皆さんに読んでもらいたい作品である。

失敗の最大原因は主人公(探偵役)の四条典座の設定にある。典座は、あまり知識がなく、性格は人見知りで口下手、初対面の人と親しくなるのに、えらく時間を食う。

これがストーリー展開を遅滞されたので、まずまず知的水準が高く、すぐに他人と親しくなれる性格だったら前半を百枚は圧縮できただろう。

それだけ圧縮できたら間違いなく大傑作で、島田荘司氏好みの作品でもある。島田作品には、ひたすら奇抜なトリックを重視する御手洗潔ものと過去の社会問題を追及していく吉敷竹史ものに大別されるが『伽羅』は後者タイプ。展開を早め、お世辞にも巧いとは言い難い文章をブラッシュアップすれば、最近の乱歩賞受賞作の凡作より、よほど優れている。

で、ここで鮎川哲也賞(十月末日消印有効。四百字詰めで三百六十枚以上、六百五十枚以内。ワープロ原稿は40×40フォーマットで九十~百六十二・五枚)に話題を転じる。

鮎川哲也賞は最近「密室トリックものでなければ受賞できない」が特徴となっている。機械的密室トリックは使い尽くされた感が強く、ここ数回の受賞作は大多数が「開かれた密室」ものだった。ところが最新の第二十三回受賞作『名探偵の証明』(市川哲也)は久々の機械的密室ものだった。おまけに老練の探偵・屋敷啓次郎に美少女探偵の蜜柑花子を絡ませ、どっちも名探偵という非常に困難なテーマに挑戦している。

ミステリーを探偵視点で書くのは非常に難しく、そのために大多数の作家は助手(ホームズものにおけるワトスン)を設定し、その視点で探偵を外側から描くようにしている。

島田荘司氏は吉敷竹史ものは吉敷の視点で書くが、御手洗潔ものは、助手の石岡の視点で描く。なぜ探偵視点で描くのが難しいかと言うと、三段論法を更に複雑にしたような探偵の論理過程を、筋道を立てて文章で追うことが至難だからだ。

そういう困難にチャレンジすることは評価に価するし、機械的な密室を三つも作中に出して、一見すると短編連作の形式を採りながら、最後の最後でメインの密室殺人事件に大ドンデン返しを仕掛けるという大技にチャレンジして、成功している。

唯一の欠点は機械的な密室の全部が、既存のトリックの組み合わせに留まっていることだ。その弱点を、三つの密室を出してストーリー展開をスピードアップし、連作形式にする手法で誤魔化したと、受け止められないこともない。

こうやって読み比べると福山ミステリー文学賞の『伽羅の橋』と『名探偵の証明』は完全に対局に位置する作品と言え、こういう観点からも両作品を続けて、比較対照分析しながら読んでもらいたい。

『伽羅』は、あえてストーリー展開を遅滞させる(その代わりに随所に謎解きのキーとなる伏線を埋め込み)ことで物語の重厚さ(終戦間際の大阪の状況の悲惨さと朝鮮人差別の社会問題)を演出しようとし(この企図は過剰の遅滞さえなければ成功している)、『名探偵』は、そもそも、存在にリアリティのない名探偵(常に警察捜査の上を行く名探偵)を二名も絡み合わせて出すことで、いよいよもって、リアリティなどは完全に度外視して、キャラクターの面白さを追求している

名探偵の片方は物語の最後で非業の死を遂げるが、生き残るアイドル美少女探偵の蜜柑花子のほうは今後とも続編が出てシリーズ化が期待される出来映えとなっている。

どちらもミステリー系新人賞を狙うための“傾向と対策”を立てるのに格好の教材となる作品だと考え、ここに推薦する。

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C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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