日経小説大賞(2015年7月号)

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2015.07.09

日経小説大賞(2015年7月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

日経小説大賞

今回は六月三十日締切(消印有効。四百字詰換算で三百?四百枚程度)の日経小説大賞を論じることにして、まずは第五回の受賞作『スコールの夜』(芦崎笙)を取り上げる。これは「こういう応募作を書いてはいけない」という悪見本のような作品である。第四回の受賞作『神隠し』(長野慶太)は、江戸川乱歩賞に応募しても射止められたのではないか、と言えるほどの傑作だった。

大傑作が受賞した次の回は「こんなハイレベルの作品が受賞するんじゃ、私は無理」と考えるアマチュアが多く出て、その結果として応募作の全体レベルが大きく下がるという〝隔年現象?が往々にして見受けられるので、新人賞を射止めたい人は、よくよく前年の受賞作の出来映えを分析すると良い。

『スコール』は、レベルの高い回に応募していたら確実に予選落ちしていた。どこが「こういう応募作を書いてはいけない」のか、欠点を箇条書きに列挙していく。

①行替えが少なすぎる。
平均して十行以上に亘って、行替えなし地の文が、延々と続く。現代の読者は、こういう本を好まない。ぱらぱらと店頭で捲ってみて「この本は読みにくい」と判断して棚に戻す。通販購入の人は中身が見られないから買うだろうが、二作目以降は買わない。

その結果、本が売れず、せっかく受賞したは良いが、遠からず文壇から消え失せることになる。

基本的に応募作の行替えなしは四行以内(ライトノベルは三行以内)に留める必要がある。

これは、売れっ子のプロ作家は経験的に知っているし、ベテラン編集者も知っている。受賞者の芦崎に日経の編集部は注意しなかったのか、それとも編集部は注意したが、芦崎が頑として受け入れなかったのか。

②主人公(視点人物)が多すぎる。
上限が四百枚程度だと、視点を置いてキャラが立つ(選者が、その人物を魅力的と判断する)人数は三人が限度で、下限の三百枚程度ならば二人である。

ところが『スコール』はメインの主人公の吉沢環の他に、菊田、権藤、石田、斎田という視点人物が出てくる。多すぎる。これだけ視点人物を出したら、全員のキャラが立たない。

案の定で『スコール』には魅力的な登場人物が一人もいない。全員が「よくあるステレオ・タイプ」の人物造型に留まっている。

登場人物のネーミング・センスも良くない。前述の人物の他に「田」の付く苗字の人物が大勢出てくる。
登場人物名は誤読回避のために、一文字も重ならないのが鉄則(家族や親類を除く)である。現実に、登場人物名の類似性を選考時の減点対象にしている選考委員が存在するので、アマチュアは要注意である。

③視点人物が均等に登場しない。
視点人物の登場割合はできるだけ均等であることが望ましい。例えば三人なら四:三:三が理想的。

『スコール』は五人だから二:二:二:二:二が理想だが、吉沢:菊田:権藤:石田:斎田が六:一:一:一:一ぐらい極端に偏っている。

これでは吉沢以外を主人公に据える意味がない。吉沢の単独主人公で押し通すべき物語である。

④回想の入れ方が下手。
エンターテインメントでは回想を可能な限り避け、エピソードを出来事の順番通りに並べるのが鉄則。どうしても入れる必要がある場合は章替えなり節替えなりをして「ここから過去の回想に入りますよ」と明示しなければならない。

そうしないと時系列の変化に対応できない読者が出て、そういう読者に嫌われる。

また、過去の回想は、物語の展開上どうしても必要なものに限定すべき。さもないと、ストーリー展開のリズムを崩す。

『スコール』では吉沢と石田の東大法学部時代の絡みが過去の回想として触れられるのだが、内容が陳腐で少しも面白くない。新鮮味がゼロ。

また、菊田と斎田の視点で家庭内の問題が触れられるのだが、子供の引きこもり、嫁姑問題、老人介護の悩みなど、新人賞落選作に大量にある時事ネタの紹介レベルで、オリジナリティが全くない。

で、ラストのほうで石田絡みで、取って付けたように唐突にNGOというカンボジアで地雷除去に取り組んでいる団体が出てくる。

結論から言えば『スコール』は吉沢と石田のW主人公にし、吉沢の勤務先の帝銀とNGOの二つに舞台を絞って、菊田、権藤、斎田は主人公から外すべき物語。

こんな駄作に新人賞の冠を与えるべきではない。営業上、どうしても受賞者を出さなければならないのであれば「新人賞は授賞するが全没書き直し」とすべきだった(これは稀に実例が幾つか存在する)し、それが無理なら半没書き直しだろう(これは実例が、いくらでも当たり前に存在する)。

新人賞を狙うアマチュアは、是非とも反面教師として分析しながら『スコール』を読んでみてほしい。

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若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

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田牧大和(第2回)

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仁志耕一郎(第4回)

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近藤五郎(第9回佳作)

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角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

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ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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