野性時代フロンティア文学賞(2015年9月号)

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2015.09.09

野性時代フロンティア文学賞(2015年9月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

野性時代フロンティア文学賞

今回は八月三十一日必着(四百字詰換算で二百?四百枚。手書き原稿不可)の野性時代フロンティア文学賞を論じることにする。

で、第五回(二〇一五年)受賞作の『心中おサトリ申し上げます』(未上夕二)について述べると、ややライトノベル的な作品である。

その前の『天涯の楽土』(篠原悠希)も、そうだった。これは二人の選考委員が文壇に出てきた経緯とも関係があるだろう。

池上永一(日本ファンタジーノベル大賞)、山本文緒(コバルト・ノベル大賞)という、他の新人賞の選考委員のデビュー時の受賞歴とは、いささか趣を異にする。

今回から選考委員は冲方丁(角川スニーカー大賞金賞)、辻村深月(メフィスト賞)、森見登美彦(日本ファンタジーノベル大賞)という陣容に交代するが、おそらく同系列の選考内容になるだろうと予測する。

そのせいで応募作が偏るのか、選考委員の好みがその方向に傾くのかは定かでないが、いずれにせよ、この傾向を踏まえて応募すべき新人賞であることは間違いない。

で、受賞作の『サトリ』の内容に踏み込むと、これは『このミステリーがすごい!』大賞の隠し玉で出てきた高橋由太の『もののけ本所深川事件帖オサキ江戸へ』や、日本ファンタジーノベル大賞優秀賞で出てきた畠中恵の『しゃばけ』や、ジャイブ小説大賞で出てきた小松エメルの『一鬼夜行』の系統に属する物語である。

いずれの物語も、この世には実在しない妖怪など(少なくとも科学的には証明されていない)を物語の根幹に置いている。

実在しないキャラクターを物語の根幹に据えると、ついついアマチュアの書き手が陥りがちな罠がある。それは「自分の脳内の想像だけで書いた物語世界やキャラクターにはオリジナリティがある」という思い込みである。

ところが、人間というのは面白く、かつ奇妙なもので、想像だけで物語世界を構築すると、なぜか、どうしても似通ってくる。

新人賞は基本的に「他の応募者とは違う発想ができるアマチュア」を発掘するのが目的であるから、そういう似通った作品は、束にして落とされることになる。

他人とは異質な発想ができる人は、よほど才能に恵まれている(伊坂幸太郎とか恩田陸のデビュー時を思い浮かべてもらいたい)。

異質な発想が困難な人は(当講座の読者の圧倒的大多数が当て嵌まるわけだが)「自分の頭だけでオリジナリティのある物語世界を捻り出そう」と考えるのではなく、敢えて「既存作に可能な限り捻りを加えて、それで何とかオリジナリティがあるように選考委員に思い込ませよう」と、発想の転換を図ることだ。

そういう観点で『サトリ』を分析しつつ読むと、野性時代フロンティア文学賞を狙うに際しての〝傾向と対策?が見えてくる。

『サトリ』に出てくる〝実在しないもの?は、メイン・タイトルになっている妖怪サトリと、平安時代に源三位頼政によって退治されたとされる鵺(猿の顔、狸の胴体、虎の手足、蛇の尾を持つとされる怪物)である。つまり、両方とも既存の伝承などが存在し、それを捻りに捻っているところが受賞に結びついている。

ここ以降、未読の人は注意を
主人公は口八丁手八丁で、詐欺まがいの商売をしているのだが、その呪いなのか何なのか、心の中で思ったこと、考えたことが言えなくなり、口は、それ自体の意思を持ったかのように、勝手なことを喋り出す。

どうにも生活できなくなり、恋人には逃げられ、そうして、山に出かけていって自殺しようとしたところで、サトリに遭遇する。

サトリが、人間の心の動きを読むことができるのは伝承の妖怪像そのままだが、主人公とサトリが二人三脚的な関係になって提携しながら、主人公が自分自身の口を取り戻せるようになっていくまでをストーリーの根幹に据えたところが秀逸。

人間の心を読めるサトリと結託してインチキ占い師になり、何とか糊口を凌げるようになっていくのだが、そういう主人公の前に、アイドル女優の柏木美鈴が現れる。

美鈴は不祥事でテレビ界から追放の憂き目に遭っていたのだが、主人公と酷似の病気、自分の意思とは異なる表情をしてしまい、自分ではコントロールできない病気に取り憑かれていた。

この病気を治すには鵺を退治して、その魂の欠片を食べれば治る、とサトリに教えられて出かけていく。サトリは「駿河の大きな湖の畔に鵺が住んでいる」と教えるのだが、駿河に湖はない。

出てくるのは浜名湖で、これは駿河ではなく、遠江である。選考委員も編集者も誰一人として気付かずに修正されないまま刊行されたのは、非常に情けない。つまり、歴史的な常識には無知でも、この新人賞は狙える、ということを意味している。

で、どうにか首尾良く鵺を退治して魂を手に入れるのだが、いざ、というところで美鈴に食べられてしまい、主人公は食べられない。

美鈴が主人公の恋人になりそうでいて、最後の最後で鵺の食い逃げをされるエンディングもドンデン返しになっていて良かった。

目新しいアイディアは何一つないが、組み合わせの妙で新人賞を射止めたところが、大勢のアマチュアには参考になるはずである。

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若桜木先生が送り出した作家たち

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田牧大和(第2回)

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仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

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祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

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電撃小説大賞

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『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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