新潮ミステリー大賞(2016年1月号)

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2016.01.09

新潮ミステリー大賞(2016年1月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

今回は、三月三十一日締切(消印有効)の新潮ミステリー大賞を取り上げる。

四百字詰め原稿用紙換算で、三百五十枚以上。上限なし。以前はメフィスト賞などが上限なしだったが、今は、新生の、この賞だけになった。

どうしてもミステリー系新人賞の応募規定枚数内に収まらない大長編を書きたいアマチュアに取っては、非常にありがたい賞である。

いつまで「上限なし」の応募規定が続くか、「長いほど有利」と考えて無駄にだらだら引き延ばした作品が殺到して新潮社が「これはダメ」と判断して応募規定枚数に上限を設けることのないように切に願う。

応募作は決して「長いほど有利」ということはない。肝心なのは中身の充実度である。中身が充実していれば、応募規定枚数下限ぎりぎりの短い作品でも受賞できる。

で、第一回受賞作の彩藤アザミ『サナキの森』を取り上げると、この作品は、かなり短い(この原稿の執筆時点で、第二回受賞作は未刊)。

大きめの活字で組んで二百八十ページで、あちこちに白紙のページがあるので、正味は四百枚程度。「長ければ有利」というわけではないことが実感できる作品である。

さて、キャッチ・コピーに選者の評が載っていて「文章に非常に自覚的な作品で、作品世界を作ろう、という意識を感じます」(伊坂幸太郎氏)「文体にはとてもセンスがあり、この人は『取り憑かれたように小説に取り組める』人だと思う」(道尾秀介氏)とあったので期待して読んだのだが、裏切られた。

第二の主人公の中学生・東条泪子(るいこ)が笑うシーンが出てくると「不敵に笑う」「不敵な笑顔」など、とにかく「不敵」のオンパレード。やたらと「不敵」が出てきて、それ以外の形容がないので、実にシラケた。

その他にも常套形容句があったが、とにかく「不敵」が多すぎた。

これの、どこが「文章に自覚的」で「文体にはとてもセンスが」などという評価になるのか、私には理解できない。斜めに読み飛ばしたのではないのか。

刊行に際して加筆修正を施しているのだから、こういう欠点を看過した新潮社編集部側の責任も大きい。

かつての敏腕編集者が揃っていた時代なら、真っ先に修正を指摘される欠点である。

逆に言えば、こういう明々白々な欠点を持った応募作であっても受賞できるのだから、新人賞を狙うアマチュアは、もっと文章を磨くべきだ。

同一レベルの作品が競合したら、文体が優れた応募作のほうに軍配が上がるのは自明だからである。

主人公の荊庭紅(いばらばこう)の設定も、NG。主人公は中学の教師になって挫折、現在は引きこもりのパラサイト生活である。

実は、こういう設定は応募落選作には非常に多い。この手の主人公が出てくる落選作を読むと、どれもこれも判で捺したように似たり寄ったりである。既視感だらけ。

そういう点では『サナキ』は成功している。引きこもりの主人公の紅が、祖父の残した遺作の短編小説を読み、その舞台となっている遠野に向かって、第二主人公の泪子と出会い、かつて起きた密室殺人事件を解く、という流れになるわけだが、紅の描き方は、かなり巧い。

この描き方の巧さで、第一回の受賞に結び付いたと見ることができる。

そもそも引き籠もり系の主人公を設定すること自体、似通ってくるので勧められないのだが、どうしても引き籠もり系、パラサイト系の主人公を設定して応募作を書きたい人には『サナキ』は参考になるだろう。

全体的な印象は、ミステリーというよりはホラー・ファンタジーの範疇に属する作品。

SF、ファンタジー系列の作品は売れず、応募可能な新人賞がどんどん減っているので、そういう系統の作品で新人賞を狙いたいアマチュアにとっては『サナキ』の採った手法は参考になるだろう。

密室殺人事件を取り上げてはいるものの、ホラー・ファンタジーに対する「味付け」として使われているにすぎない。

ミステリーにおけるトリックには著作権は存在せず、既存作のトリックをパクっても、アレンジすれば何の問題もないのだが、『サナキ』の密室殺人トリックは過去に何例もある非常にオーソドックスなトリックに捻りを加えたもの。

アガサ・クリスティーの『名探偵ポワロ』シリーズに酷似したトリックがあった。

したがって、「過去に前例のない新規のトリック」を提示する応募作とぶつかっていれば『サナキ』はグランプリには届かなかっただろう。

また『サナキ』の密室殺人トリックには、実は、トリックを成立させなくしている欠点が二つある。

ご都合主義を盛り込まないと、このトリックは成立しない。真犯人が逮捕訴追を免れた理由は、事件後の状況が自分にとって都合良く働いたからだが、これに関しては、作中で触れられていない。

選考委員が見落としたのか「些細な瑕疵」としてスルーしたのか。

これも刊行までに加筆されるべきだっただろう。

本格トリック系統の作品を書く応募者は、ぜひとも、その瑕疵を『サナキ』を読んで見定めて欲しい。

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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