日本ミステリー文学大賞新人賞(2016年2月号)

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2016.02.09

日本ミステリー文学大賞新人賞(2016年2月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

今回は、五月十日締切(消印有効)の日本ミステリー文学大賞新人賞を取り上げる。

四百字詰め原稿用紙換算で、三百五十枚から六百枚まで。

で、第十八回受賞作の、直原冬明『十二月八日の幻影』(応募作品数百七十三編)を取り上げる。

これは、かなりの傑作だった。

去年の江戸川乱歩賞受賞作の『道徳の時間』よりは格段に上。江戸川乱歩賞に出していたら『道徳』を押し退けて受賞しただろう。

太平洋戦争ものであり、その前年の『闇に香る嘘』と競合したら、どうだっただろうか、ダブル受賞となったのではないか、などと考えながら読んだ。日本推理作家協会賞受賞作の佐々木譲『エトロフ発緊急電』と読み比べてみるのも面白い。

直原は一九六五年生まれで、当然、太平洋戦争どころか戦後の動乱期も体験していない。つまり、これは参考資料を綿密に読み込んだだけで書かれた作品である。特技も専門知識もなく、取材する時間的な余裕もない、というアマチュアには参考になる作品だろう。

実は、冒頭の二ページめで「海軍の艦艇は数隻で艦隊を構成する」という間違いを読んで、最初は軍事考証ミスだらけだろうと、期待せずに飛ばし読みした。

帝国海軍の艦艇は数隻では艦隊を構成できない。数隻では「隊」で、もう少し増えて「戦隊」となり、うんと大規模になって「艦隊」と昇格していく。

が、それ以降、軍事考証ミスは影を潜め、徐々に中身に惹き込まれていった。傑作ではあるが、しかし、大傑作というほどではない。

以降、大傑作にならない理由を指摘していくので、『幻影』を読みながらチェックしてほしい。

【その一】
潮田三郎、有馬数史、スコット・ギルバートという三人の主人公(視点人物)が出てくる。

上限が六百枚の作品だと、四人までは出せる。

三人の場合、比率は4:3:3が理想的で、四人ならば均等配分か、3:2.5:2.5:2ぐらいまでが妥当で、これよりも比率が偏ると、少なくなった人物のキャラが立たなくなる。『幻影』は潮田に偏り過ぎ、他の二人が平凡なキャラになった。

【その二】
メイン主人公の潮田のキャラが一貫していない

潮田はカメラ記憶(目撃した事物を一瞬で記憶できて忘れない)の持ち主で、それが理由で海軍諜報部にスカウトされるのだが、現実には、カメラ記憶の能力を持った人間は、それほど珍しくない。

現代でも東大生なら、学年に十人ぐらいは、いる。

カメラ記憶の能力者は極めて視野が広い(実際の視野においても、物事を広角的に把握するという抽象的な意味においても)のだが、潮田は、後者の、様々な要素を広角的に把握して正解を見つけ出す、という能力に欠けている。これは、直原が身近にカメラ記憶の能力者の知り合いがおらず、頭の中だけで考え出したキャラだからだろう。

潮田は、カメラ記憶の能力者には有り得ないミスを次々に犯す。

で、そのミスが原因で次々にピンチが訪れる。これがエンターテインメント作法としてはNGなのである。

主人公を馬鹿・間抜けに設定してピンチを演出するのは、絶対にいけない。この手法を採ることに慣れると、必ず読者に見放されて文壇から消えることになる。

新人賞受賞作家の九十五%以上がデビューから長編五作ぐらいで文壇から影も形もなく消滅する大半の原因は、この安直な手法を採るからだ。

新人賞応募作は推敲の時間が充分あるから、さしたる瑕疵にならないが、プロ作家になって締切に追われると、つい安直な道に走る。

「主人公をピンチに陥らせて物語をスリリングに」ということにばかり神経が行って、安直に主人公にミスを犯させる。

敵も味方も、ミスは絶対に犯さない。予見不能な不可抗力によってのみ主人公がピンチに陥る、というように構成するのが最大キーポイントである。この要点さえ、きっちり押さえておけば必ず人気作家になれる。

『幻影』と読み比べて欲しいのは、横溝正史ミステリ大賞受賞作の井上尚登『T.R.Y.』(と続編の『T.R.Y.北京詐劇』)である。

敵と味方が虚々実々の駆け引きで、どちらの主人公もノーミスなので、果たして、どっちが勝つのかが全く読めない。Aかと思ったらB、かと思ったらA……と、目まぐるしく変転する。

『幻影』も、この手法を採っていたら、大傑作になっただろう。

少なくとも、今の倍は必然的にストーリー展開にドンデン返しが入り、読み応えある作品になった。

【その三】
過度に情報を伏せない

これは多くの応募者に言えることだが、情報の小出し後出しは不可で、選考時の減点対象になる。

伏せることで選考委員の気を惹こうとする手法は間違いで、大減点を食らう。

『幻影』は、さほどではないから減点材料になっていないが、情報を伏せなければ、その分だけドンデン返しを盛り込む工夫をする必要に迫られ、更にレベルが上がったはず。

どれが「伏せるべきではなかった情報」なのかを、当講座の読者は、分析眼を持って考えながら『幻影』を読んで欲しい。ミステリー系新人賞を射止める〝傾向と対策?になることを保証する。

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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