『このミステリーがすごい!』大賞(2016年5月号)

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2016.05.09

『このミステリーがすごい!』大賞(2016年5月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

〝懐の広さ?が特徴

今回は、五月三十一日締切(消印有効)の『このミステリーがすごい!』大賞(四百字詰原稿用紙換算で四百?六百五十枚。横置きA4用紙に、縦組み四十字×四十行でページ設定)を取り上げる。

広 義のミステリーで、ホラー要素の強い小説やSF的設定を持つ小説でも、斬新な発想や社会性、現代性に富んだ作品であればOK、と応募要項にあるが、実際に はミステリー要素がなく、現代性など欠片もない時代劇でも、受賞作や「隠し玉」にあるという〝懐の広さ?が、この賞の特徴である。

で、まず第十三回の優秀賞受賞作の『いなくなった私へ』(辻堂ゆめ)を取り上げると、これは、どう読んでもミステリーではない。

典型的なホラー・ファンタジーである(といっても怖さは、ほとんどない)。

受賞作も読まずに「私にはミステリーは書けないから」と『このミステリーがすごい!』大賞を敬遠する新人賞狙いのアマチュアには、絶好の指針になる作品と言える。

(以降、ネタバレ注意)
物語は人気シンガソングライターの上条梨乃が殺害されたところから始まる(ただ、この時点では、殺人事件とは判明していない)。

殺された主人公の梨乃は、渋谷のゴミ捨て場で目を覚ます。従来型の作品だと、梨乃は幽霊になっていて自分を殺害した犯人を探すミステリーになるのだが、この作品は、そうではない(もし、そうなら「既存作あり」で、あっさり一次選考で確実に落選にされている)。

幽霊ではなく、ちゃんと実体のある生身の人間として〝復活?したのだが、周囲の人間の誰も梨乃を単に「梨乃に良く似た雰囲気の女性」としか、認識しない。

一種の輪廻転生ものだが、赤ん坊に転生するのではなく、死んだ時とほぼ同じ状態の肉体の中に転生する、という状況が目新しく、その点が、「新奇のアイデア」として評価されたのだろう。

梨 乃はマンションから投身自殺したことになっていて、自殺の動機などないことを知っている梨乃は、自分の所属していた芸能事務所にアルバイトとして入り、謎 を探っていく。まあ、その辺りが多少はミステリーらしいと言えないこともないが、それにしては名探偵らしさが一つもない。挙げ句、梨乃を自殺に偽装して殺 した犯人に、またしても殺されることになり……という流れになる。

殺人事件の謎解きミステリーではなく、どちらかというと、ほのぼのして「泣かせるファンタジー」系統に属する作品である。

宝島社は日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞もなくなり、ラブストーリーが売れなくなった今、こういうタイプの「別ジャンルで味付けした作品」で新人賞を狙うのは、非常に良いことだと思う。そういう意味で『いなくなった私』は新人賞狙いの〝傾向と対策?に役立つ。

〝傾向と対策?に役立つ過去の受賞作

ミステリーという点なら、その前回の「隠し玉」になった『泥棒だって謎を解く』と『二万パーセントのアリバイ』のほうが、よほど本格ミステリーの要素を備えている。

だ が『二万パーセント』は全体的に既視感(どこかで見たような話)が漂い、しかも殺人事件の容疑者のDNAが発見されるが、当人は刑務所に服役中で、鉄壁の アリバイを持っている(それが表題に繋がる)という点から「ああ、これは、同一のDNAを持っている一卵性双生児ものだな」と誰でも見当がつき、実際、そ のとおりになる。途中で何度も、そうではないぞ、というミス・ディレクションを仕掛けるのだが、弱い。

これが「隠し玉」に終わった理由だ ろう。本格ミステリーとしては、もう一本の『泥棒だって』のほうが意外性とドンデン返しの多さで上回っており、こちらは優秀賞でも良かったのではないか。 主人公の泥棒二人組が刑事二人と同級生で、四人がタッグを組んで難解な連続殺人事件の謎を解く、という登場人物設定のわざとらしさが減点材料になって、 「隠し玉」に留まったか。

この辺りの登場人物設定も、『このミステリーがすごい!』大賞を狙う際の〝傾向と対策?には役立つ。

『いなくなった私』と優秀賞同時受賞の『深山の桜』(神家正成)は、自衛隊員でなければ書けない作品。

単なる取材では、とてもここまで詳細に書くことはできない。

これはまた、別の意味で新人賞狙いの〝傾向と対策?に役立つ作品である。新人賞を、自分の職場の出来事に題材を採って書きたいのだが、公務員なので、守秘義務違反に抵触する懸念があって二の足を踏んでいる、という人は、意外に多い。そういう懸念を持っている人は、『深山』を読めば、どこまで書いたら守秘義務違反に抵触するのか、また、どこまでなら書いてもOKなのか、おおよその感覚が把握できると思われる。

『深 山』には時事ネタも山ほど出てくるが(マスコミで派手に取り上げられた時事ネタ素材は、新人賞応募落選作に大量に来るので、「創造力・想像力が貧困」と見 なされて選考時の減点対象になる可能性が大きい)ここまで専門的に掘り下げられれば、類似素材の他の応募作に明らかに差を付けることができる。そういう点 でも参考になる作品と言える。

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若桜木先生が送り出した作家たち

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西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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