『このミステリーがすごい!』大賞   その2(2016年6月号)

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2016.06.09

『このミステリーがすごい!』大賞   その2(2016年6月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

イジメの話は一次落ちの可能性アリ

 今回は、前回に引き続いて、五月三十一日締切(消印有効)の『このミステリーがすごい!』大賞(四百字詰原稿用紙換算で四百?六百五十枚。横置きA4用紙に、縦組み四十字×四十行でページ設定)を取り上げ、第十三回受賞作『女王はかえらない』(降田天)について論ずる。

 というのも、この作品は、一次選考でぶつかる下読み選者次第では、一次落ちしていた可能性もある欠点を抱えた作品だからである。

 この賞を狙う人のために『女王』の欠点を指摘していく(以降、ネタバレになるので注意)。

 まず、テーマが子供同士のイジメ(『女王』の場合は小学生)である。イジメをテーマとする作品は老人介護と並んで、新人賞応募作に多い

 かなりの下読み選者が食傷気味で、「おいおい、またイジメの話かよ」と、うんざりして真面目に読まない可能性がある。そうなったら、飛ばし読みモードに入るので、なかなか挽回するのが難しい。

『女王』は三部構成だが、第一部で全体の半分を占め、ミステリーらしい事件が起きるのは第一部のラストである。これは遅すぎる

 既に文壇に地歩を築いた人気作家なら、これでも良いがまだ海のものとも山のものともつかぬ新人では、これは許されない。

 読者に見放されて文壇から早々に消え去る危険性がある。

 講評でも「小学校でのスクールカーストやイジメといった題材自体はなんら目新しくはないし、すでにお馴染みとなったトリックが多用されている」「ご都合主義でしかない、作為的な部分が目立つ」(吉野仁)とか「仕掛けに、いちいち既視感が漂い、しかも若干やりすぎっぽい。サービスしすぎて失敗したというか、足元の脆弱さが目立つ」(大森望)などと述べられている。

 最終に残った内の『いなくなった私へ』はホラー・ファンタジーでミステリーではないし、『深山の桜』はリアリティ追求型のミステリーで、トリックとしては小粒。

 それで軍配が『女王』に上がったわけだが、一次選考で消えていた可能性もある作品なだけに、運が良かったというべきだろう。

トリックを見抜かれない工夫

 メイン・トリックは中町信が『模倣の殺意』で使ったものの変形で、〝二年一役?トリックである。

 どういうトリックかというと、別々の二年の出来事を、あたかも同じ年度に起きたかのように錯覚させる(一役)もの。

 第一部と第二部で二十二年の時間のジャンプがある(第二部と第三部は同じ年度)のだが、叙述トリックで、タイムラグなしに連続しているように錯覚させる。

 これは、実は、何月何日何曜日の出来事なのかを、読者(選考委員)の誤認を誘導するために、はっきり書いておくべきだった。

 カレンダーは一定周期で、月日と曜日が完全に一致するようになっている。例えば二〇一三年と二〇一九年は月日と曜日が完全に一致するので、二〇一三年のカレンダーを取っておけば、二〇一九年にも使える。

 閏年が挟まるので複雑になるが、二十八年周期では完全に一致する。

 つまり『女王』は、月日と曜日をいちいち克明に書いておき、第二部は第一部の二十八年後に設定すれば、もっと巧妙に誤魔化すことができた。あるいは、閏年の二年後あるいは三年後の年だと、十一年後に一致するので、『女王』の舞台を高校にして、第二部を十一年後に設定すれば辻褄は合う。

『女王』では、第一部では生徒だった人間が、第二部では教員の立場になって、事件の起きるクラスを担任する設定になっている。

 で、あたかも第一部の事件と第二部の事件とが同じであるかのような錯覚を起こさせるトリックが『女王』の肝となっている。

 第一部の生徒と第二部の生徒とは、それぞれ無関係なわけだが、巧妙に同じ呼称の人間を揃える叙述トリック(第一部では、全て片仮名表記のニックネームで、第二部では漢字表記の本名で、あたかも同一人物であるかのような錯覚を起こさせる)。しかし、日付と曜日の一致までの偽装工作を取り入れていないので、叙述ミステリーを読み慣れた直感の鋭い人間が見れば、確実に見抜く。

 ミステリーは、選考委員にトリックを見抜かれたら「意外性なし」と判定されて落とされる運命にあるので、特に『女王』のような叙述トリックの場合には、登場人物名だけでなく、ここで書いた日付に加えて、地名なども〝同一の地名の全く別の場所?を使うといった工夫も必要になる。

 新宿区の新宿と葛飾区の新宿(にいじゅく)のように字面は同じだが、読み方が違うとか、仙台と鹿児島県の川内のように、耳から入れば同じだが文字にすると違うなど、錯覚を起こさせる要素を、これでもか、というほど入れる必要がある。

 また、人名でも、碓井と笛吹(うすい)、山梨と月見里(やまなし)、高梨と小鳥遊(たかなし)のように、読み方は同じだが文字が全く違う、あるいは福山と久山、今村と稲村のように、耳から入った場合には勘違いしても不思議ではない人名を叙述トリックに組み込むくらいの工夫は凝らしたい。

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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