時代劇で受賞するには(2016年11月号)

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2016.11.09

時代劇で受賞するには(2016年11月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

どの時代を書けばよいのか

最近、機会があるごとに「最近は時代劇とミステリーしか売れていない」と述べていることで、時代劇に関する質問を受けることが、非常に多くなった。その質問は、だいたい二つに集約される。

①時代劇ならば、いつでも良いのか。例えば明治・大正・太平洋戦争なども時代劇に含まれるのか。

②学校で日本史を選択しなかったので、歴史に非常に疎い。そういう人が時代劇で新人賞を狙うには、どういう対策が必要になるのか。

まず、①についてだが、戦国時代末期から明治時代の一桁までである。それ以外の時代は人気がなく、仮に受賞できたとしても全く売れない

せっかく受賞できても、受賞第一作は全く方向違いの作品を書くように求められるし、最悪、それっきりで受賞第一作さえ出してもらえない危険がある。

編集部の意向が選考に強く反映される新人賞では「この時代が舞台の作品は授賞しても売れないので予選段階で落としておいてほしい」と、一次選考の下読み選者に周知徹底され、内容の出来不出来の如何に無関係に落とされる危険性がある(最近、最も売れていないジャンルがSFなので、応募作がSFと見ると、中身の吟味をせずに予選落ちにする新人賞もあると耳にしている)。

前記以外の時代で新人賞を狙おうとしたら、本格ミステリー仕立てにすることが必須となる。

例えば、極めて不可解な状況下での密室殺人事件であれば、平安時代だろうが縄文時代だろうが、はたまた、宇宙の彼方を飛行中の宇宙船だろうが、世の中には〝密室殺人事件マニア?の読者が存在し、飛びついてくれるので、一定以上の売れ行きが期待できる。ただし、受賞第一作も、その次の作品も、ひたすら目新しい本格トリックの密室物を編集部からも読者からも要求される状況になるので、トリック・メーカーとしての自信がないようであれば、オーソドックスに戦国時代末期から明治時代の一桁までの作品で新人賞に挑むしかない。

次に②についてだが、時代劇を書くのに、学校の授業で習うレベルの日本史の知識などは何の役にも立たない。まあ、さすがに信長、秀吉、家康の順序が分からないレベルではマズいが、それは岩波ジュニア新書の該当する時代を読めばカバーできる。それで、どの時代で狙うか、最も興味を覚えた時代を絞り込む。

例えば江戸時代といっても前期・中期・後期で全く事情が異なる。前期には外食産業が存在しなかった。外食産業は、世界三大大火の一つに挙げられる明暦の大火で江戸の大半が焼失し、この復興工事と隅田川への架橋工事のために全国から職人が掻き集められた、その人々に食べさせるために発足したものである。

この大火で吉原も焼失して新吉原に移転となったのだが、遊郭の事情も、大火の前後で全く異なる。

元吉原の時代の客層は大名や大身旗本、高級武士などで、吉原の遊女から側室や継室に望まれて落籍される遊女が多かったのだが、これは寒村の貧困で売られた百姓娘などではない。元々が武家娘で、様々な理由で大名家が取り潰され、巷に牢人が溢れる、という状況下にあったからである(綱吉の時代までは、大名の改易取り潰しは大量にあった)。

ところが中期、吉宗の時代になると大名の取り潰しは激減して、遊女に身を落とす武家娘など皆無に近くなったので、新吉原は自前で知性も教養もある遊女を仕立てる必要が出てきた。これが花魁で、それだけでは元が元だけに客を呼び込めないので、浮世絵師に金を出して花魁を描かせて売り出したり、といった宣伝活動に力を入れ、一気に浮世絵が世に広まって、それまでの狩野派などとは全く異なる絵画文化が花開いた。

また、女性の髪型も変わった。戦国時代の頃の肩よりも伸ばす髪型では、いざ大火という時に迅速に避難する場合に支障を来すという理由で髷を結う文化が広がった。

後期になると、黒船が来たり、といった外圧のために俄に国内に尊皇倒幕の機運が盛り上がったりして、一挙に国内情勢が波乱含みになっていく。明治維新によって徳川幕府が倒れてからも、大規模な内戦の爪痕は非常に深くて「こんなはずではなかった」という目算違いから、明治時代の一桁台までは、社会が乱れに乱れる。こういうことは、アマゾンにキーワード検索を懸けて、綿密に掘り下げた参考書を探し当てるしかない。

実際、この作業をやってみると、まだまだ新人賞で取り上げられていないテーマは山ほど残っていることが歴然と見えてくる。

既存作で取り上げられていないテーマを掘り起こすことができれば、もう新人賞への第一歩の足懸かりを掴んだようなものである

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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

バックナンバー

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