展開を読まれてはならない(2017年3月号)

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2017.03.09

展開を読まれてはならない(2017年3月号)

 【特別企画】

 下村敦史×若桜木虔 WEB対談 開催中!(2016/12/12~)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

展開を読まれてはならない

今回も前回に引き続き、新人賞を射止めるためのキーポイントについて、一般論を述べる。新人賞を受賞するには、選考委員に先行きの展開を読まれてはならない、ということも、極めて重大である。

これが一般読者であれば、例えば『水戸黄門』のように定型のエンディングの物語のほうが安心して読めるので歓迎する、ということが有り得る。が、こと選考委員に限っては、それはない。選考委員は、とにかく「先行きの読めない意外性」を求める

これは、創造力・想像力のある新人をアマチュアの中から掘り起こす、という新人賞選考の目的とも合致している。

定型のエンディングで良ければ、そこには創造力・想像力はほとんど必要としないわけで、そういう作家を有望新人として世に送り出していたら、いずれ確実に文壇は衰退する。

ミステリーにおける「画期的なトリック」に関しても、同じことが言える。応募者が自信満々で捻り出した本格トリックであっても、それを選考委員に見抜かれたら、一挙に評価は下がる。感心しないから高得点をつけてくれない。

不満であっても、新人賞の選考委員とは、そういう性癖を持った人物である、と想定して応募作を書かなければ、新人賞は射止められない。

トリックの斬新さには自信があっても、ひょっとして選考委員に見抜かれる危険性が絶対にないとは言い切れないわけで(選考委員は、そういうトリックを見抜くプロフェッショナルである)予防策を講じる。

それは「犯人が誰なのか分からないように物語を構成する」ということである。応募作を書くに際しては綿密にプロットを組むはずだが、書いているうちに「あれ?こいつが犯人だと読者(選考委員)に見抜かれる危険があるぞ」と直感が閃くことがあるはずである。

そういう場合には、最初に立てたプロットに拘泥してはならない。

むしろ、躊躇なく犯人を別人に取り替えるぐらいの大胆さが応募者には要求される。そういう観点で分析しながら読んで欲しい作品が福山ミステリー文学賞優秀賞受賞作の『変若水』(吉田恭教)である。

まず、この作品を読むには、事前準備が必要である。メモ用のノートに各登場人物のタイムテーブルを書き込んでいくか、あるいはパソコンを立ち上げた状態でエクセルに書き込んでいくか。

冒頭が昭和二十二年で、その当時に起きた出来事が物語の伏線になって、六十四年後の平成二十二年まで一挙に飛ぶ。で、冒頭の山根富一という農家の少年が、通常は「使い捨ての主人公」で、六十四年後にまで活躍することはないのだが、『変若水』が凝っているところは六十四年後でもキーパーソンとして活躍する点。

主人公は厚生労働省の役人の向井俊介で、山根も第二の視点人物として出てくるのだが、向井は当然のことながら、事件捜査の権限はない。

そのため、偶然に起きた(と見える)二つの突然死を、故意の殺人事件ではないかと疑って調べていくのだが、その過程で刑事や知人の医学関係の学者などの知恵を仰ぐことになる。

すると、知恵を仰いだ人物たちまでもが、不可解な突然死を遂げてしまう。

状況は、どう見ても同一犯の手による連続殺人事件なのだが、読めども読めども、犯人像は浮かび上がってこない。

ある程度の見当は付くのだが、それが作者の手によるミス・ディレクトで見当違いだとラスト近くになって気づかされるのが『変若水』の秀逸な点。

真相を見抜くには、視点人物である山根と向井以外の人物を全てタイムテーブルに書き込んで分析しないと分からない。

一見すると偶然に見える出会いが、実は計算された出会いではないかと疑って初めて犯人像が浮かび上がる。

私は、てっきり、途轍もなく綿密な登場人物のタイムテーブルを作成して実作に着手したのだろうと思ったが、作者の吉田氏にお尋ねしたところ、全て頭の中で組み立てているとのこと。

正直なところ、とても凡人にできる技ではない。離れ業である。

当講座を読んでいるような人は凡人のはずだから、綿密なタイムテーブルを組まなければ、まず選考委員に先行きを見抜かれないような緻密なプロットは組めないだろう。

『変若水』の登場人物をタイムテーブルに則って分析してみると、偶然と見えるものが計算しつくされた必然で、一見すると犯人が綿密に計画した必然に思える出会いが、実は、そっちは偶然というミス・ディレクトが実に巧妙に蜘蛛の糸のように張り巡らされていることが見えてくる。

この手法を身に着けておけば、幸いにして新人賞を射止めたは良いが、受賞第一作以降の作品で斬新なトリックが思いつけなくて弱り果てる、といった危険を回避できる。

実際、過去においては、せっかくビッグ・タイトルのミステリー系新人賞を射止めたのに、第一作で駄作を書いてしまい、それきり文壇から消えた実例がいくらでも存在する。

そうなったら、立て直すのは容易ではない。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

バックナンバー

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2014年4月9日 小説すばる新人賞(2014年4月号)
2014年3月9日 日本エンタメ小説大賞(2014年3月号)
2014年2月9日 小説現代長編新人賞(2014年2月号)
2014年1月9日 江戸川乱歩賞(2014年1月号)
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2013年11月9日 鮎川哲也賞(2013年11月号)
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2013年9月9日 野生時代フロンティア文学賞(2013年9月号)
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2013年4月9日 小説すばる新人賞(2013年4月号)
2013年3月9日 新潮エンターテインメント大賞(2013年3月号)
2013年2月9日 江戸川乱歩賞(2013年2月号)
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2010年5月9日 日本ミステリー文学大賞新人賞について(2010年5月号)