日本ファンタジーノベル大賞(2017年6月号)

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2017.06.09

日本ファンタジーノベル大賞(2017年6月号)

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文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

日本ファンタジーノベル大賞

今回は復活した日本ファンタジーノベル大賞(六月三十日締切。四百字詰め原稿用紙換算で三百枚以上、五百枚以内)について述べる。

で、傾向と対策を立てるために、東京創元社から出ている米澤穂信の『折れた竜骨』と乾石智子の『夜の写本師』の二冊(いずれも文庫収録)を読んで欲しい。『竜骨』のような応募作を書けばグランプリを射止められる可能性が高く、『写本師』のような応募作を書けば、ほぼ確実に予選落ちするだろう。

これは『竜骨』の出来が良くて、『写本師』の出来が悪い、と言っているのではない。どっちも、出来が良くて面白い作品である。

しかし、応募作として見ると『竜骨』は予選突破して上位に残り、『写本師』は予選落ちするだろう、という理由を箇条書きに列挙対比させていくと、どういう作品を書けば日本ファンタジーノベル大賞が狙えるかが自ずと見えてくるかと思われる。

①物語の舞台
『竜骨』の舞台は、ほぼ、実在する場所である。真の舞台となるソロン諸島は架空だが、「ロンドンから出帆し、北海を三日も進んだあたりに浮かぶ」と説明されているので、容易に気候風土がイメージできる。

この「物語の舞台の気候風土が容易にイメージできる」ということは応募作に関しては予選突破の極めて重要なポイントである。

なぜなら、予備選考の委員は期限を決められた中で、割当の全応募作を読まなければならず、じっくりと細部まで読み込んでいる余裕がないからだ。容易にイメージできる作品とイメージが難しい作品が同レベルで並んだら、心情的にも前者に軍配を上げることになる。

『写本師』のほうは完全に架空世界が舞台である。どうやら大昔のギリシャ、ローマ、ペルシャ、エジプトあたりをモデルにしているように思われるのだが、正確には分からない。その分だけ予選委員に「読解」の努力を要求することになり、これは、応募作としては選考時に不利に働く要因である。

一般読者向けであれば、そういう「魔法と魔道師のファンタジー」を読みたい人が手に取るわけだから、物語世界を脳裏でイメージする努力を要求しても全く問題はないが。

②魔法のオリジナリティ
ファンタジー系新人賞の応募作には必ずと言って良いほど魔法や呪い、それを操る魔道師の類が出てくる。

この手の作品を書くアマチュアの応募者は「自分の頭の中で創出したアイディアにはオリジナリティがある」と思いがちだが、そもそも新人賞は基本的に応募者の創造力・想像力を見るもので「どこかで見たような物語」は「創造力・想像力不足」と見なされ、どれほど面白くても予選で撥ねられる。

だから「今までに見たことがない」魔法や魔道師像を捻り出さなければならない

そういう点で『竜骨』は、ちょっと変わっている。ソロン諸島を襲う「呪われたデーン人」というゾンビを撃退することが物語の骨子なのだが、その中で出てくる魔法も変わっている上に、傭兵を雇う領主が密室の中で殺害され、その犯人を探す、という本格ミステリー仕立てにもなっている。

この「合わせ技、一本」的なアイディアの盛り込み方は、他の応募作と差別化するのに非常に良い。

そういう点で『写本師』に出てくる魔法や魔道師は「こういう設定って良くあるよな」という既視感が付き纏う。

後半になって、実はそうではなく、かなりのオリジナルのアイディアが盛り込まれていることが徐々に分かってくるのだが、新人賞応募作の場合にはNG。もう、その段階では、予選委員は「通すか落とすか」の心証を抱いてしまっているからだ。

予選委員が「アイディアが平凡。落とす」と決めてから後で斬新なアイディアを出しても手遅れである。

③単独主人公か複数主人公か
『竜骨』は、冒頭で早々に密室殺人事件の被害者となる領主の娘のアミーナの単独視点で、物語を押し通している。アミーナのキャラが弱いのが若干の難点だが、とにかく単独主人公であるだけ主人公に感情移入して読みやすい

それに対して『写本師』は複数主人公である。実際には単独主人公なのだが、何百年という長い歳月の間に主人公のカリュドウが一種の輪廻転生のように『月の書』に封じ込められた過去の人物の呪われた人生を辿るので(しかも女になったり男になったりと性別も変遷するので)その切り替えでスムーズに感情移入することが困難になる。

カリュドウの輪廻転生だと判明するのは物語の最後の最後で、それまでは単にカリュドウが過去において敵役の魔道師のアンジストに対して恨みを呑んで死んだ(殺された)人物の怨念を『月の書』の中から読み取っているようにしか読めない。

こういう、ずーっと後のほうで、読者の予測を根底から引っ繰り返すような手法は、応募作で試みるには向いていない。

『竜骨』は最後の最後で、密室殺人事件の犯人は、実は、緻密な推理で謎を解明していく「名探偵」の騎士その人だった、という大ドンデン返しでアッと言わせるのだが、そこに持って行くまでに随所に新奇のアイディアを盛り込んでいるから良いのである。

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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