小学館文庫小説賞(2017年8月号)

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2017.08.09

小学館文庫小説賞(2017年8月号)

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文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

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小学館文庫小説賞

今回は第十六回の小学館文庫小説賞受賞作の『ヒトリコ』(額賀澪)について論ずる。

正直に言って、この作品を他の新人賞に応募していたら予選落ちしていただろう。

仮に私が予選委員だったら、躊躇なく一次選考で落としている。新人賞を射止めてプロ作家としてデビューしようと希望しているのであれば、こういう作品を書いたらダメである。

『ヒトリコ』は、決して下手な作品ではない。第十三回の受賞作の『薔薇とビスケット』(桐衣朝子)と比較したら、格段に上手い。雲泥の差がある。

『薔薇とビスケット』は私が読んだ全新人賞受賞作の中で最低の作品だった。これ一作で消える作家と見たが、案の定で、それ以降、桐衣朝子の名前は時たま新人賞の予選突破者の中に見かける程度である。

さて、『ヒトリコ』が上手い作品なのに新人賞応募作として書いたら駄目な理由を箇条書き的に列挙していくことにしよう。

①ごく普通の学校が舞台
どこにでもありそうな公立の小学校から高校までが舞台になっているために既視感(どこかで見たような話)だらけ。これだけで他の新人賞なら、ほぼ確実に予選落ちする(駄作ばかりの中に入れば話は別だが)。

②テーマが最悪
取り上げられているテーマが、生徒同士のイジメ、ヒステリックな教師による生徒への虐待、モンスター・ペアレントなど。

これは間違いなく時事ネタで、マスコミで、うんざりするほど大量に取り上げられている。

どの新人賞にも、時事ネタにテーマを採った応募作は山ほど殺到する。

新人賞は応募者の創造力・想像力を見るものだが、時事ネタを材料にしただけで選考委員は「この応募者は創造力・想像力が貧困」と見なして選考時の減点対象にして落とす。

マスコミで取り上げられないような素材を出すのが基本。

小学館文庫小説賞は外部の選考委員に出さず、編集者による内部選考なので『ヒトリコ』が予選突破できた理由は、テクニック的な上手さが故に授賞された、としか考えられない。

③読んでいて不愉快になる
優等生による劣等生への虐め、ヒステリックで生徒の言い分など耳を貸さずに体罰する教師、自分の子供さえ良ければ他の生徒などどうなろうと知ったことではないモンスター・ペアレントの理不尽な抗議。

これらのシーンが全体の三分の二ぐらいまで延々と続く。目新しさが少しでもあれば救いがあるが、全てテレビで報道された内容から一歩も出ていない。

救いが出てくるのはエンディングが近づいた四分の一くらいで、それでは遅すぎる。

大多数の読者は、読後感が不快な物語を好まない。

この手の物語を好んで新刊で購入する読者数が版元の求める採算部数に達しなければ、せっかく新人賞を受賞して文壇にプロ作家としてデビューを果たしても、遠からず消えることになる。

選考委員の求める作品と一般読者の大多数が求める作品とは、往々にして大きく乖離している。

そこを見極めていないと、激しく後悔を強いられることになる。

可能であれば、読後感が楽しくなるとか気分がスッキリ爽快になる物語で、新人賞を射止めるのが理想。

『ヒトリコ』には見習うべき長所もある。

第一主人公は深作日都子で、これが「関わらなくていい人とは関わらない」を信条に他から孤立しているために「ヒトリコ」とあだ名されるのだが、この孤独な性格は、同級生からの虐めと教師から受けた体罰が原因。性格描写が上手い。

他に、モンスター・ペアレントを母親に持つ海老澤冬希、最初は日都子の親友だったが敵に回る大都嘉穂、日都子に片思いしているが、優柔不断な性格から、ヒステリー女教師が日都子に体罰する原因を作ってしまう堀越明仁と、全部で四人の主人公(視点人物)が登場する。

四人も主人公を出すと、よほどの力量がないと、はっきり性格を描き分けることができない。

この描き分けができているのは、著者の額賀澪の力量を物語るもので、読者の多数が求める作品を書くコツを掴めば文壇に定着できる作家になれると見る。

四人の視点人物の比率も、巧み。海老澤冬希は小学生の間に転校していき(これが日都子が教師から虐待を受ける原因になるのだが)物語の表舞台から姿を消し、高校生になって地元に戻ってきて日都子、明仁、嘉穂と同級生になる。

四年間のブランクがあって、これほど長期間、物語に出てこないと、なかなかスムーズに他の三人に溶け込むように描くことができないものだが、その辺りの処理も巧み。

この「書くべき二つのポイント」と、「大多数の新人賞応募作で書いてはいけない三つのポイント」に着目して読めば、『ヒトリコ』は新人賞への〝傾向と対策〞を立てる作品として大いに参考になるだろう。

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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞 西山ガラシャ(第7回)
小説現代長編新人賞 泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

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近藤五郎(第9回佳作)

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角川春樹小説賞 鳴神響一(第6回)
C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
ゴールデン・エレファント賞 時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

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歴史浪漫文学賞 扇子忠(第13回研究部門賞)
日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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