オール讀物新人賞(2018年1月号)

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2017.12.18

オール讀物新人賞(2018年1月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

オール讀物新人賞

今回は前回に引き続き「公募スクール」について述べる。

ここに「応募前にアドバイスしてほしい作品の添削」という項目があって、そこに「短編小説」がある。で、何作か読ませてもらったのだが、残念ながら、一次選考で落とされる作品ばかりだった。

短編小説は基本的に、四百字詰め換算百枚以内で、応募規定枚数がもっと少ない新人賞もある。

今は新人賞の選考基準が厳しくなって、主人公のキャラが立っていない作品には授されない。

「キャラが立つ=選者(作家・評論家・幹部編集者)が、その人物を魅力的と判断する」が基準だが、主人公のキャラを立てるには、どうしても百二十枚が必要。つまり、短編賞の応募規定枚数内に収めるには二十枚の「贅肉」を削ぎ落とす必要がある。例えば登場人物同士が作中で知り合う設定は使えない。既に知り合っている状況で物語をスタートさせれば、前述の二十枚のカットは可能になる。

ところが私が読んだ作品は、全て二人以上の主人公がいて視点が変遷していくものだった。これでは絶対に主人公のキャラは立たない。「長編小説の粗筋」にしかならない。

本人は長編小説を書きたいのだが、その体力がないので百枚以内に切り詰めて短編小説を書き上げたと思い込んでいる(そう思い込みたい気持ちは理解できないでもないが)事例が大多数(もしくは全部)を占める。

ここで第九十七回のオール讀物新人賞について述べる。私は常々「オール讀物新人賞を受賞してもプロ作家にはなれない」と言っている。主催する文藝春秋社は受賞
作を単行本にしてくれない(稀に例外はあるが)からで、短編賞でプロ作家になれるのは、現在はミステリーズ新人賞と小説推理新人賞の二つだけである。

したがって、プロ作家志望の人はオール讀物新人賞を狙わない。
その結果、受賞までのハードルは低くなる。今回は一千九百四十編の応募作があったとのことで期待して受賞作の『新芽』を読んだが、やはり読後感は「この程度の作品で受賞できるのか」であった。期待外れ。

最終候補に残った『彼女たちのいくところ』に関して池井戸潤は「二部構成にしたのも成功しているとは言い難い。一部で描いた母子関係のストーリーが放り出され、その後の決着は伝聞形式でしか知らされない。かといって二部の物語に必然性があるわけでもない」と評しているし、村山由佳は「何を言いたいのか、作者自身もわからないまま話し始めてしまった感がある。この短さで二部構成、前半は母親の視点から娘を描き、後半は娘の友達の視点となっている。『企み』の萌芽はあるが成功していない。書きたいことがわからないから視点を一つに定められなかったように思える」と評している。

オブラートに包んだ表現になっているが講評会では罵倒されたのではないか。短編賞を複数主人公で狙うのは基本的に無理なのだ。他が全て駄作で幸運にも受賞できたとしても主人公のキャラ立ての方法が分かっていないわけで、それでは出版社からの依頼も入らず、また別の新人賞を狙い直すことになる。

受賞作の『新芽』に話を戻すと、版籍奉還の翌年の物語設定だから、明治三年。神奈川県の架空の藩が舞台だが、人力車が出てくる。人力車は明治二年の発明で明治三年の営業開始。神奈川県に伝わって来ているとは考え難い。主人公の鏡介の友人の直之進が脱藩浪人だが、「脱藩」は榎本武揚が函館に政府を樹立した際に書いた宣言書『Les Kerais exiles de Toukugawa』の和訳『徳川脱藩家臣団』に基づくもので、明治以降の言葉だから、主人公が使うわけがない、といった細かい時代考証間違いが目立つ。時代考証間違いは選考委員も指摘しているが、この物語の最大の欠点は、主人公が床屋と知り合って、床屋修行を始めるところから物語をスタートさせていることだ。

冒頭にも述べたように、登場人物同士が知り合う場面に起点を持って行くと、どうしても主人公のキャラ立てに皺寄せが行く。選考委員の安部龍太郎は「紋切り型の会話や人物描写の浅さに不満がある」乃南アサは「会話をはじめとする表現も安直だったり時代小説と思えなかったり、さらに設定そのものにも矛盾点があったりと欠点も多い」池井戸潤は「あまりに安直な展開」有栖川有栖は「結末の付け方がいささか予定調和的で甘い感じがする」と、他に優れた応募作があればそっちに持って行かれたことが歴然と読み取れる評価となっている。

試しに、この『新芽』と創元推理短編賞と、その後のミステリーズ新人賞の受賞作とを読み比べてみると良い。ストーリー展開の意外性や主人公のキャラ立てにおいて『新芽』のほうが格段に劣っていることが、実感できる。

なお、創元推理短編賞とミステリーズ新人賞の受賞作を読む場合にはアマゾンなどで受賞作家の「その後」を読むことがキーポイント。ベストセラー作家になっている人が相当数いるので、そういう人は概してキャラ立てが巧い。

時代劇ということで言えば、ミステリーズ新人賞受賞作家の高井忍の『漂流巌流島』以降の一連の作品のストーリー展開とエンディングの意外性は実に巧みで参考になる。

 
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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞 西山ガラシャ(第7回)
小説現代長編新人賞 泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞 木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞 山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞 近藤五郎(第1回優秀賞)
電撃小説大賞 有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)
『幽』怪談文学賞長編賞 風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞 鳴神響一(第6回)
C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
ゴールデン・エレファント賞 時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞 梓弓(第42回)
歴史浪漫文学賞 扇子忠(第13回研究部門賞)
日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

バックナンバー

2018年12月7日 ミステリー系新人賞の〝傾向と対策〞(2019年1月号)
2018年11月9日 ミステリー系新人賞を狙うなら(2018年12月号)
2018年10月9日 松本清張賞(2018年11月号)
2018年9月7日 時代劇本格ミステリー(2018年10月号)
2018年8月9日 時代劇本格ミステリー(2018年9月号)
2018年7月9日 警察考証のポイント(2018年8月号)
2018年6月8日 大藪春彦新人賞(2018年7月号)
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2018年1月9日 一次選考で落とされる4つのパターン(2018年2月号)
2017年12月18日 オール讀物新人賞(2018年1月号)
2017年11月13日 落選作のレベル5段階(2017年12月号)
2017年10月5日 刑事ドラマの警察考証間違い3(2017年11月号)
2017年9月5日 刑事ドラマの警察考証間違い2(2017年10月号)
2017年8月9日 刑事ドラマの警察考証間違い(2017年9月号)
2017年8月9日 小学館文庫小説賞(2017年8月号)
2017年7月9日 予選を突破するには(2017年7月号)
2017年6月9日 日本ファンタジーノベル大賞(2017年6月号)
2017年5月9日 受賞に必要な要素(2017年5月号)
2017年4月9日 新人賞が求めること、読者が求めること(2017年4月号)
2017年3月9日 展開を読まれてはならない(2017年3月号)
2017年2月9日 受賞するための三要素(2017年2月号)
2017年1月9日 アガサ・クリスティー賞(2017年1月号)
2016年12月9日 江戸川乱歩賞(2016年12月号)
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2016年9月9日 強い女性刑事の書き方(2016年9月号)
2016年8月9日 メフィスト賞 その2(2016年8月号)
2016年7月9日 メフィスト賞(2016年7月号)
2016年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞   その2(2016年6月号)
2016年5月9日 『このミステリーがすごい!』大賞(2016年5月号)
2016年4月9日 ばらのまち福山ミステリー文学賞(2016年4月号)
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2016年2月9日 日本ミステリー文学大賞新人賞(2016年2月号)
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2015年3月9日 本格トリックを創るのが苦手な人が ミステリーを書くには(2015年3月号)
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2015年1月9日 福山ミステリー文学新人賞/鮎川哲也賞(2015年1月号)
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2016年1月9日 新潮ミステリー大賞(2016年1月号)
2015年12月9日 島田荘司推理小説賞(2015年12月号)
2015年11月9日 江戸川乱歩賞(2015年11月号)
2015年10月9日 小学館文庫小説賞(2015年10月号)
2015年9月9日 野性時代フロンティア文学賞(2015年9月号)
2014年10月9日 横溝正史ミステリ大賞(2014年10月号)
2014年9月9日 野性時代フロンティア文学賞(2014年9月号)
2014年8月9日 小学館文庫小説賞(2014年8月号)
2014年7月9日 日経小説大賞(2014年7月号)
2014年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞(2014年6月号)
2014年5月9日 日本ミステリー文学大賞新人賞(2014年5月号)
2014年4月9日 小説すばる新人賞(2014年4月号)
2014年3月9日 日本エンタメ小説大賞(2014年3月号)
2014年2月9日 小説現代長編新人賞(2014年2月号)
2014年1月9日 江戸川乱歩賞(2014年1月号)
2013年12月9日 日本ホラー小説大賞(2013年12月号)
2013年11月9日 鮎川哲也賞(2013年11月号)
2015年7月9日 日経小説大賞(2015年7月号)
2015年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞(2015年6月号)
2013年10月9日 小学館文庫小説賞(2013年10月号)
2013年9月9日 野生時代フロンティア文学賞(2013年9月号)
2013年8月9日 日本ラブストーリー大賞(2013年8月号)
2013年7月9日 ゴールデン・エレファント賞(2013年7月号)
2013年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞(2013年6月号)
2013年5月9日 日本ファンタジーノベル大賞(2013年5月号)
2013年4月9日 小説すばる新人賞(2013年4月号)
2013年3月9日 新潮エンターテインメント大賞(2013年3月号)
2013年2月9日 江戸川乱歩賞(2013年2月号)
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2012年8月9日 小学館文庫小説賞(2012年8月号)
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2012年5月9日 『このミステリーがすごい!』大賞(2012年5月号)
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2010年7月9日 日本ラブストーリー大賞について(2010年7月号)
2010年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞について(2010年6月号)
2010年5月9日 日本ミステリー文学大賞新人賞について(2010年5月号)