警察小説大賞(2018年3月号)

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2018.02.13

警察小説大賞(2018年3月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

警察小説大賞

今回は、小学館が発表した、今年が第一回の警察小説大賞について、紹介する。

九月三十日が締切(当日消印有効)でA4サイズの用紙に縦組、四十字×四十行で印字。百四十五〜百五十五枚で、手書き原稿不可。広義の警察小説であることが応募要件。

最近のミステリーは、密室殺人事件ものか刑事小説だけが売れる状況になっており、そういう出版界事情に完全に追随した新人賞だと言える。

となれば、数あるテレビの刑事ドラマのように、映像化しやすい物語でなければ新人賞を射止められないだろう。

だからといって、既にある先行作をなぞったような物語では「オリジナリティなし」で落とされる。

まずは、警察考証に詳しくなければならず、そのためには左の作品群を読むこと。

毛利文彦『警視庁捜査一課殺人班』『警視庁捜査一課特殊班』(どちらも角川文庫)、今井良『警視庁科学捜査最前線』、古野まほろ『警察手帳』(どちらも新潮新書)の四冊。

他に警視庁が舞台になる場合には佐々木敏『中途採用捜査官SAT、警視庁に突入せよ!』を入手すると冒頭に警視庁内部の詳細な見取り図が出ていて役に立つ。

新人賞選考の場合、一次選考担当の下読み選者が警察考証に詳しいとは限らない。警察考証が好い加減でも予選突破の可能性があるのと同時に、途轍もなく詳しくて、些細な警察考証間違いが原因で、問答無用で落選にされる可能性も存在する。

となれば、最も厳しい審査を想定して応募作を書かなければ、敢えなく落選して涙を呑む事態を招きかねない。

とにかく密室殺人事件ものと刑事ドラマが売れ筋の二分野であるから、密室殺人事件であって刑事ドラマである応募作が書ければ、おそらく、それがベストとなる。

ここで横溝正史ミステリ大賞受賞作家の河合莞爾(『デッドマン』で、第三十二回の大賞を受賞)作品の『ダンデライオン』を「こういう作品を応募作にしたら落とされる」悪見本として紹介するので、関心がある人は読んでみてほしい。

作品中に出てくる密室殺人事件のトリックは、なかなかの水準だが、警察考証に関しては完全に出鱈目。

警察考証間違いは『このミステリーがすごい!』大賞受賞作『警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官』(梶永正史)のように、意図的に間違えて物語のドンデン返しの伏線にするのならば許される。

しかし、『ダンデライオン』は作者の無知と不勉強を露呈しているだけで何の伏線にもなっていない。警察考証に無知な下読み選者なら通しても、熟知していれば問答無用で落選にするレベル。どこが間違っているのかを順次、列挙していこう。

①主人公の姫野広海は警視庁捜査一課の刑事で、階級は巡査。両親はおらず、富豪の伯母の家に住んでいて独身。
もう、この設定からして有り得ない。巡査では刑事になれない。
巡査長以上であることが必須。
そもそも、いきなり刑事には絶対になれない。
地域課、交通課、生活安全課、少年課などで実績を積んで、ようやく所轄署の刑事課に抜擢され、そこで手柄を立てて、初めて本庁の捜査一課に引き揚げられる。そこまでの間に確実に巡査長になる。
また、独身で自宅に住む我儘は許されない。「待機寮」という名前の独身寮に住むことが規則となっている。

②奇怪な密室殺人事件の捜査指揮を執るのが、三十四歳のキャリア警視管理官の斉木崇。
キャリア警視の管理官が捜査一課で殺人事件捜査の指揮を執ることなど、百%ない(捜査二課ならば有り得る)。
捜査一課は下から上までノンキャリアの叩き上げの牙城である。
仮にキャリアが来て指示しても、現場の刑事は小馬鹿にして言うことを聞かない。
ノンキャリアはいくら出世したところで大した地位には上がらない(地位が上がるほど激務になって、それに見合うほどは給料が上がらない)から、キャリアの機嫌を損じて昇進できないことなど、屁とも思っていない。

③捜査一課長が警視で、目下の管理官の言うことを何でも聞く。
捜査一課長は警視ではなく、警視正である。超激務なので、たいていの場合、一年で異動、新宿署など大規模署の署長になって勇退する。警察学校長などに就任する場合もある。
もう、捜査一課長の階級を警視としたあたりで、警察小説を書く資格はない。

④斉木管理官は捜査一課に来る前は公安部にいて、公安部べったりで、公安部の顔ばかり伺っている。
そもそもキャリアが捜査一課に来る人事異動自体が有り得ないのだが、公安畑の人間は、ずっと公安畑を歩いて刑事畑と行ったり来たりしない。
あと、これは些細なことだが、『ダンデライオン』には「木」の付く苗字の登場人物が異常に多い。
これは「ネーミング・センスが悪い」として選考時の減点対象にする選考委員が一部に存在するので、用心したほうが良い。
登場人物名は、実在の人物でない限りは一文字も重ならないのが鉄則(家族や親類を除く)と心得ておくべきである。

 
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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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