松本清張賞(2018年11月号)

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  • 文芸

2018.10.09

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

松本清張賞

 

今回は十月末が締切の松本清張賞について論ずる。規定枚数は、四十字×三十行で、百枚以上、二百枚以内。

私の教室の生徒は数名が応募して一次選考通過が一名、二次選考通過が一名、最終候補に残ったのが一名で、その一名となった川越宗一が、『天地に燦たり』で大賞を射止めた。処女作で受賞の快挙である。

私は本誌では「落選理由を探る」 というコーナーを持っていて、登場人物のキャラクター(特に主人公)に難がある場合には、ABCDEFの六段階評価をしている。C以上でないと予選突破できず、B以上でないと新人賞は取れない。 残念ながらD以下の評価を下すことが多い。

で、今回、予選突破した三人の応募作に、この六段階評価をしてみると、一次選考通過はC、二次選考通過はB、『天地に燦たり』はAだった。二次選考通過作は、Aランクの応募作がない低レベル の回ならば受賞しておかしくない水準に達していた。『天地に燦たり』とぶつかったのが不運だった。

この結果を見て、いかに最近の新人賞選考がキャラクター重視になっているかを改めて実感した。

『天地に燦たり』は八月十八日の朝日新聞の書評欄で、ベテラン作家・飯嶋和一の『星夜航行』と並べて「秀吉の朝鮮出兵、二つの物語出現」と題して東工大教授の山室恭子によって論じられた。

飯嶋は二〇〇〇年に『始祖鳥記』で中山義秀文学賞、二〇〇八年に『出星前夜』で大佛次郎賞、二〇一五年に『狗賓童子の島』で司馬遼太郎賞を受賞している辣腕の時代小説作家である。その飯嶋に比肩して論じられている一事を見て も、いかに『天地に』の水準が高かったかが想像できるだろう。

川越は、登場人物のキャラ立ては最初から巧みだった。そうでなければ処女作でいきなりビッグ・ タイトル新人賞を射止めるなどという快挙を成し遂げることは不可能である。

川越の原稿の最初の問題点は、主人公(視点人物)の数が多すぎることだった。エンターテインメントは基本的に視点人物の目に見え、耳に聞こえる情景を基にして物語を書き進める。

視点人物の目と耳に入らない情報を書くことは、神様視点の手法で、これは現在では一次選考で落とされる。神様視点を可とする選考委員は圧倒的少数派である。

大勢の視点人物を出して、その全員のキャラを立てることはアマチュアの新人には至難の業である。

川越は、これが処女作だったので本来であれば単独主人公にするように勧める。が、秀吉が朝鮮に攻め入った文禄慶長の役がテーマというスケールが大きな題材なので、それは不可能。

で、三人主人公を勧めた。山室の書評に「島津の侍大将と朝鮮の下層民と琉球の密偵。国もバラバラ、遠く離れた軌道上にあったのに、戦雲に巻かれてじわじわ近づいて、さいごは三連星として引かれ合う。凝ってる」と絶賛された三人、島津の大野久高、朝鮮の白丁の明鍾、琉球の真市である。

仮にABCDの四人主人公だとしよう。視点人物の登場割合は可能な限り均等でなければならない。

多視点応募作で新人賞を狙うアマチュアの場合、「視点人物の登場割合は可能な限り均等」という基本を知らずに書き、極めてアンバランスになっている事例が多い。

それでは一次選考で落とされる。

『天地に』のような三人主人公の物語の場合には、理想は等比率だが、アンバランスになっても4:3:3までで抑えたい。5:3:2とか、4:4:2では予選落ちの憂き目を見る可能性が高い。

『天地に』を三人のキャラに着目するのと同時に、三人の登場比率をチェックしながら読んで欲しい。

壮大なスケールの物語でビッグ・タイトルの新人賞を射止めようと野望を燃やしているアマチュアには、必ず参考になる。

同時に、私の指導で川越が視点人物から外したのは誰だったのかを、推理してみてほしい。これは、それほど難しい作業ではない。

で、そのABCD構成にした場合の登場比率を計算してみると、最低でも3:3:2:2なければならないのが、そこから大きくアンバランスに傾く(つまり予選落ち)ことが見て取れるはずである。

また、主人公の三人のキャラについて言えば、三人とも強い意思と信念と思想を持っている。

これが、選考委員にキャラを評価されるには極めて重要である。

複数主人公にしながら、その全員が同じ思想で同じ方向を向いていたのでは意味がない。

『天地に』の主人公三人が見ているのは全く別方向で、堅く信じるところも、まるで違う。

それでいて、誰かが正しく、誰かが間違っているわけでもない。安直な善悪対立ではないのだ。

『天地に』の選評は文藝春秋社のサイトで読むことができるので、今回の当講座の文章と照らし合わせて読んで、松本清張賞狙いの〝傾 向と対策〞としてもらいたい。

 
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若桜木先生が送り出した作家たち

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近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

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角川春樹小説賞 鳴神響一(第6回)
C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
ゴールデン・エレファント賞 時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞 梓弓(第42回)
歴史浪漫文学賞 扇子忠(第13回研究部門賞)
日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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2010年8月9日 『幽』怪談文学賞長編賞について(2010年8月号)
2010年7月9日 日本ラブストーリー大賞について(2010年7月号)
2010年6月9日 『このミステリーがすごい!』大賞について(2010年6月号)
2010年5月9日 日本ミステリー文学大賞新人賞について(2010年5月号)