ミステリー系新人賞の〝傾向と対策〞(2019年1月号)

  • 結果発表
  • 文芸

2018.12.07

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

ミステリー系新人賞の〝傾向と対策〞

前回この講座で取り上げた『屍人荘の殺人』を例外として、近年ではミステリー系新人賞の受賞作でベストセラーにランクインする作品が、ほとんどない。

で、特に日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作の売れ行きが芳しくないようだ。

そこで、今回から三カ月連続で、日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作を俎上に載せて論ずる。

まずは第十九回(二〇一六年)の受賞作『星宿る虫』(嶺里俊介作。この回の応募総数は、百七十二編)である。

嶺里は受賞第一作が二〇一八年に双葉社から出ているだけで、受賞以前には、文芸社から一冊、出ているが、たった三作しか作品がない。これだけで、どれだけ受賞作が惨憺たる売れ行きだったのかは、想像がつく。

さて、肝心の受賞作の『星宿る虫』に話を進めると、私には、なぜこれが受賞作なのか、理解できなかった。

私が選考委員なら躊躇なく落選にしている。考えられる受賞の理由は、競合作に全く大した作品がなく、光文社の営業上の理由から「該当作なし」にしたくなかったので、応募作の中では多少はマシな部類だった『星宿る虫』をグランプリに選んだ、といったところだろう。

が、そういう選考姿勢は賞の権威を落とすばかりで、一向に売れ行きには結び付かず、遂には賞自体が、読者から見放される。そのことは、当講座でも何度も苦言を呈しているのに、光文社の編集部では全く理解していないようだ。

受賞作に選ばれただけに、文章力は、まずまず。が、それ以外には、良いところが何一つない。

で『星宿る虫』の欠点を列挙していくので、ミステリー系新人賞に応募しようと考えているアマチュアは〝傾向と対策〞の参考にして欲しい。

①アイディアが陳腐。

人間に卵を産み付けて、体内から食い尽くして遂には骨だけにしてしまう虫と、いかにも怪しい宗教団体《楽園の扉》の組み合わせという、ほとんどオリジナリティを感じない設定。

宗教団体のほうは、オウム真理教事件以来、山ほど送られてきたカルト宗教ものと同工異曲だし、人体を食い尽くす異生物は、シガニー・ウィーバー主演で四作まで制作された『エイリアン』や『遊星よりの物体X』『遊星からの物体X』からのパクリ。人間を食う異生物を光る虫に変えているだけで、唸らされる捻りが何もない。

『屍人荘の殺人』のように、「おいおい、ゾンビを、そういう使い方をするのかよ!」と唸らされる驚きが何一つない。

また、昆虫が人間を襲ってパニックになる、という点では『このミステリーがすごい!』大賞の二〇〇三年(つまり『星宿る虫』の三年前)の受賞作『生存者ゼロ』(安生正)よりも格段に劣る。

後発作品が先行作品よりも劣ったのでは、全く売れないのは、当然。(『生存者ゼロ』は五十五万部の超ベストセラー)

②主人公に魅力がない。

『星宿る虫』の主人公は法医昆虫学者の御堂玲子と、その甥で、大学でロボットの研究をやっている学生の天崎悟だが、二人のキャラをA〜Fの六段階評価すると、御堂玲子がC、天崎悟がDかE。

よくこれで予選突破できたものだと呆れる。要するに作者の嶺里は全然キャラの立て方が分かっていない。

光文社から第二作が出ないところを見ると、編集部も見放したのではないか。このままでは確実に遠からず文壇から消える。

法医昆虫学者という点では江戸川乱歩賞受賞作家の川瀬七緒が『147ヘルツの警鐘』を皮切りに『法医昆虫学捜査官シリーズ』六作を出しているが、『星宿る虫』は格段に劣る。川瀬作品と読み比べてみれば、どこが悪いのかが、見えてくるだろう。まあ、悪いところが見えたからといって、それを自分の作品に活かせるかとなると、また別問題だが。

③視点人物が多すぎる。

主人公の御堂玲子と天崎悟の他に死体の発見役などで〝使い捨ての視点人物〞が出て来る。

これは、どうしても他の方法を思いつけない場合には、冒頭で一回だけ使うのは許される。

しかし、ストーリーが進行してからも安直に使ったらいけない。

主人公の御堂玲子の登場が遅すぎる。副主人公の天崎悟が先に登場するのだが、主人公のキャラが駄目な上に、もっと駄目な副主人公を先に出す物語構成は、もう、ミステリー創作の基本がなっていないとしか、言いようがない。

こんなのは担当編集者が直させなければいけないが、よほど腕の悪い新人編集者でも付いたのか。

『星宿る虫』のように複数の視点人物が出る物語では、視点が切り替わったら、一行目で誰が主人公になったのかを明らかにしなければならない。これはエンターテインメントの小説作法の基本中の基本だが、『星宿る虫』では、かなり読み進まないと、誰が主人公なのかが明確にならない〝出し惜しみ〞手法を採っている。

読者に最も嫌われる書き方で、これも担当編集者が直させなければならないが、ひょっとして編集者も、出し惜しみで情報を小出しにしたほうが読者に受けるとでも勘違いしているのだろうか。

大金を払って駄作を読まされる読者は、たまったものではない。

 
 
 
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日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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