刑事ドラマの警察考証間違い3(2017年11月号)

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2017.10.05

刑事ドラマの警察考証間違い3(2017年11月号)

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刑事ドラマの警察考証間違い3

今回も引き続きテレビ刑事ドラマに例を取った、警察考証に関しての注意点を述べる。

江戸川乱歩賞受賞作家の鳥羽亮氏原作の『警視庁南平班~七人の刑事』の第九回が惨憺たる出来映えの駄作で、監督も脚本家も警察考証に対して無知なことを露呈した作品。

刑事ドラマのワースト1に挙げても良いくらい出鱈目。人気があるのか、再放送の頻度が高いので、放送時に、当講座の文章を手元に置いて見比べてほしい。

七年前に起きた、箱根観光大使の女性に対する強盗殺人事件の犯人として逮捕されて、無期懲役の判決が下り、直後に拘置所内で首吊り自殺をした寄木細工の職人の
冤罪を晴らすべく職人の兄妹が杜川神奈川県警本部長の娘を誘拐して身代金を要求するというのが事件の発端。

身代金要求は兄妹の真の目的ではなく、その辺りは物語の進展と共に判明してくる先の読めない物語展開で、警察考証に無知の人なら楽しめても、とにかく警察考証(特に人事が)が、あまりにヒド過ぎる。

直ちに捜査本部が立ち、捜査指揮を岩城刑事部長が執るのだが、この岩城は以前に、捜査一課警部の南部平蔵こと南平の部下として事件捜査のイロハを叩き込まれたという設定である。

だが、キャリアが捜査一課に配属されることなどないし、見習い期間を終えた段階で警部になっているから既に中間管理職で、聞き込み捜査に携わったりなどしない。

岩城は当時の縁で、南平に捜査の陣頭指揮を委ねるのだが、南平は、殺人犯捜査が専門の強行犯係である。誘拐事件は専門外で、第一特殊犯捜査に委ねるのでなければならない。

また、誘拐事件で捜査本部は立たない。立つのは、前線指揮本部で、犯人が身代金をどこへ運べと要求を突きつけてくるか読めないから隣接の千葉・埼玉・山梨・群馬・長野・神奈川・静岡の他県にまで跨がる、広域捜査態勢が採られる。その手配の様子が全然ない。

七年前の殺人事件の犯人は、当時の神奈川県警本部長であった、今は警察庁次長の藤丸の息子。

箱根観光大使表彰式でグランプリになった女性の美貌に目を止めて、帰路を襲って拉致し、別荘に連れ込んで、強姦しようとした。それが、激しく抵抗されて、弾みで殺害してしまったもの。

狼狽した息子は藤丸に泣きつき、藤丸は事件現場を所轄する所轄署の杜川署長と刑事課係長の清水警部補を呼んで、昇進と引き替えに事件の隠蔽工作を指示した。

杜川と清水は、忠実に実行して、まんまと寄木細工の職人を殺人犯に仕立て上げる冤罪デッチ上げに成功し神奈川県警本部長の地位と副署長の地位を得た||が事件の真相だが、警察の人事からして、こんな馬鹿げたことは有り得ない。

そもそも神奈川県内の警察官人事は県警本部の警務人事一課と二課が担当しており、本部長の干渉などは受けない。

これは上川隆也主演の『陰の季節』を見れば明白。

キャリアの本部長は長くても三年しかおらず、他府県に異動していくか、警察庁に戻るかだから、不条理な指示などは面従腹背で聞き流す。

神奈川県警クラスの大規模警察の本部長が七年後に警察庁次長になるのは、過去に実例がいくらもあるから不自然ではないが、署長が七年後に本部長になる人事は有り得ない。

このドラマの署は大規模署なので署長は警視正。県警本部で課長とか理事官、管理官を務めた人間が定年を間近にして異動するもので七年後には警察にいなくなっている。

また、小規模署だと署長は警視で、このポジションには若手キャリアが就く事例もある。それでも、七年後に大規模警察の本部長には、絶対になれない。

大規模警察本部長(階級は警視監)の七年前は、小規模警察の本部長で階級は警視長。警視よりも二階級上である。

とにかく、大規模警察の本部長になるには、警察庁を経由するか他県の本部長を経由する。同じ県内での昇進など、百%ない。

また、この物語では南平が七年前の事件に真相に近づきそうになると藤丸は警察庁次長の立場を悪用し、次々に妨害する指示や命令を出して、それでもなお南平が従わないと見るや、南平に謹慎を命令して警察手帳を取り上げる。

警察考証に無知なら面白がる場面かも知れないが、次長といえども、こんな権限はない。

南平を取り調べて処分を下すのは警察庁長官官房首席監察官の警視監である。

次長と階級は同じで、次長が無茶なことをやれば、首席監察官の捜査対象となる。

また、南平の後輩という設定の、岩城刑事部長だが、これは警視監の階級で、五十歳を過ぎていなければ絶対に昇進が不可能なポストである。

しかも十年後には、警察庁長官になっている確率が高い(警視総監は公安部系統の人が就く事例が多く、刑事部の系統から出た警視総監は、ほとんどいない)。

ところが、この物語では四十一歳の俳優が刑事部長を演じている。
しかも若作りで、見掛けは三十代の半ばにしか見えない。
こういう箇所でも監督も脚本家も恥ずべき無知を露呈している。

 
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若桜木先生が送り出した作家たち

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近藤五郎(第9回佳作)

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C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
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わかたけまさこ(第3回特別賞)

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歴史浪漫文学賞 扇子忠(第13回研究部門賞)
日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

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